名前の意味
────で。
祝いの音頭を経て、各々からの贈り物が行き渡り、さあ飲むぞ食べるぞ騒ぐぞと相成ればBGMには如何なるアレが抜擢されるのか。
そんなものは、言わずもがな。
『よう、アーシェ、来たぞ。────五日遅れのサプライズプレゼントだ』
「「はいカッケー!!! Fuuuuuuuuuuuuuuuuuuッ!!!!!」」
「いやうるさ……。何回リピートすんだよ、飽きないね君たち」
「ふー」
「美稀も馬鹿二人に合わせんでよろしい。…………楓さん? なにしてんの」
「ぇっ、やっ、あの……! な、なんか、動悸が……っ!」
「頼むから落ち着いてくれ。こんなアホ騒ぎで寿命を縮めてくれるなよ……?」
と、コレである。
なおパーティが始まってからの経過時間は既に二時間弱。つまりは当然、ホームシアタースクリーンに映し出されているシーン……先日の四柱における初っ端も初っ端のアレに四人が盛り上がっているのは最早、何度目のことか。
ついでに、
「ぁ゛っ゛……」
我が師【剣聖】迫真のウィンクで四條ご令嬢が撃沈するのも何度目のことか。
仮想世界で何かしらのイベントがあった後は、毎度ながら映像鑑賞会が不可避恒例。然らば今日も覚悟して来たので、もう俺としては別に構わないのだが……。
「希君」
「ん?」
────と、放っとけば永遠に楽しんでいるのだろう友人たちを眺めつつ、決して無いわけではない満更でもない気持ちを密かにツマミをぽりぽり。
そんないつものムーブで寛いでいる俺の隣に、絶えず瀕死の幼馴染を『最早処置無し』と放置して席を移ってきた者が一人。
今日も今日とて俺の百倍は眼鏡が似合っている美稀が、静かに声を掛けてきた。
「どした?」
然して、見放されたままソファで悶えている楓を横目に苦笑い一つ。
ひとまず馬鹿二人に先んじて見どころ無限リピート地獄に満足したのだろう。表情薄め、しかし確かに『堪能した』といった様子の彼女へ首を傾げて見せれば、
「大したことじゃないけど、動画のタイトル。……とか、諸々。どうする?」
「ん? どうするとは」
おふざけの延長でないことは容易く理解できる真面目トーン。
しかし、やや唐突な切り出しに反射で再び首を傾げつつ。そのまま『なんのこと』と疑問を口に仕掛けたところで思考が至った。
斯くして、美稀が追加した文言と俺の理解は同時に。
「【曲芸師】……【星架】に差し替えておく?」
「そーれ、なぁー……」
と、プロデューサー様の確認は実際のとこ早い内に対応を決めとくべき案件。まさかまさかで変わってしまった俺の〝称号〟についての相談だ。
「【Clown・Archive】は、そのままでもいいとして……、……? いや、違う?
今のクラウン、きっと『道化師』より『冠』って意味が強調されてる、よね」
「あー、やー、まあ、そこは別に、道化師のままでも……」
……んで、はい。我ながら歯切れが悪いというかなんというか、煮え切らない反応を見せてしまい今度は美稀が首を傾げる番。
いや、まあ、なに? ほんと、なんというか……────
「正直、さぁ」
「うん」
なんというか……なぁ?
「…………新しい方、全ッッッッッッッッッ然、こう、馴染んでこないというか」
「……そう、なの?」
【星架】────……ほしかけ?────……せいか?────完全なる当て字である〝クラウン〟以外の読みが判然としない点も含めて、
称号変更から数日が経った今も、俺の中で新たな名が嵌まっていない……というかなんというか、もうぶっちゃけた話、
「………………【曲芸師】が、最終的には気に入ってた……ん、だろうなぁ」
「あぁ……」
と、そういうことだろう。
世間に関してはクラウン、クラウンと初期の頃から囃し立てていたものだから違和感も薄いのかもしれないが、俺にとっては他ならぬ【曲芸師】だったわけで。
思いの外、愛着があったのだと思う。
それに加えて〝クラウン〟はともかく、新たな名となった文字の並びに関して俺が俺自身のイメージと無限に噛み合わないと思ってしまうものだから……。
「んぇ、なに? ノゾミン新しい称号ご不満なのー?」
「そうなん? いいじゃん、普通にカッコよくね?」
とまあ、重ねて。俺以外にはウケも悪くなさそうなんだけどな、と。
別にシステムの命名に文句を言っても仕方ない、今更のことだ。それゆえ周囲からの好評と共に個人的なモヤりを呑み込むのも吝かではない。
「────え、と……」
ってか、納得する他にない。別に俺だって『嫌』とまで言うつもりではないのだし……とかなんとか思いつつ、やはり微妙な顔ではあったのだろう。
翔子と俊樹に続いてシアターから意識を外し、声音を上げ会話に入ってきた楓の方へ目を向ける。然らば素直純真な令嬢様は、律儀に挙手で発言の意を示した後。
「どっちも、あの……────希君らしくて、素敵だと思う、よ?」
俺が思う『俺っぽくない』に対極的な意見を、なんの疑いもなさそうに言う。
「そう、かぁ……?」
であれば、やはり首を傾げざるを得ない俺に、
「そうだよ。言葉は変わってるけど、伝わる意味は……うん。変わってないもん」
やはり、楓は謎に自信ありげなまま言う。────然して、
「あーはいはい。なんとなーく私もわかるわー」
「意味ってか雰囲気は、まあ、だよなぁ」
俺が言葉の意味を問うよりも先に、翔子と俊樹が同意を示してしまった。いよいよ以ってサッパリわからない……と、残る一人へも目を向けて見れば、
「……? うん」
美稀さんにも、頷かれてしまった。
「結局は、周囲の受け取り方を希君がどう受け取るか次第だとは思うけど」
「はい」
ついでに解説もしてくれるらしい。面と向かって普通に恥ずかしくなってきたのだが、胸のモヤを解消できるとあらばと大人しく聞いてみるとしよう。
そうして、耳を傾ける俺の様子を見た後に。
「────どちらも、他者が在ってのモノ」
美稀が口にした〝意味〟に、他の友人たちから反論は出なかった。
「楽しませる観客がいて初めて意味を持つ【曲芸師】も、繋ぐ星が無ければ存在し得ない【星架】も……人が好きで人に好かれる、あなたらしいと思う」
「………………………………照れさせようと思って、言葉、選んでない?」
「選んだ」
なんて、仕舞いには揶揄われたが。
「…………うう……ん……、……いや、まあ…………そういう……………………」
成程、そういう。そういう見方も、あるものかと。自分以外から言語化を以って伝えられて、その上で改めて呑み込もうとしてみれば────
「つ…………────継いでる、感じは、なくもない……のか」
思いの外。
「……プロデューサー」
「うん」
「今までのは、そのままにしとこう。そんで、これからのは……」
あぁ、思いの外。
「……まあ、新しい方で。いっとこうか」
「うん。了解」
かつての名前のように。
これから好きに、なっていけるかもしれない。
どこぞの作者も【曲芸師】ロス。




