Let there be light
────『魔工』術式、起動。
「……魔工作業用の姿じゃなくて、いいのー?」
「今その絵面で、お前が構わないなら俺はどっちでもいいんだけどな」
もうすぐ、サービス開始から四年が経とうとしている今に至り。
アルカディアの総合的制作基盤概念たる魔工技術、その出来栄えに関して魔力の多寡は一切関係ないと膨大なデータから結論が出されている。
魔工師が誰しも精神ステータスにポイントを積み上げているのは、単に作業に注ぎ込むMPを確保するため。そして気分的なゲン担ぎ程度に過ぎない。
そう、結局のところ、大事なのは気持ち。
「いいから、見とけよ」
技術も、才能も。魔工に関しちゃ恥ずかしながら、俺は甚だ凡庸だけれど。
「今なら────感情ありったけ、籠められるからさ」
この仮想世界は、現実世界よりも余程、人の心を〝力〟にするから。
静かに真っ直ぐ見つめる藍玉に、生意気な顔した俺が映っている。そいつは一層、人の気なんか知らないような様子で無邪気に笑いやがって────
他でもない彼女から……──【藍玉の妖精】から受け継いだ青く蒼く藍い光が、燦然と輝き空間を満たす。時を経て変遷した、その〝容〟は、
「…………星」
ニアが手元で自由自在に操る精緻の極みとは、似て非なるモノ。もっと大雑把に、もっと破天荒に、どこまでも果てなく広がるかのような────
「プラネタリウムだー……」
「ま、実力に関わらず無駄に壮大な感じは俺っぽいだろ?」
幾重にも交わる藍の光輪、無数に浮かぶ白い星点。
寄り添い合って形作るは……ひどく大袈裟で、粗削りで、みっともなくて、けれども否応なく目を奪われるような、燦然と輝く天体軌道図。
「ニア」
「……はい」
さあ、その中心で。
「好きだ」
あの日の答えを、今キミに。
「……っ」
重ね合った掌の上。仄かな光を放ち続ける腕輪に、光点が宿る。
「目が好きだ。藍色も緑色も、どっちも綺麗で、いっつも落ち着きなくあっち見てこっち見て、いつもいつもキラキラしてる。いつもいつも、見てて眩しい」
いくつでも、
「声が好きだ。現実世界でも仮想世界でも。お前の言葉に、ずっとずっと助けられてきた。支えられてきた。……音でも、文字でも、いつだって、聴こえてたよ」
いくらでも、
「それから……なんて言うかなぁ────心が、好きだ。俺のことを好きになってくれて、不器用だけども一生懸命で、ずっと健気で、たまに生意気で、稀にムカつく感じも……まあ、そこはお互い様ってか、そういうところも本当に、全部さ」
尽きるはずなんてないから、いつまでも。
「────俺、ニアのことが大好きだよ。もうどうしようもねぇ」
「────……っ!」
俯かない。俺を見つめ続ける宝石が、ささやかに形を歪めて雫を纏う。
胸に衝撃。視線を下げればゼロ距離に藍色。
重ね合わせていた手は繋がり合って、お互いの身体の間。引力に逆らうことなく自然と絡め合った指の隙間から、拍動を強める〝光〟が差す。
「………………」
「……、……っ」
愛おしい呼吸の音を聞きながら、目前の頭頂。他に眺めるものもないので可愛らしい旋毛を眺めていれば、困ったことに俺まで視界がぼやけてきた。
────術式制御? 知ったことかよ。
特等席で〝恋〟を叩き付けてやってんだ、勝手に腹一杯になりやがれよと。
暴挙も暴挙。仮想世界中の『紡ぎ手』を夢見る魔工師たちに呪われても仕方ない……けれども、これでいい。これ以上は、きっと俺にはできないだろうと。
確信を以って、代え難い熱を抱き続けて、その時が来る。
◇特殊称号を獲得しました◇
・『伝承の紡ぎ手』
簡素も簡素、いっそ素っ気ないまでのシステムメッセージが一行だけ。
視界端に流れた時には、既に光が止んでいた。
「…………ニア」
「…………」
「ニアちゃんや」
「…………ん、……うん」
空いている片手で頭をペフペフ。
さすればニアは、人の服で盛大にグシっと顔を拭った後に身体を離して、
「「────……」」
二人一緒に、繋いでいた手を開いたならば。
「……………………っ、ははっ……! ぁー、恥っっっっっず」
「………………ほんとだね。キミ、どんだけニアちゃんのこと好きなのかな?」
その瞬間。
理解した『結果』に二人揃って、一周回って気の抜けた笑みを零し合い、
「まあ、そうな…………こんくらい?」
俺は、掌に在る紛れもない我が作品を。新たに仮想世界へと生まれ落ちた『語手武装』────否、どうも違うらしい。
武装ならざる、その名も『語手想具』を指して宣えば、
「………………────ずっと、傍にいろって?」
「願わくば」
ニアは、わざとらしい苦笑い一つ。
「……さっきも、言った通り」
藍と白、二本のラインを一本の赤い糸が紡ぐ、揺れる光を湛えた小兎の姿を宝飾に頂いた腕輪────【序説:光差す藍の恋導】を握り締めて。
「キミの頑張り次第、だよ? ────ハル君」
俺を落とした笑顔でまた、何度でも俺を魅了するんだ。
愚かで尊き恋の道行きに、光あれ。
1000話 おめでとうアルカディア。
10/31 Happy birthday ニアちゃん。
といったところで五章第七節、これにて了といたします。




