Now 就寝 ing……
────夜。
「……えと、僭越ながら。ちょっと言いたいこと言っちゃって宜しいでしょうか」
「……?」
「なんだなんだいどしたのニャーちゃん枕投げするぅ?」
「どうされましたか?」
屋内、これまた【旅人】が手帖に記した数多の宝物の内一つ。丸ごと召喚可能な二階建ての贅沢ログハウスことインスタンス宿舎内にて。
女性陣は揃って二階の寝室、それぞれが既に寝台の上。クッション良好なマットレスとフワフワ温かな毛布に挟まりながら、並ぶ声音は個性各々の四人分。
その中より、もういい加減に我慢できないと。
集い顔を合わせた時から、ずッッッッッッッッッッと口にしたかったことを、全員が真に気を抜いた今に至り言ってしまってもいいでしょうかと。
横になるまま挙手したニアへ、三方向より視線が集まり……。
「その……────今更だけどコレ、どんな集まり???」
「……あ、はは」
「ふふ……」
「んへへー」
ただただ果てしなく困っているのみと判別の利く声に、暗闇の中。大なり小なり差はあれど似たようなことを考えてはいたのだろう、笑みの気配が三つ分。
なんのために集まった面子なのか。と、わかりきったことを問う意味ではない。
絶妙に慣れない並びというか、特別に親しい者たち&ほぼ初対面&ほぼ絡みナシという混成パーティの形と相成ったゆえ、どうにもこうにも……。
「…………遠慮、させてしまっていますよね。ごめんなさい」
「いやいやいやいやいやいやいやっいやいやそんな違います違います……!」
まあしかし、事実そういうことで。
困っているのは主に一名。名高き────それはもう、仮想世界トップレベルと称して差し支えない名の高さを誇る【剣聖】様。そして『自称後輩二号』とかいう聞く度に首を捻らざるを得ない少年君(?)こと曲芸師予備軍。
うい、そしてカナタとの接点を持たなかった藍色が、ほんのり遠慮してしまっているという話。誰にでも分け隔てない【藍玉の妖精】などという評判は過大も過大、実際のところビッグネーム相手には基本ビビるのがニアという人間である。
仕方ない。
改まった〝初めまして〟の挨拶は本日合流一発目に終えているが、その後は予定通りの有言実行。どこぞの想い人が比喩ではなく終日修行三昧へと突入したせいで、結局のところ今の今まで夕食時に二言、三言を交わした程度の交流深度。
「思えば同じ場で顔を合わせたのも、まだ数えられる程度……でしたか」
「はぃ……すいませ…………」
たったそれだけの時間では、かの【剣聖】の威光は眩しさを和らげてくれないのだ────と、ニア個人の事情をバッサリ抜きにしたとても。
「…………不思議な組み合わせ、では……ありますよね」
すっかり眠たげ、ぽやぽやな声音。
まず間違いなく他三名が同時に、それぞれの内心を脇に置いて頬を緩めざるを得なかったであろう少女の同意を示す声が、実際のところ。
ソラ、うい、そしてルクスの三人は各ラインが繋がる知人友人戦友同士。けれどもそこに追加で一人、ニアが混ざることで途端に不思議な組み合わせになる。
誰も上手くは言い表せないが、どこか不思議な。
「んー。ニャーちゃん、うーちゃん苦手?」
「ほんとヤメテお願いします違いますそういうんじゃないです百パー緊張です」
ルクスとニアは言わずもがな、そこそこの付き合いの旧友同士。
「…………お二人とも、素敵な人ですから。……すぐに、仲良くなれます」
「ソラちゃんは本当にもうソラちゃん卑怯お姉さんそういうの卑怯だと思うよ」
ソラとニアも言わずもがな、複雑な関係性の上で奇跡的に成った親友同士。
「お互い共通の知人友人は多いのに、不思議なほど顔を合わせる機会がありませんでしたから……なんて、ふふ。私が引き籠もりをしていたせいに他なりませんね」
「ぁぇー、ぁー、そのー……はぃー…………」
やはり、ここが問題。
そしてそんな問題部分を、ソラだけでなくルクスまで気を遣っているのか面白がっているのか不明だが物言わず見守るため、基本この始末。
それぞれの人柄を把握しているがゆえ、信頼あってのものといえばそれまで。加えてニアにも過去、あの【剣ノ女王】と無事に打ち解けたという経験値は在る。
九割九分九厘、あらゆる意味で『完璧』および『無敵』を体現するアリシア・ホワイトの功績であるとか知ったことじゃない。在るったら在るのだ。
だから、ニアも本気の本気で心の底から困っているつもりはないのだが……。
………………ないと、思うのだが。
「「……………………………………………………」」
どうしたものかな。とは、思ってしまう。
きっと、彼女の方も同じように思っているのだろうなと、わかってしまう。
────認めよう。意識し過ぎているせいだ。彼女が……【剣聖】こと『お師匠様』が、どこぞの馬鹿者にとって間違いなく特別な人であるということを。
「……、…………」
そして、女の勘。
彼女もまた『弟子』を、間違いなく〝特別な人〟として見ていると。
どうしようもなく、視えてしまうゆえに。
「…………、……、………………っ、………………………………」
「めっちゃ唸ってる。ニャーちゃんが唸ってる。うニャーちゃん」
「「うニャーちゃん……?」」
ルクスがなんか言ってる。
ぽやぽやとほわほわの癒し極まるデュエットが復唱してる。
そんな場合じゃねぇ。
至極簡単な話────ビビってるのだ、普通に。聞いてはいたけど、視てはいたけど、知ってはいたけど、実際に対面して自分の目で見て実像に慄いた。
現時点〝男女〟のソレではないと確信できるが、相思相愛なのだ。この師弟。
マジで。ガチで。そりゃソラもアイリスも嫉妬するわといった具合に。会ってはみたかったけれど、会えて嬉しくは思ってるけれど、
嗚呼、遂に会ってしまったなぁと。苦笑いが浮かばざるを得ないほど────
「…………ほんと人たらし。有罪」
それもこれも、全部アレのせい。毛布に口元を埋めて、誰にも聞こえない小さな小さな独り言をニアが零すことになったのは、本当に全部アレのせい。
許されざる。本当に本当に、
…………一生懸命、口説いてくれないと、絶対に許してあげられ
「────では、こういった趣向は如何でしょう」
……ない、なんて。悶々とし始めたニアの内心を斬り飛ばすようにして。
「順番に、理想的な男の子について告白していくというのは」
満を持して────【剣聖】様による【剣聖】様が始まった。
「……………………────へぁぃっ???」
然して、突飛唐突に素っ頓狂な反応を返したのはニア一人だけ。
就寝時それがどうしたと言わんばかり元気溌剌オーラを滲ませているルクスも、既に半分おやすみ領域へ踏み込んでいるソラも、驚いた様子はナシ。
そう、まだニアは知らない。【剣聖】ういという人間の、本性を。
ニアは、まだ、識らない。
「定番、ではありませんか。お泊りの布団の中、恋話で仲を深めるというのは」
「こ、コイバナ……」
ソラだけでなく、あのアリシア・ホワイトまでも。同じ舞台に立ってすらいないにも拘らず、嫉妬を向けてしまう〝魔性の大和撫子〟の真なる素顔を。
我が道を往き、遍くを輝きで以って轢き殺す、どこぞの想い人の同類たる様を。
「では、そういうことで……」
「ど、どういうことで……!?」
「ニアさんから、聞いて参りましょうか」
「なんでっ!?」
「是非、聞いてみたいです。ハル君のどういうところが大好きなのでしょう?」
「アレなんか趣旨も変わってるぅ……!!!」
────夜。【星屑獣】も寝静まる深い夜の中。
いつの間にやら、すよすよ寝息を立て始めていた最年少を他所に。大人しく毛布に包まり聞き耳を立てるまま死ぬほどニヤニヤしているルクスは知っている。
マイペース極まる無敵で至高の【剣聖】が、ほわりほわりと藍色娘を口説き落とすまで。おおよそ三十分も掛かりはしないだろう、と。
・【招く寄る辺は塵芥】魂依器:本 第四階梯
ルクスの旅手帖に記された魂依器の一つ。
それは家です。それは木で造られた家です。それは居心地の良い家です。
あなたを歓迎します。あなた達を歓迎します。あなた方を歓迎します。
寛いでください。安らいでください。さぁ、さぁ、眠ってください。
大丈夫ですよ。安全ですよ。安心ですよ。
あなたが、ヒトで在る限りは。
そんな感じです。とても居心地の良い大きなログハウスですよ。
どうでもいいけど次回。推しと二人で男部屋の自称後輩二号、死す。




