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【デイリー木登り曲芸師:第八十層攻略風景】
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『まーた開幕顔面ボコボコからの終始やりたい放題で草なんだよ』
『エネミー視点ガチで恐怖だろうな曲芸師エンカ』
『出会って即座に躊躇なく笑顔で突っ込んで来るキリングマシーン……』
『今日も今日とて、おソラ様が可愛くて生き甲斐です』
『デイリー曲芸師ってかデイリーソラちゃん供給ほんと助かる』
『デイリー聖女様もマジありがたし』
『男性陣も楽しそうで良きなんだ』
『テンション高めなショウ様レン様って地味に貴重でしてぇ……!』
『そりゃまあねぇ……楽しいだろうねぇ……曲芸師リーダーのパーティとか』
『あの人ほんとメチャクチャハチャメチャが留まることを知らねぇな』
『選抜戦の大暴れが公開される日を心待ちにしております』
『トーナメントのクジ運どうのって言われてるけど、優勝は優勝だもんなぁ』
『あの人の場合むしろ自分で「クジ運わっっっっっる」って思ってそうなのが』
『囲炉裏君と戦りたかったやろなぁって』
『ファンとしても見たかったんですけどねぇリベンジのリベンジ』
『まあ囲炉裏君ご愁傷さまってことで……』
『さしもの無双殿も序列仲間とのガチ三連戦はね。そりゃ体力も尽きますわ』
『またしても雛世お姉様に討ち取られた金髪イケメン侍』
『そしてその雛世お姉様を一切の遠慮も容赦もなくぶっ飛ばす曲芸師』
『曲芸師マジ曲芸師』
『試合ってなると完全男女平等笑顔満開殺戮ピエロと化すのエグイ好き』
『選抜戦の話を外でするのってアウトでは? いいんだっけイスティア諸君?』
『ゲームと割り切っても中々あそこまで容赦ナシはできねんだよなぁ……』
『試合〝結果〟については別に制限されてないぞ。アウトなのは〝内容〟』
『それも詳細リークみたいな真似しなけりゃ基本オケって総大将様が言ってる』
『なんならミィナちゃんが「いろりんボコボコでウケる」って呟いてますし』
『そして色めくミナいろ派閥と憤るミナリナ派閥』
『囲炉裏君とミィナちゃんの友達感が好きです』
『基本的にペッペあしらわれてるミィナちゃん哀れで無限に好き』
『トップアイドルに構われてスンとしてる彼の理性は一体どうなってんのか』
『いやまあ囲炉裏君も超絶美青年モデル様ですし……』
『相変わらず動画についてのコメント少なくて草』
『語れることが無い定期』
『きょ、今日も凄いですね、くらいしか……』
『合流してからハルちゃんの出番が激減してるのマジ悲しみくらいしか……』
『常に画面に映ってるだろ節穴かよ』
『それ曲芸師さんじゃん。ハルちゃんはどこ……? ここ……?』
『はい、そうです。そこにいるのがハルちゃんですよ』
『ハルちゃん君さん様:「男だっつってんだろ」』
『その決まり文句を言う時ほんのり目が冷たいの好き。ゾクゾクする』
『この人も割かしギャップの塊なんだよなー』
『ギャップというか属性のごった煮というか……』
『面が多過ぎる。まさに奇術師曲芸師』
『あーーーーーーーーーー会いたかったなぁ招待当選したのになぁ!!!』
『何度かに分けて埋め合わせで再招待するとか告知されてなかった?』
『されてるけど次々々回なんだもん!!! 遠い!!!!!』
『また行けるだけ全然いいだろ。こちとら抽選を潜れねんだわ舐めんな』
『むしろ干支森に二回行ける時点で得まであるよね??? ん?????』
『すみませんでした』
『お前ら動画のコメントしろよ』
『語れることがない定期』
『ソラちゃん可愛い』
『ソラかわ』
『サヤカ様すき』
『ソラちゃんかわよ』
『ゲンコツさん可愛い』
『あーソラちゃんの癒しで明日も生きられるぅー』
『はいはいソラかわソラかわ(崇拝)』
『ソラかわー』
『ストレートに気持ち悪いぞ貴様ら』
『なんだこれは地獄か』
『万が一ソラちゃんの目に入りでもしたら有罪豚箱不可避』
『全員クラウンに首狩られそう』
『四柱たのしみー』
◇◆◇◆◇
────時は十二月の二十六日。
気候は完全に冬の只中。先日は雪も降って世間に賑いやら悲鳴やらが溢れていたりを傍目に、やや仮想世界寄りの比重で過ごしている今日この頃。
仮想世界における序列持ち【曲芸師】としての立場多忙云々を理由に奨められ、大学に関してはフライング冬休み中。本来は一週間そこそこしかない日数も二週間強まで延びており、有り難く無理のないスケジュールを組ませてもらっていた。
もう目前に迫る第十二回『四柱戦争』が如何に世界的な注目を集めるイベント事とはいえ、やはり俺の中では究極的に『ゲーム』であるアルカディア。
それを理由に学校を休むのは、いつになっても罪悪感が消えなさそうだが……まあ仕方なし。世間が「そう在れ」と望むのであれば、そう在ろうってなことで。
「────……っと、と」
四谷宿舎、自室のキッチン。考え事に興じて吹きこぼしそうになった鍋の面倒を見つつ、時計に目をやれば予定時刻まで残すところ三十分弱。
料理はヨシ。デザートもヨシ。その他、思い付く限りの諸々も全てヨシ。
コレもコレでズル休みの時間を活用する事象としては罪悪感がないでもないが……まあ多分おそらくきっと、全世界ではないにしろ多くの人が、ある意味でアルカディアよりも優先しろと言いそうなそうでもないようなイベントだ。
そんな他者のアレコレは抜きにしても、今の俺にとっては凡百の記念日と比較にならないほど大事にしたい日。それが十二月の二十六日────
つまり、クリスマスさえも前座と成す今日であるからして。
なお、その前座こと二十四日&二十五日に関しては拍子抜けするほどサラッと終わった。四柱を直前に友人知人が各自多忙ということもあって、年明けのメリークリスマス&ハッピーニューイヤー会へ事前招待されていたのも大きい。
そして何より、ソラさんが風邪を引いてしまったのでねと。
大事ないとメイドからも本人からも連絡はもらったのだが、寝込んでいるソラを他所にパーティもアレということで四谷宿舎もクリスマスはスルーの運びに。
電話越し。メチャクチャ申し訳なさそうで辛そうで泣きそうな声が実に心へ刺さった、様々な意味で。今朝には熱が下がったとの報告があったし心配は要らないのだろうが、完全に快復したら目一杯に甘やかしてやろうと心に決めている。
で……しかしまあ、けれども流石に今日だけは、な。
スルーできないし、するつもりもないしで、そこはソラにもニアにも許可は取った上で固い〝宣誓の言葉〟も読み上げさせられたので諸々やはり滞りナシ。
ゆえ、あとはゲストが来たる定刻を待つのみ────と、
「……、……………………そんな気はしてたけども」
歓迎準備の仕上げに掛かろうとした、予定時刻二十分前のことであった。鳴り響いたチャイムベルの調に、予期していた事態の到来を察して苦笑い。
火を止めキッチンを出て、ドアフォンのモニターも確信に従い素通り未確認。廊下を踏破した先にて、奥で見知った気配が待つ玄関扉を開ければ────
「徒歩五秒で二十分前行動は、如何なものか?」
「徒歩五秒で、わざわざ時間まで我慢するのが馬鹿らしくなったの」
立っていたのは、純白の姫が一人。
世界的な祝日に数字を並べたとも負けず劣らず。間違いなく今日、全世界の誰よりも『祝福の言葉』を贈られている人間に違いないだろう彼女は……。
「「…………………………」」
それはそれ、これはこれ、とばかり。
まさしく別物と、俺からの〝特別〟を期待してソワソワを隠さぬ珍しい顔。然らば……──そんなものを見せられて、今の俺が口にすべき言葉は一つだけ。
「──────誕生日おめでとう。アーシェ」
ただ一つだけ。世界の誰より大きいと宣わせてもらう祝福の想いを籠めた言葉を、躊躇わず口にすれば。俺の『お姫様』は、満足げに微笑んで。
「ん…………──いい匂い、する」
はたして、本当に珍しい照れ隠しか否か。
顔を隠すように俺の鳩尾へコツンと、可愛いらしい頭突きを見舞ってくれた。
聖夜を前座にする姫の生誕祭。




