あけまして円卓
────まあ、とはいえ、だ。
「お、来たな【星架】」
「重役出勤か。いい御身分だな【星架】」
「やっほー【星架】お兄さん!」
再び名が身に馴染むまで、こうした不可避のムズ痒さとは上手く付き合っていかねばなるまい……ってな具合で、友人の誕生会から時遷りて夜。
「……怒涛の弄り、やめていただける?」
ワールドサイド仮想世界。三が日を跨いで置かれていた予定に従い、足を運んだのはイスティア戦時拠点【異層の地底城 -ルヴァレスト-】は東の円卓。
転移するや否や出迎えたクラクラ呼びに半眼を返せば、しかしそれこそが目当てのリアクションとばかり先輩方を喜ばせただけだった。
ってか、
「お前まで乗っかんなや。くっそ【無双】にもルビ振っとけよシステム……」
「っは」
「なんに対して鼻で笑ったの?」
ゴッサンとミィナはキャラ的にギリ諦せるとして、間に挟まっていたブロンド侍が赦されざる。コイツも【無双】とかになってりゃ良かったんだ────
……とかなんとか、
嘲笑の癖に爽やかという矛盾を成立させる極めて腹立たしい涼やかイケメン二刀修行馬鹿と、戦う前から勝敗の決している睨み合いに興じていると。
「────よう【星架】」
「……お、なんだぁ? 構ってほしいのか先輩?」
正面、円卓の席を埋めている姿は計七つ。
後輩弄りに余念のない三人プラス、チラと視線を寄越しただけのお澄まし後輩一号にヒラヒラ手を振ってくれた雛世さん。
そして今日も今日とて元気に瞑目しているゲンさん。最後に、第一位の玉座よりニコニコほわほわ至高の微笑みを以って俺を出迎えていたお師匠様。
んで、もう一つは転移到着と同時に腹へ突進してきた駄妹として……。
「ぁ? ぶっ殺すぞ」
「新年から絶好調かよ」
横合いからの毒舌。一人だけ席に着かず超カッコイイ感じで壁に凭れていた【銀幕】との『新年のご挨拶』は、極めて和やかに遂行された。
とまあ、絶好調ゆらちょろは置いといて。
「よっこいせ」
「……お前さん、貫禄出てきたのはいいけどよ」
「動じなさ過ぎるのも、どうなんだ君」
囲炉裏の隣で、ゴッサンの隣。これまた慣れない位置の席に荷物を引き摺ったまま腰を下ろせば、その両サイドから呆れの声を順に頂戴。
対して、俺が返すは一言だけ。
「言って聞くとでも???」
「「…………そうか」」
はい沈黙。なんか当然のように膝の上に収まった荷物に関しては、もう気が済むまで放置しとくってのが今までに学んだ最善手だ。
最善手────ってなことで、
「あー……ま、そんじゃ始めるぞ」
順位は変動すれども、東陣営の頭は変わらない。四位の席から音頭を取る我らが【総大将】の号により改めて……『イスティア新年の御挨拶』が始まった。
◇◆◇◆◇
「────ってぇわけで、連絡事項は以上。そんなもんだ」
「つまり特にナシじゃん」
「ヤメロお前。折角それっぽく十分少々も語ったのが馬鹿みてぇだろ」
ということで、おおよそ十分少々。新年会から改めての『あけましておめでとう』から始まったミーティング一発目は、大体ミィナの一言が全てだった。
つまるところ、最初から最後まで全部合わせて、重ねて『あけましておめでとう』&『今年もよろしくお願いします』である。ハイこちらこそ。
「いやまあ、ぶっちゃけそういうこった。十日の第二次新年会を除いて直近の予定は特にねぇ。『鍵樹』の方も……アレだしなぁ」
「今どんくらいなのー?」
で、移る話題は他でもない。
「マジで、あとほんのちっと……なんだがな。もう暫く掛かる目算だ」
現在最前に掲げている攻略目標────『鍵樹』百層扉について。
事前の予測では、ちょうど今頃にゲージが満ちているはずだったのだが……まあ、アーシェも『このまま行けば』ってな希望的観測込みで言ってたことだ。
クリスマスシーズン辺りからジワジワと進捗がペースダウンしていった結果、果てない高塔の〝扉〟は未だ完全に光が満たすまでに至っていない。
この分だと一月末になりそうと言ってたが────
「あぁ、けどアレだ。人選に関して一応は結論が出た」
「ちょっとパパ。あるじゃん連絡事項」
とかなんとか緩々な会合に突如、耳に新しい情報が転がり落ちた。自然、賑やかな小娘にツッコミを入れられた『パパ』は頬を掻きつつ、
「うるせぇ。お年玉やんねぇぞ」
「貰ったことないんですケド!」
おそらくは普通に忘れていたのであろうリアクションを返した。我らがオジジは相も変わらず、今年も愛嬌に溢れていて何よりである。
「それでゴッサン? 誰なの?」
然して東十席名物こと爺孫漫才を数秒ほど眺めた後、皆の姉役こと雛さんから問いが飛ぶ。人選……つまるところ〝扉〟の先へ赴くことになる六名。
アーシェ、俺、ソラで確定枠と言われていた三に併せる、あと三枠。
「あぁ────北からはトラ。そんでもって西からは、藍玉の嬢ちゃんだ」
内二枠についてが、大将の口から通達された。
さすれば……。
「妥当だな」
「まー、安牌かー」
「手堅いわね」
囲炉裏、ミィナ、雛さんと言葉による納得が並び、加えてゲンコツさんも瞑目したままウンウン頷いている。どうやらちゃんと今日も起きていたらしい。
物静か組のテトラ&ゆらも……ほぼ会議に参加する気ナシと見える後者はともかく異論なさげ。勿論のこと俺も『だろうな』としか思えないため文句ナシだ。
お師匠様は玉座でニコニコほわほわ継続中。基本的に賑いを見守るのが好きな人であるため、必要なとき以外に発言しないのは普段通りのこと。
ご機嫌麗しいようで何よりである────なお残る駄妹は神経太く幸せそうな顔して人の膝上で微睡み始めていた。デコピンしてやろうかコイツ。
「で、NPCは?」
「それについても決まってる。まだ本人には依頼の確認が取れてねぇが……」
なんて、半眼を下へ向けていた俺の方へとテトラの質問に応答したゴッサンの視線が向く。あぁ、はい、成程ね把握した。
「うちの騎士殿?」
「だな。お前さんとは信頼と連携の土台があるだけじゃなく、守りに秀でる純タンク型ってのが都合いい。直接戦闘は四人が受け持つとして……」
「あぁ、護衛役」
「そういうこった」
とのことらしい。わかりやすく、それでいて手堅い……というか、ある程度の安心を確保できる采配と言えよう。
言っちゃなんだが、プレイヤーパーティに加わるNPCというのは最難関規模が予想されるレイドにおいて不安感を避け得ぬ不確定要素。なにがどうなるか一切の情報がない以上、バチバチに連携に組み込むよか単駒で動いてもらう方がいい。
少なくとも、予めそうと考えておいた方が不測の事態に対処が効きやすい。
彼に職人枠……おそらく、まだ決定の通達がされていないであろう哀れなニアちゃんを護衛してもらえるのであれば、俺たちも心置きなく戦えるだろう。
いやまあ、わかんないんだけどな。〝扉〟の先に『戦い』が待っているのかは。
……けれども、ともかく、さておき────
「お兄さん」
「んぇっ、なんだ。起きたか」
────と、下方より声。視線を向ければ、俺の顔を見つめる水色の双眸。然らば、さてどうしようかな、改めてデコピンをくれてやろうかなと考える間に、
「……楽しみ?」
なんて、自分が可愛いのを理解し尽くしたモーション。小首を傾げつつ、ほんのりと笑みながら、見上げる透き通った瞳の中には……。
「まあ、な」
まだ少し、もう少し先。しかし確実に近付いている攻略を待ち侘びて、
生意気な笑みを浮かべる、俺がいた。
しれっとパーティ入り決まったニアちゃん可哀想。かわいい。




