第十二回四柱戦争
──────……
────……
──……
【Sora】:もう、本当に。心配しすぎです。
【Sora】:すっかり良くなりましたから。大丈夫ですよ。
【Sora】:昨日も一昨日も、仮想世界で会ったじゃないですか。
【Haru】:わかっちゃいるんだけど
【Haru】:やっぱこういうの、リアルで顔を見れないと心の底から安心とは
【Haru】:まあ、いかないっぽく
【Sora】:それは
【Haru】:あんま心配ばっかされても鬱陶しいよな。ごめん
【Sora】:気持ちはわかりますし、迷惑ではありませ
【Sora】:鬱陶しくなんてないです。そんなこと思いません。
【Sora】:でも、あの
【Sora】:本当に、大丈夫ですから。
【Sora】:気にしてくれるのは、嬉しいです。
【Haru】:そう言ってもらえると
【Sora】:なので、ちょっとくらいの夜更かしだって平気なんです。
【Sora】:応援してます。いつも通り見てますから、
【Sora】:頑張ってください。
【Haru】:頑張る
【Haru】:メッッッッッチャ格好付けるから、見ててくれよ
【Sora】:ニアさんにも同じこと言ってそう。
【Haru】:その返しはエグイって
【Sora】:えへ
【Haru】:かわいい
◇◆◇◆◇
────十二月の三十一日。時は大晦日、時刻は午後の九時ジャスト。
「…………なーんかなぁ」
「どしたの」
「すーっっっ……っげぇ、不思議な気分。『大晦日の夜にゲームして過ごす』って、一般的には微妙……とは言わんけど、称賛される類のアレじゃないだろ?」
「そうかもね」
「でも俺たちは……なに? 世界中に望まれて、これから大晦日の夜をゲームで明かすんだなって考えると、妙な背徳感があるというか」
「あー……はは、ちょっとわかる」
年末。十二月の末。仮想世界アルカディアが世間に『もう一つの世界』として広く浸透して以降、数ある定番を押し退け年越しの友となり四年目。
第十二回『四柱戦争』の戦時フィールドにて────三度目ともなれば多少は慣れを蓄積した俺は、後輩一号と気の抜けた会話を交わしていた。
いやはや、時が過ぎるのが早いこと早いこと。ついこないだ人生の大一番に挑んだばかりくらいの心持ちだというのに、あっという間に一ヶ月。
現実だ仮想だ、恋だ修行だと奔走していたらマジで瞬。まず間違いなく人生最高速で駆け抜けていく時を惜しむ間もなく気付けば今へ至るってな感じ。
「落ち着いてるね、先輩」
「と、いうよりも……」
ふわついている、と称した方がいいかもしれない。いや、コンディションで言えばエクストラパーフェクトってな具合なんだが……とまあ、置いといて。
戦場到着からの最終チームミーティングに明け暮れる戦友百名余りの賑いを他所に、毎度毎度ソロで好き勝手やるばかりの俺は心身ともに身軽っちゃ身軽。
プレッシャーとの付き合い方も多少なり身についてはきたので、テトラが『落ち着いている』と俺を見たのも間違いではないのだろう。
少なくとも、無様に冷や汗を流したりせず場を俯瞰する程度のことはできる。
これも成長。そう自負しておこう────と、勝手に納得して言葉半分で区切った俺を横目で見て、どういうアレか後輩一号は小さな笑みを滲ませた。
「なんだよ」
「別に。なんでも」
相も変わらず、自称年下宣言が信じられない余裕を絶やさぬ振る舞い。サラリと俺の半眼を躱しつつ、テトラは視線を彼方へと移し……。
「今回は良いコースじゃん。思う存分、暴れてきなよ」
超巨大な迷宮区を中心に置き、外周四辺の中央それぞれから十字の形で各陣営の〝城〟へと繋がる通路で構成される『四柱戦争』の戦時フィールド。
各回毎に趣を変えるフィールドの『色』による味変は、この仮想世界最大を誇るイベントお決まりのランダム要素だが……今回のソレは、至極シンプル。
………………いや、シンプルというか、なんというか。
「〝道〟……?」
とにかく、デカい。
デカい? 広い? 太い?
……あの、うん。とにかく、ひたすらに、スケールが狂っている。通路の奥にある迷宮区入口の向こう側、目に映る光景に並べられる所感などソレが限界だ。
床部も、壁部も、これといった環境効果や障害物の見て取れないサッパリした面が、ただただ〝広大〟を以ってプレイヤーたちを待ち受けている。
超、超、超、巨大迷宮。おそらく、それが第十二回のコンセプト。
いっそ拍子抜けするような単純極まるモノに見えて、しかし。その単純極まる要素が『戦争』において、如何に甚大に作用するのかなど────
「……大変そうだなぁ」
ゴッサンやロッタなど指揮官および作戦参謀を始めとして、てんやわんや泡を食ったような大騒ぎと相成っている仲間たちを見れば馬鹿でもわかる。
行軍諸々の部隊運用に関して、あらゆる面で『これまでの常』が使えなくなったのは明白だからな……と、他人事のつもりではなかったのだが。
「うーっわ、ひっとごとぉ!」
どうも、そのように聞こえてしまったらしい。独り言を呟いた瞬間、軽い衝撃と共に背中にドスン……まではいかず、ボスンッと重石が乗っかってきた。
犯人は二人。声音と物理攻撃は別々だ。
「拠点防衛組も、どちらかと言えば他人事だろ」
「んなことないでしょー。こんだけ迷宮区が広けりゃ擦れ違いだって頻発しそうだし、そしたら拠点に来る〝お客さん〟も少なからずいそうだしー?」
お喋り担当の赤色ことミィナと、
「おい現役アイドル。全国ネットだぞ」
「いつものことー……」
限定個人に関しての引っ付き担当、青色ことリィナ────こと、自称妹。勿論『いつものこと』などという戯けた発言を衆人環視……そりゃもう、全世界的な意味で衆人環視の下、慣れた顔でスルーなんてした日にゃエライことになるので。
「ぁー……」
「うぁっちょ待なんであたしまでぇー……!」
アクションは即座。二人まとめて〝糸〟で括って遠方へポイっとリリース。
「よしよし。指捌きも快調だな」
「……ほんと、落ち着いてるじゃん」
【九重ノ影纏手】の影糸を繰る五指を握って開いて、ベストコンディションを再確認。『内』でも『外』でもアバター操作は我ながら精緻の様、完璧だ。
────と、そんなところで。
「坊主」
「ハル」
「あいよ。……久々に聞いたな坊主」
「お? ぁ、わり。やーなんかなぁ、四柱ってなると初めを思い出しちまってよ」
視界の端で様子を見ていたため、二人が近付いてくるのは気付いていた。ゆえに立ち上がりつつ答えれば、放られ飛んできたのは笑みが二つと物が一つ。
然らば、
「はは、成長したね」
「お気遣いどうも」
念のためなのか揶揄いなのか、隣に控えていたテトラの手を借りずヒュバっと開くは大きな巻物────今舞台の迷宮区、その全貌を記したフィールドマップ。
それを一秒、二秒、三秒と凝視して、
「────……オーケー。それじゃ、作戦通りで大丈夫だな?」
「あぁ、お前さんが問題ないなら構わねぇよ」
完全『記憶』したマップを感謝と共に友人へ返しながら、歩みを進めつつ擦れ違う【総大将】からも最終確認を頂戴した。そちらについても、
「問題ない。行ってくるわ」
返す言葉に、迷いはなく。
視界の端に点滅する数字の羅列。フィールド転送から暫し与えられる、迷宮区への侵入が可能となるまでの猶予時間を示すカウントダウン。
それがゼロになるまで、もう少し。
────ならば、俺が向かう先は一つだけ。
「カナタ」
「……ぁ、はいっ!」
「俺の分まで、ランナー頼んだぞ」
「はいっ‼︎」
擦れ違う後輩二号へと、激励を飛ばして。
「今回も期待してるわよ、ハル君」
「ぶちかましてきますとも」
今日も今日とて色気と心強さを振り撒く『お姉様』よりウィンクを頂戴しつつ。
「…………」
「っす」
道着を纏う体術師範殿と、軽く拳を打ち合わせながら。
いざ、陣営の先頭へ。
畏れながら、真ん中へ。
左右に並ぶは、刀が二振り────訂正、一振り&二振りの計三振り。
「ふふ……意気は十二分のよう、ですね」
「そりゃあもう」
我が師【剣聖】と、
「空回りはしてくれるなよ」
「うっせ見とけ。お前こそ前回みたいな即脱落やらかすんじゃねぇぞ」
我が……あー、宿敵(?)【無双】と各々、言葉を交わして。
──────3、
────2、
──1、
ゼロが並びて、開戦の号。
作戦決行に躊躇ナシ。開戦スピーチは目を灼く一歩で成すとしよう。
さぁ、行こうか。
「んじゃまあ……──────見晒しあそばせ、ってな」
無意識に滲む笑みと共に、今回は俺が主役だと、心の中で宣って。
疾く駆ける足を、踏み出した。
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◇Status◇
Title:曲芸師
Name:Haru
Lv:110
STR(筋力):300
AGI(敏捷):300
DEX(器用):0
VIT(頑強):0(+100)
MID(精神):350(+450)
LUC(幸運):300
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今回は三話くらいで締めたいです。
おそらく無理だと思います。




