Re:時、遷りて
【デイリー木登り曲芸師:第六十層攻略風景】
──────……
────……
──……
『もうなにからふれたらいいのかぼくにはわからない』
『いつもの』
『毎日の栄養が過多過多の過多で逆にシンドイ』
『ソラちゃんつッッッッッよ』
『序列持ちフルパのピクニック映像こんな安売りして大丈夫なんです???』
『振込先がないバグ』
『あーーーーー今日も聖女様かわいいっすわあーーーーー』
『これもうハルソラだけで百層までイケるんちゃうの』
『ハルソラ(百合)お手て繋ぎマジ尊みの塊……』
『百、合……?』
『だが男だ』
『百合の概念が壊れる』
『毎回毎回なにやってんのか1ミリも理解できねぇの無限に草なんよ』
『序列持ちパと正面から戦り合うレベルの奴が六十層なのヤバないですかねぇ』
『序列持ちパ(戦ってるのは半数)』
『三法バフの壊れっぷりを知らんのかぁ?』
『聖女様バフで環境効果カットしてるよねこれ。マジで一般人どうしろと』
『やっぱ鍵樹まだ致命的に何か足りてねんだって攻略の鍵が』
『鍵樹だけに鍵っすかぁ?!!!!!!!!!!!』
『こわ』
『普通に考えて三十一層から上とか無理だかんな。レイド組ませてくれよ本当に』
『ボスよりも道中が死ねるんだよ本当』
『ボスも大概は無理だけどねぇ!!!』
『なんでこの人たち道中ローテーションソロとかしてんですかねぇ…………』
『曲芸師も双拳も頭おかしいんだって。ソラちゃんはソラかわ』
『曲芸師さんパーティ仕切るの上手だなー』
『リーダーシップあるんだね意外と』
『万能好青年がよぉ……』
『ゆうて意外か?』
『別に意外ではない』
『いつだって俺らのリーダーなんだが???』
『はい出た』
『うわ出たよ干支森勢だろ貴様』
『干支森招待抽選!!!!! 落選しました!!!!!!!!!!』
『倍率何百倍だよアレ当選する気しねぇっつの』
『何百倍程度で済むんです……?』
『なーんかマッタリしてんよな最近のアルカディア』
『ソラちゃんヤベー』
『結局のとこ進捗どんなもんなんだろ。もう百層攻略は終わってんのかな』
『流石に終わってんじゃねぇかな二ヶ月ちょいも経ちゃ』
『どっちにしろ年明けまで動けないだろ定期』
『四柱たのしみですね』
『天上人の方々は無限に大変そうだぁ』
──────……
────……
──……
◇◆◇◆◇
幾度、幾十、幾百の果て、終に響くは殊更に高らかな剣戟の音。
然して両者動かず、互いに携えるは刃二つずつ。ゼロ距離にて終幕の舞踏を踊り切った体勢そのまま、決着……即ち、片方の首筋を得物の鋒が捉えた形にて。
鳴り響くは、システムが告げる終戦の調。然らば────
「「──────…………っぶは……!」」
もう何セット目かも知れない、五分一幕。
スキル諸々能力ナシ、武装は訓練用のダミー限定、といった純粋な実力勝負の〝お遊び〟に興じていた俺たちは、揃って同時に息を吐き出し崩れ落ちた。
「────んあー……ッ! っもう、ったく! 堪んないよ君ほんとッ……!」
「────どっちが……! お前もよっぽど曲芸師じゃねぇかよアホか……ッ!」
場は、白一色の空間。イスティア……──ではなく、南陣営ソートアルムは戦時拠点【騎士の王城 -エルファリア-】内部。インスタンス訓練場にて。
俺こと【曲芸師】は、ユニこと【重戦車】と仲良く床に転がり合った。
なにをしてんのかって別に大した話ではない。暦が十二月へと踏み込んでから一週間ほど、避け得ず意識するのは迫る第十二回四柱戦争の云々かんぬん。
それに際して沸々とテンションを上げているらしい南陣営序列第二位様から不意に誘われて、こうしてフラっと遊びに来たってな流れである。
……ついでに、呼ばれたのは俺だけではなく。
「────……んぉ? なんや、終わったか」
茶の間でテレビと逢瀬する休日のお父さんが如く。横倒れに床へ寝そべり適当に俺たちの遊びを観賞するまま、途中で飽きて寝ていた馬鹿一人。
もとい、トラ一匹。
「バッチバチに戦り合ってる傍ら五メートルで寝れるって神経ヤバくない?」
「あっはは。途中で顔面にナイフ投げ付けてやろうかって悩んだよねぇ」
「見てるだけ暇やねん。もう一人呼んで二組にしとけや」
俺、ユニ、トラ吉の並び。東南北の戦闘狂代表────という括りで呼ばれたのではないと信じたいが、まあ遠慮要らずという点では間違いなく気楽な面子。
遊び半分の修行と称して三人でグルグル勝ち抜きエンドレスを興じていたのだが、なんやかんやで気付けば二時間以上が経っていたようで。
時間を忘れて楽しんでいた……というより、俺に関しては普通に集中して事実のめり込んでいたから。最近ちょっと気合を入れて修練に励み始めていたタイミングだったということもあり、今回の誘いも渡りに船と張り切らせてもらった形だ。
強いからな、コイツら。マジで────……っと、
「あ、わり。俺ちょい飯落ち」
「俺も腹減ったわー」
「同じーく。とりあえずは満足できたし、解散にしとこっかー」
事前にセットしていた定刻アラーム。ちょうど午後七時を告げるサウンドエフェクトおよび視界端のアイコン点灯を以って、一抜け挙手。
然らば夕飯時など誰も似たようなものだろう。同意を示した二人も続き、突発的野郎交流会は名残惜しさも残さずサラッとお開きの流れへ。
ということで、
「急に悪かったねハル。ありがと付き合ってくれて」
「いや全然。俺も楽しかった。またいつでも誘ってくれよ」
「お、言ったね? じゃ、選抜戦までに何度か誘わせてもらおっと」
「へいへい。お手柔らかに」
ホストの少年アバターと拳をコツンと打ち付け合い、
「んじゃなトラッキー。またその内」
「おう。リンマルも連れて、またどっか行こや」
同じく招待客のトラ柄ツンツン頭と拳をゴツンとぶつけ合い、
「ではでは」
俺は〝鍵〟を虚空へガチャリ、我が家への転移門を開いた。
──────……そして、元新参者の後輩が姿を消した白一色の空間にて。
「…………………………ったぁく。どないなっとんねや、あんアホたれ」
「……堪んないよね、ほんッッッとに」
交差するは、同色の感情が彩る先達それぞれの声音。
各々が浮かべる表情も、また等しく。喜怒哀楽の全てを網羅するような複雑な心の内でもって、ユニとタイガー☆ラッキーは顔を見合わせ苦笑いを交えた。
「…………────囲炉裏から、なんか最近ヤバいって聞かされてさぁ」
「おう」
「好奇心に負けて、呼んでみたんだけどさぁ」
「おう」
結果がコレだと、南陣営序列第二位【重戦車】が笑う。
────おおよそ二時間。休憩も挟みつつ、五分一幕を延々と。ハルは勝敗を気にせず『修行』に集中していたようだが、ユニたちは明確に覚えている。
覚えざるを、得なかった。
刻まれざるを、得なかった。
当然だ────二人揃って、完全に負け越したのだから。
「まあ、なんというか……アレだよねぇ」
「せやなぁ……せやろなぁ」
能力諸々ナシ、純粋無比な、技術勝負。
ゆえに言い訳が利かず、正真正銘を突き付けられた形。
……重ねて、喜怒哀楽コンプリート。強敵の成長が喜ばしくもあり、後輩に敗北を喫した己が腹立たしくもあり、また男の子として切なくもあり、しかしやはり生意気な後輩の常軌を逸した生意気っぷりが楽しくて仕方なくもあり────
「まーた、なにか、あったんだろなぁ……」
「まーた、なんか、あったんやろなぁ……」
いわんや、また何かしらの『成長イベント』が。
尽きぬ事柄に直面するたび、躍進どころか遥か高くへ飛躍する翼。本当に、もういい加減にしてくれと腹の底から笑いと悲鳴の合掌を絶えず引き出す特異点。
見やる観測者たちは、溜息を一つずつ。
「トラ」
「なんやねん」
「夕飯の後、空いてる?」
「……………………空いとる」
生意気極まる、馬鹿げた星を落とすため。
彼らが負けじと駆け続けるのも、これまで通り。言うまでもないことだろう。
よーく読むと分かるようには描いてるけども、二週間弱ほど経過しました。




