待ち人、来たりて
「────……推定、おおよそ五倍。ですか」
南陣営、戦時拠点は【騎士の王城 -エルファリア-】前。過去最高の単純さと過去最高の厄介さを併せ持つフィールドを前に、静かな溜息を一つ。
『女王様』……もといソートアルム参謀こと【侍女】ヘレナは、然して冷静に。
「……マッピングを続けてください。迅速に、けれど焦らず正確に」
「「「了解です!」」」
迷宮区への侵入が可能となって直後の今。いまだ作成進捗六割ほどのマップから顔を上げつつ、力を尽くしてくれている部下たちへ言葉少なに信頼を預けた。
未知の領域へと踏み入ることなく、まだ見ぬ〝先〟を図と成すことのできる力。即ち地形探査に特化した能力を持つプレイヤーは、仮想世界において極めて稀少。
つまり彼らは間違いなく南陣営の『宝』と称せる者たちであり、その手腕と働きぶりへ傍から文句を言える者など誰一人として存在しないのだが……──
「あー、ちっきしょう……! もうとっくに終わってんだろうな東ぃ……‼︎」
「集中しろマジで集中しろ余計なこと考えんな集中しろ……!!!」
「もうほんとイヤ【見識者】キラいロッタ先輩ズルいぃい……!」
本人たちは、己が至らなさに……ではなく。
見上げる〝異常〟の果てしなさに、無限に焦ってしまうようだが。
「…………同感です」
そんな様子を横目に収めつつ場を離れると共に、ヘレナは誰にも聞こえない独り言を口の中で囁く────東の参謀【見識者】ロッタ。
実質的な陣営トップ【総大将】ゴルドウの右腕たるプレイヤー。いつもいつも密かにアレが『父』の思考の半分を担っているという事実を、知っているゆえに。
私も嫌いです、と。いつもいつも思っていることを小さな笑みと共に零しつつ。
「アイリス」
「ん」
【侍女】は、侍るべき姫の元へ。
陣営の主にして旗頭へと声を掛ければ、同じく彼女に付き従う九名の……──いつもの如く目蓋を閉じている一人を除いた八名の視線が、ヘレナへと向いた。
「各位も。想定外の形で前提を覆されましたが、いつものことです」
「それね」
「ほんとなぁ」
少年と青年の相槌。こちらも、いつもの如く緊張など微塵も感じさせず落ち着いている頼もしい序列上位へ頷き返しながら。
「修正部分はありますが、事前共有した作戦大元は変更なしで行きます。まずは【曲芸師】……ハル様と、加えてカナタ様の脚を止めなければ話になりません」
「第一目標の難易度ぉ……」
言葉を連ねれば次いで零れ落ちるのは、げんなりしたような独り言。
「期待していますよ、ナツメ」
「が、頑張るけど、さぁ……」
声の主は、白髪を揺らす【糸巻】の少女だ。
「私も一緒。大丈夫」
「や、確かに姫は世界一頼もしいけどさぁ……」
瞬間的ならば【曲芸師】師弟の速度に対応できるアイリスが〝脚〟に、間合いへ捉えることが叶うのであれば捕らえることも不可能ではないナツメが〝檻〟に。
考え抜いた策というよりは、それしかないからという消去法の択。
立案したものとは言えない策は業腹ではあるものの、けれども一切通用しないビジョンなど見えるはずもない安定の一手ではある。
理不尽な『速度』には、こちらも理不尽を以って応じるしかないのだ。
……そして、
「────あとの者は暫しの間、絶対防衛の構え」
今回の四柱において、特筆すべき理不尽が彼らだけではないのが困りもの。
いや、むしろ、
「……【剣聖】が如何様に動くのか、まずは見極めます」
彼女こそが、今戦争最大特級の理不尽爆弾。
「マジ怖過ぎ」
「仮に一対一で気張ったとして、俺は五秒もたねぇだろうなぁ……」
「じゃあ僕は三秒だね。いや一秒かも」
彼女との接敵想定に限っては、序列上位をしてコレである。一対一など自殺行為、多少の数的有利も焼け石に水、八名総掛かりで抗えるか否かといった具合。
我らが【剣ノ女王】が姿を変えて襲い掛かってくるようなもの。『最強』と同格の『至高』である【剣聖】は、天上に在る者をして更に見上げて然るべき者。
攻め入られたなら、決死の防衛が必至。
これもまた、他の択など存在しない不可避の消去法────
「ヘレナ」
「……えぇ。そうですね」
頭を悩ませてばかりいても、仕方ない。
如何に相手が理不尽極まる怪物揃いだろうとも……自分たちとて、また。
「────動きましょう。出陣です」
「んっ……」
頂にて、燦然と輝きを示すべき立場に違いはないのだから。
離れた位置の指令本部。全霊を以ってマップ作製に挑み続ける三人と目が合ったのは、完成せずとも『使える』までには届いたことの合図。
考えるまでもなく、既に確実に〝敵〟は動き出している。ならば自分たちも、準備ができた一歩を躊躇っている暇など在りはしない────と、
「「「「「…………………………」」」」」
少し遅れての、開戦の号を放つ。
その前に、どうしても。……どうしても、皆の総意として、
「……もう、結構、経ってるのに」
いつか、誰かが、呟かざるを得なかったであろう言葉を、
「────〝狼煙〟……上がんないな?」
どこかで、誰かが、呟いてしまった瞬間のことだった。
「ッ────! メイッ‼︎」
「っ……防御陣形ッ! 総員〝城〟の陰で備えなさいッ‼︎」
誰よりも先に声を放ち駆け出したのは、陣営の主人。
刹那の拍を置いて指令を叫んだのは、陣営の指揮者。
斯くして、アイリスが走り、ヘレナが指揮し、名を呼ばれた【城主】が目覚め、瞬時に役割を遂行せんと御伽の〝城〟が顕現する────
そんな、南陣営ソートアルムの目前へ。
現れた姿は、白蒼が一つ。
そして、忽然と虚空を踏んだ〝彼〟が詠む。
「────四凮一刀、四の太刀」
刀を提げて、笑みを引っ提げ、恐れなど全て置いてきたと言わんばかり。
「《爐》」
誰にも見えぬ閃を描きて、その刃は迸った。
「──────ッ‼︎」
迎え撃つは王の剣。祭りの夜空に、三日月が二つ。
小さな刃が生み出したとは到底のこと信じられない、巨大な閃が真正面から交錯。甚大なエネルギーの爆裂を生み……────そして、片方が、
「っ……!?」
片方を、喰い破り。
形までは保てずとも確かに生き残った剣閃の欠片が、主の号を受けてヒトを守るべく屹立した〝城〟へと、一斉に降り注いだ。
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◇Status◇
Title:曲芸師
Name:Haru
Lv:110
STR(筋力):300
AGI(敏捷):300
DEX(器用):0
VIT(頑強):0(+100)
MID(精神):350(+450)
LUC(幸運):300
◇Skill◇
・全能ノ叶腕
《十撫弦ノ御指》
《拳嵐儛濤》
《ルミナ・レイガスト》
《エクスマキナ・アルターゴ》
《貪欲ノ葛篭》
・水魔法適性
《アクア》
《フラッド》
《カレントハーケン》
《メイルストロム》
《千遍万禍》
《水属性付与》
・Active
《レイズ・ディアヴェルテ》
《フラッシュ・トラベラー》
《影葉》
《鏡天眼通》
《アルテラ=ノーティス》
・Passive
《白竜ノ加護》
《無垢ナル戯王》
《英傑ノ縁環》
《煌兎ノ王》
《アテンティブ・リミット》⇒《テンペスト・カウントダウン》Up!
《超重技峨》
《剛魔双纏》
《タラリア・レコード》
《弌軌到星》
《危極転鸞》
《戒征不倒》
《星月ノ護手》
《魔ノ根源》
《リジェクト・センテンス》
《影滲越斃》
《四柱継抱》
《水精霊の祝福》
《四辺の加護》
◇Arts◇
【結式一刀流】
《飛水》
《打鉄》
《阻霧》New!
《天雪》
《枯炎》
《重光》
《七星》
《昇雨》New!
《揺霰》New!
《鋒雷》
口伝:《結風》
【四凮一刀流】
《颯》
《涓》
《谺》New!
《爐》New!
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三話連投、一時間毎。
なお終わりませんでした。




