凸凹三名散歩中
「──────ほぉぇぁあ……」
然して、あてどなく空を往くこと暫し。
「なんや、初見やあらへん言うてたやろ」
「口ぽかーん」
完全お任せサファイア便の気が向いた方角は、真北。それでもってふと思い付き、チラッと馬鹿景色を眺めに行くかと訪れた場所……。
【セーフエリア】が抱く大鐘楼より、五百キロの地点にて。
「いや……いや、そりゃこんなん何回見ようが口も開きっぱになるだろ……」
俺たちは、悠然と出迎えた果てしない光景を前にしてそれぞれ。観光客らしい気の抜けた言葉を現実味の存在しない空間へと浮かべていた。
北陣営の前身────遥かな過去『自由なる空の国』と呼ばれたノルタリアが存在していたとされる、見渡す限りの大窪地。……それを、満たす、
「……こっっっっっっっっっっわ。ぜってぇ近付きたくねぇ」
「水中恐怖症、らしい」
「なんで来たねんアホなんか」
一杯の、水面。
それは大地に描かれた巨大な真円、不自然極まる水溜まり。どこからか流れてくるでもなく、どこへなり流れていくでもなく、ただそこに在り続ける膨大量。
特筆すべきは、その水色。
ファンタジーらしい青々でもなく、ゲームらしい透明でもなく……真っ黒。ノルタリアの陣営カラーに喧嘩を売る闇一色が静謐に、音もなく風による波紋だけを映している様を見て「不気味」以外の感想が出ることはない。
少なくとも、俺はない。超怖い。
あの下にどんな世界が広がってるかとか、想像すらしたくない────
「噂には聞いとったけど、自分それで〝水〟適性なんか。ギャグやん」
「セルフで溺れてたりするのに、ね」
と、トラ吉の言う通りに非初見。いつだかソラと一緒にチラ見しに来たことはあるのだが、やはりというかなんというか抱く思いは寸分違わず。
いやはや、そんな平気な顔していらっしゃるがよ。
「じゃあ、お前らアレに飛び込めんの?」
「それは話が違ってくるやろ」
「絶対やだ」
って、なるだろ? そりゃそう。見通しの利かない水の底なんざ人類共通不変の恐怖よ。トラウマ持ちの俺に限った話ではない拒否案件だろう、そうともさ。
「……ちなみに、別に俺『水』とか『水中』それ自体が怖いわけじゃないからな。水中でエンカウントする生き物ってか魚類系統がダメなだけだから」
「なんでやねん」
「アイツら目がヤバいから」
「どないやねん」
「……目が無ければ、大丈夫? クラゲとか」
「連中はダメだ。刺してくるじゃん、超怖い無理」
「魚類ちゃうやんけ」
「貝類」
「流石に舐めんな? シャコ貝クラスでもなければ大して怖かねぇわ」
「強がりになってへんぞ。気付いとるか?」
────然らば、とかなんとか馬鹿話に花を咲かせつつ。
「はいオーケーもう十分ホラースポットは満喫したよなヨシ次へGO!」
「なんやねん。俺らが連れてきたみたいに言うとるぞコイツ」
「情緒不安定。かわいい」
「……そこ自分、ほんまに『かわいい』で合っとるか?」
颯爽と踵を返し、お利口に後ろで待っていた愛しき僕の背中へカムバック。無気力顔と呆れ顔、各々の視線を向けつつも俺に続いた二人を待って、
「さて、んじゃまたどこに行くかー」
飛翔、再び星空の仲間入り。
言うまでもなく当然の権利とばかり我が胡坐の内へ納まった自称妹の頭を手慰みでポンポンやりつつ、恐怖の根源たる風景から視線を切って向くは彼方。
────なお、勿論のことだが。
「ちなみに、攻略予定あったりせぇへんのか? リーチ掛けた張本人」
真円の水面、その中心部。
音もなく姿成す〝渦〟が抱える光、それ即ち異空間への扉については……。
「無いッッッ!!!!!」
「迫真やんけ」
残念ながら俺の管轄外ということで、過去現在未来において一切の関与はしないものと断じさせていただく。当たり前、誰が挑むかってんだよ。
『ご自由に溺死ください』とかなんとか、ふざけた渾名の無理ゲーなんざ。
ちょいキリよく短めカット。
夜にも更新できたらいいですねって思いました。




