自由謳歌
さて。いろんな意味で……そりゃもう、個人的なことを含め様々な意味合いにおいて特記事項満載激動の時となった数ヶ月を駆け抜けて、今。
昨年末の第十二回『四柱戦争』を終えて、年を越えて、ようやく。本当に久々と思えるような〝暇〟が、とりあえず一月末辺りまでは生まれたわけだ。
どうせアレやコレやとイベントはチラホラ生えてくるだろうが、とりあえず大きな予定や必須事項が存在しないというだけで心のゆとりは変わってくる。
自由……そう、いつぶりか、真に自由な時間だ。
これ以上ない迫真の開き直りとはいえ、己が心も覚悟を以って道を定めた今。悩みや憂慮がゼロとは言わないが、完全ポジティブに挑めるようになった今。
俺の前には、自由がある──────!
と、なったらさ。
「────ぃよっ! お待たせい!」
とりあえず何も考えず、ダチと遊びにでも行くかってな具合で。
誕生日会を終え、十席会議を経て、アーシェは年明けて早速のこと忙しなくしているしニアは親友に連れ出され不在だしで一人寂しく夕食を済ませた後。
現実時間では夜九時前。若者にとってのゴールデンタイム真っ只中。
いたから適当に声を掛けたら秒で釣れた友人との待ち合わせ場所。【隔世の神創庭園】は【セーフエリア】の隅っこに在る建物の屋根上へと降り立てば、
「おう、来たか」
返る言葉は、夜の帳を下ろし始めた空を眺め黄昏ていた〝虎〟一匹より。
今日も今日とてツンツン頭。ライダースーツめいた黒革上下にトラ柄ブルゾンの装いと併せ、初対面では子供に泣かれそうなパンチ感のある外見。
「珍しやないか。自分の方から声掛けてくるんわ」
「当方、自由な身になったもんで」
「なんやねんそれ。おめでとう?」
その実、愉快な名前を愛嬌とする単なる面白お兄さん。
そのもの我が友タイガー☆ラッキーは、話せば伝わる気の良さを笑みと共に滲ませて────……早数秒。物凄い勢いで、その眉根が寄っていく。
しかめっ面というか、純粋な困惑顔。然らば虎は、意外や繊細な気遣いもこなす胸の内にて『ツッコミ』の是非を協議していたのだろう。
また数秒を置いてから、
「…………えらい、目立つ荷物、持って来たやんな?」
他でもない、我が腕の中。登場からずっと抱えている、そりゃもう目立つわデカいわ喋るわと気ままを体現する『荷物』を示して苦笑い。
然らば俺のアンサーは、諦め先行の笑顔で────
「連れてかないと酷い目に遭わせるって脅さべッ」
「────そんなこと言ってない」
言い切ることも、許されず。下方より『荷物』……もとい文字通り会議時から続けてガッチリくっ付き離れようとしなかったリィナに口を塞がれ、
「……お祓い行った方がええんちゃうか? なんか憑かれとるやろ、その女難」
実に失礼な心配を、トラ吉より賜り一幕。
世にも珍しいメンバーによる、夜更かしタイムが始まった。
◇◆◇◆◇
「────っはー! やっぱタクシーあると楽やなぁ!」
「誰がタクシーだ。サフィー様と崇め奉れ」
斯くして街を飛び立ち、夜の空。巨大で明るい真円の月が照らす雲の上。絶えず動き回る輝きが賑やかす、星の海に溶け込む『竜』の背上。
目的地なんて別にない。「とりあえずどっか行こうぜ」で異議なく外へと飛び出してから暫く、何も考えぬままサファイアの気が赴くままに運ばれていた。
俺が腰を下ろすのは首元指定席。燦然と輝く名前の由来に手が届く、お決まりの場所。一方トラッキーは初乗りにも動じず、普通に立って背中の上をウロチョロ。
「お前、騎乗スキル持ってたの?」
「あ? んなもん持ってへんわ」
「ならどういう体幹してんだよアホか」
と、ツッコミを入れたなら。
「お兄さんが言えることじゃない」
腕の中よりツッコミ連鎖。進化後も《月揺の守護者》時の能力を失ったわけではない《星月ノ護手》の加護に守られ、飛行時の風圧その他諸々がレジストされているがゆえ安らかな顔をしていやがる自称妹からの贈り物だ。
もうなんというか、本当に駄妹化が止まることを知らないが……。
「おう言うたれリィナ。毎度毎度きっしょい動きばっかしよってからにと」
「きっしょい言うなや単純悪口だぞテメェ」
重ねて既に諦めているし、なんだかんだで『序列持ち』という広い範囲での身内には周知からの呆れ、更には嚥下までのプロセスが終了してしまっている。
ので、処置無し。今更もう気にするのも馬鹿らしいってやつだ。
ってなわけで、今この場で俺が気になるのはどうでもいいってかどうにもならねぇ天上天下唯我独尊勝手気ままな駄妹事情などではなく────
「お前ら、意外と話せる?」
案外普通に話せるっぽい、猫科&アイドルの仲について。
「話せる、というか」
「どっちも序列古参組やからなぁ。そりゃ何度か絡みくらいあるわ」
と、言われたならば「そりゃそう」と頷くしかない至極普通の理由。いやそういうんじゃなくて、なんてーかこうタイプ相性的なモノを聞いたんだけれども……。
「ミナリナ、おもろいから嫌いやないで」
「私も別に。『兄』にしたいタイプじゃない、けど」
「っは、下に憧れはあるけどなぁ。上ばっかやし俺に兄ちゃんは合わへんわ」
なんて、俺の内心を読み取ってのことではなさそうだが────
「上ばっか……兄と姉アリ、末っ子?」
「話してへんかったか? せやで。意外やろ」
「初耳、ちょっと意外。弟とかいそうなのに」
「よく言われるわ。面倒見いいからとかなんとか、そんなつもりあらへんのに」
「お弟子さん取ってる」
「マルか。弟子ゆーても対等やで? アイツのが後に来たってだけで、最初にアレコレ教えたってからは学び合いや。いつ序列抜かれるかもわからんしなぁ」
「相変わらず、興味なさそう」
「まあな。数字はどうでもええわ」
────本当に意外や意外。
披露してくれた会話を聞く限り、どうも相性は悪くないらしく。
「ぁん? なにボケ面かましとんねん。来いや、入って来いやハゲ」
「誰がハゲだ」
「……おハゲは流石に『兄』でも愛せない、かも。頑張って」
「何に対しての頑張ってだよ安心しろ遺伝的に多分ハゲねぇから。心配すべきはあっちの頭皮に悪そうなツンツン茶髪だろ黙祷して差し上げなさい」
「わかった」
「わかったちゃうねん兄妹揃ってケンカ売っとんのか現実はサラッサラやわ」
「サラサラのトラ吉……?」
「解釈違い。変」
「おい『変』こそ超直球の失礼やろ!」
始まったばかりの三人行。
どこへ行くとも知れないが思いの外、楽しい夜更かしになりそうだ。
父方も母方もハゲ率が極めて低。
プラス神の御加護でハゲ縁遠し。
トラッキーは




