謹賀新年Part.2 &
さて、明けまして新年。
今に至っても『根が陰キャ』である自己認識まで撤回するつもりはない俺としては、ぶっちゃけた話が誰とも顔を合わせぬ寝正月も嫌いじゃない。
人に会わないことが好きとは言わないが、一人で静かに過ごすのは基本的に好きなのだ。寂しさは勿論のこと感じるが、それもまた乙ってな具合で。
どんだけ考え方や胸に積んだこと、背負ったものが変わろうが増えようが、当たり前だが人間のタイプなんて早々ガラッと変わりやしない。
だからまあ、それもまた己ということで。
仮に周りが同じタイプばかりだったのであれば、俺は三年ぶりに静かで怠惰な正月を過ごしていた可能性も……────あった、とは言えないな。
「っはーい! んでは新年、明けましておめでとう────か、ら、の!」
なぜって、
「 ハ ッ ピ ー ィ バ ー ス デ ー ッ イ ! ! ! 」
「声、通るなぁ……」
「本人の百倍テンションたけぇぞコイツ」
いつもの如くっちゃ、いつもの如く。
押し寄せるイベントが、その勢いを止める気配などないからだ。
────然して、当然のように昼過ぎ集合から夜中まで続いた『序列持ち新年会』より明けて翌日。次に俺が足を運んだ集いはリアルサイド。
場所は、お馴染みの四條邸宅。集ったのは、言わずもがな大学グループ。そして、新年の挨拶を前座として記念日を祝われているのは……。
「おめでとう、楓」
「えへへ……どうもありがとうございまーす」
今日一月四日が生誕日となる、そのもの四條の楓さんである。
ソラに並んで『えへへ』の使い手は健在。遠縁の親戚とはいえ血は抗えないということか……(?)などと寝不足気味の頭でボケた思考を浮かべる俺を他所に、
「そんじゃ早速はいプレゼントだドーン!!!」
「わぁっ!? ちょ、待って見えてたけど大っきいぃ……!」
「私からも」
「ごめん待って美稀ちゃん手が一杯なの待って……‼︎」
おせち……なんて行儀の良い日本文化の化身ではなく、場を賑やかすのは大学生好みの派手なオードブルやら大量のツマミ類の大氾濫。
そんな卓を囲みつつ、早速爆速で始まった誕生日プレゼント授与式。
ワーッと襲い掛かった親友&幼馴染に押され、アホみたいにデカいデフォルメ兎のヌイグルミ&品の良い洒落た小箱を抱える本日の主役は困り顔……。
プラス、素直な喜びと照れをミックスした表情で男ってか広く人類特効を成すであろう『えへへ』を継続────そんな光景を、一歩引いて見守る男二人。
口から出る言葉など、当然のこと。
「華やかと華やかの併せ技エグい」
「流石に眼福だわなぁ。見飽きた約一名のはともかく」
初詣帰りの着物姿そのまま。仲良くじゃれ合う女子からしか摂取出来ない栄養があるってなわけで、ありがたき光景に対する感想のみ。
今に至って〝三人〟以外の女性に見惚れたりすることは基本なくなったが、それはそれとして良いものは良い。これでスンとしてたら普通に単なる失礼だろう。
俊樹がスンとしている翔子に関しても、よく似合っているし大層お綺麗。これで大学付近へと繰り出した日には更なる『葦原翔子 被害者の会』を生むことだろう。
────と、
「ソラちゃんも来れたら良かったな」
「まー仕方ない」
「よっぽど誰かさんは着物姿を拝みたかったろうし」
「それも否定はしない」
「ま、後で幾らでも見せてもらえるか。誰かさんは」
「はは羨ましかろう。お裾分けはしないぞ」
仲睦まじい女性陣のイチャつきが一段落するまでの間。隣の野郎仲間から飛んできた揶揄いをコレに関してはスンと軽やかに受け流す。
旅行を共にして、遊んで食べてと一日を共にして、流石にギリギリ友人判定を下していいだろうという仲には近付いている大学グループとソラさん。
新年の挨拶に加えて一応は親戚でもある楓の誕生日ということで、今回も声は掛けたのだが……ま、正月だし。そりゃ予定はアレコレあるよなって具合だ。
「………………」
「ん? どした」
「いやー、別に。いやー、なんか……最近お前、またちょっと雰囲気────」
的な適当話を、男二人。
フライングでツマミに手を出しながら投げ交わして数十秒のこと。
「────おら男子ぃ! 貢物を出せぃっ!!!」
「「うわ来たッ……!」」
背後急襲。華奢な両腕で以って実に力強いアクション。俺と俊樹の首根っこに絡み付いてきた翔子に対して上げたのは、一字一句違わぬ見事なハモり。
流石に笑う。
笑ったら「なにわろてんねん美少女ハグやぞ」と締め上げられた。理不尽。
「十九歳って、少女判定でいいのか……?」
「いやまあ、ギリいいんじゃね。コイツ見ろよ、女性って感じはしないだろ?」
「うーん……」
「『うーん』じゃないんだよねぇノゾミン。俊樹も『ギリ』とか失礼の極みか貴様。っはぁーウチの男子どもに翔子ちゃんの色気はわからんかー! はー‼︎」
「「声デカ……」」
とまあ、ゆうて正月テンションってか普段通りな翔子さんは置いといて。
「ってか、俺にも求めんな共同出資だろが。楓、ヌイグルミ俺と翔子からだから受け取っといてくれ。選んだのはコイツだから文句は全部コイツによろしく」
「も、文句なんてないよっ! 俊樹君も、ありがとね……!」
まずは一抜け。そういうことだったらしい我が友が、いまだに楓を半ば圧し潰している巨大兎……どこから見つけてきたのやら、紅一色の巨大兎を指して言う。
なんでソレ選んだとかは、問うまい。
楓も普通に喜んでるし仮にツッコミを入れたとて俺がダメージを負うだけだ。
「で?」
「んでー?」
「で……?」
「……、…………」
────で、自然。集中する視線。促す三つと期待の一つ。友人たちからの些細なプレッシャーを受け止める俺は、動じない。
わざわざトリを待ってたんだ。このくらいはな。……ってなわけで、澄まし顔を気取りつつ足元に置いといた鞄から取り出すのは、
「あ?」
「おっと?」
「?」
「四つも……?」
全く同じ形、全く同じ外見の、小箱が四つ。
年明け前の、クリスマス前。
『新年になったら集まろうぜー!』と翔子が言い出し、次いで『なら一緒に楓の誕生日会も』と美稀が案を出した時から用意しておいたもの。
……ではなく、もっと前々から用意を進めておいたモノだ。
「まあ、なに。俺からのはクリスマスプレゼント兼お年玉を上乗せした誕生日プレゼントだと思ってくれ。────全員分、な。俊樹と翔子は過ぎてるし、美稀は来月だけど、その一周分をひっくるめてということにしていただければ」
なんて、思惑を長々と語りつつ。
「「お、おう…………どうも……?」」
「ありが、とう?」
「いただきます……」
息ピッタリ同リアクションの男女幼馴染ペアに笑いつつ、恥ずかしながら籠めた気持ちも物理的精神的な両重量も統一された小箱が四人の手に行き渡る。
そして固まる友人たち。いや、そんな目で伺わんでも……。
「開けてくれて構わんぞ」
ぶっちゃけ大したものではあるのだが、それを伝える気などない。気楽に受け取ってくれて構わないのだと促し返せば、四人はそれぞれ小箱を開いた。
開いて……────
「…………」
「………………」
「……………………」
なにやら形容し難い表情で、閉じる者が三名。
「…………わぁ……、…………わぁっ……!」
そして残る一名。誰より素直で誰より無垢な一名は、見守る贈り主がジッと多大なる照れに耐えるしかない理想的なリアクションを以って、
「────わ゛ぁ゛っ……!!!」
「おい待て、そんなにか……!?」
泣いちゃった。
然らば、流石に慌てる俺に刺さるはジト目が三つ。
「いや、ノゾミンさぁ……」
「お前はなぁ……」
「希君……」
「ちょちょちょ待て待て待てっ! いや、いいだろ別に! まあ泣いたっておかしなシチュではないだろ感動してくれたのを俺が喜ぶにしても責められる謂れは」
「あるでしょ」
「あるな」
「ある」
「あるんかいッ……‼︎」
賑やか一色。まんまと俺のサプライズで感極まってしまったらしい本日の主役を抱き寄せ宥め始めた幼馴染と、それを丸ごと後ろから抱き締める黒髪着物美人。そして俺の隣で誰よりも至近からクソデカ溜息を聞かせてくる野郎仲間。
各々が手にしている小箱の中身……在るのは、一枚の金属板。
『兎』のような『流れ星』のような、台頭より今まで広く【曲芸師】のアイコンとなっていた髪飾りの宝飾を模る絵柄。それが計五羽分、精緻に刻まれた、
世界に五枚。我らがチームを表す認識票。
デザイン by 【藍玉の妖精】────製作手配 by 【剣ノ女王】────なんて、おそらくは卒倒ものであろう裏事情は伝えない。伝えないが……。
「いや、もういい。四の五の言わずに受け取ってくれ。ほんの気持ちだ」
俺の感謝は、受け取ってもらう。ついでに『これからも末永く宜しく』ってな我儘も込めたつもりだ、どうかこれからも存分に────
「ぁー……ぇー……? ちょ、タイム……アカンこれ翔子ちゃんも泣く」
「こいつマジ際限無しかよ……?」
「人誑し……」
「ふぐぅっ……!!!」
「聞いてます???」
仲良く、してやってくださいませと。
最終的には全員泣いた。
そんで人誑しは幼馴染ペアからくすぐりの刑に処されて死んだ。




