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天霊騎士は悪魔と踊る  作者: アラカワ
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第7話 『試験』

レタリア王国の首都リーテン、レタリア王国で最大の人口を誇るこの都市は数多くの建造物があり、外から来た者は活気あふれる街並みや王城に目を奪われると言う。


 そんな活気あふれる街中から少し離れたところを歩くブロンド髪の少年アルトは、リーテンに戻ってからの2日間を宿で過ごし、現在はとある場所を目指していた。


 目的の場所とは、レタリア騎士養成学院である。もともとアルトは学院に入るために戻ってきたのだが、リーテンにつくや否や実家でひと悶着があり、フェルナース家ではなくなったので街中で買い物を済ませ適当な宿で寝泊まりをしていたのだ。


 ここまでの旅路は常に神経を研ぎ澄ましていたので疲労もかなり溜まっていた。なのでリーテンに来てからの2日間はアルトにとって心身を休めるのにはちょうど良い機会だったとも言える。


 レタリア騎士養成学院を目指してからしばらく歩いたアルトは、先ほどからすれ違う人達の見た目で目的地が近いことを悟る。活気あふれる街の中心から離れてることもあり人通りは少なく、道行く人も騎士の格好をした人や学院の生徒と思しき人達が大半だ。


 そんなことを考えてるうちにすぐにレタリア騎士養成学院にたどり着いた。学院の見た目はリーテンにある建造物の中ではやや地味目でありどちらかというと見た目よりも頑丈さなどの機能面を意識したつくりになっている方だ。


 また壁に守られたリーテンの中でさらに壁に囲われた学院は外から見ると少しばかり息苦しさを感じてしまう。もっとも、学院の生徒たちはそんなことなど一ミリも思っておらず、日々の鍛錬に明け暮れる毎日である。


 学院の入り口には門があり、そこから中に入るのだが門には目算70人ほどの列ができていた。歳はアルトと同年代ぐらいの人たちが多いが年上の人たちも何人かは並んでいた。そして列の全員が腰に剣を下げており、体を鍛えていることがうかがえる人達ばかりだった。アルトも無言で列の一員に加わった。


 アルトが並んでいる列の正体とは学院の当日入学試験に挑む者たちの列である。  


 レタリア騎士養成学院に入学する方法はいくつかある。代表的なのは天使か精霊の契約者であること。契約者である場合は試験などもなく入学できる。一方で、契約者でない場合は学院の騎士見習い何人かとの模擬戦を複数回行い勝利するか、その模擬戦を講師である騎士が評価すれば入学することができる。


 


 毎年1000人ほどの志願者が試験である模擬戦を受ける。そして100人ほどが試験を突破することになっているのだが、この試験は入学の前日まで受けることが可能になっている。


 その理由とは素質や将来的に騎士になったときの部隊の相性を見極めるためである。講師の騎士だけでは魔物たちとの戦闘が多い前線の部隊がどういった騎士を欲しているかの見極めが難しため、非番の騎士たちが学院に足を運び自身が所属している部隊と合うかどうかの判断ができるようにするために入学前日まで試験を受けることができるだ。


 ちなみに試験に挑戦できる期間は入学のひと月前から可能で最大で3回のチャンスがある。なので今アルトが並んでいる列の人たちのほとんどが、3回目の人たちであることは漂う空気感や、チラホラと聞こえる「あの騎士はここが弱点だ」などの情報交換から容易に想像ができる。特に列の中央辺りでは盛んに情報交換などが行われていた。

  

  話し相手がいないアルトは、これと言って暇をつぶす物を持ち合わせていないため、聞こえてくる声に耳を傾けようとしたとき


 「もうちょっとで試験の開始時間だな。それにしても、みんな少しでも合格率をあげるために情報交換とかやっているのにお前さんは随分と落ち着いているようだな。よっぽど腕に自信があるのか?」


 「緊張で剣を落としたりしないように精神を落ち着かせているだけですよ」


 「そういうことか。まあ今日が試験最後の日だからな。そんなミスで不合格にでもなれば一生の後悔だろうしな。」


 気さくに話しかけてきたのはアルトの前に並んでいた人物だ。背丈はアルトより少し高くて体つきもがっちりしている。腰に下げている剣はアルトの剣よりも大きく、俊敏性以上に頑丈さなどに重きを置いている剣だ。


 こういった剣は都市から離れた街や村の住民や騎士が好んで使うことが多いことをアルトは知っている。

 鍛冶師などの技術者は貴重な人材のため、都市から離れた村では腕の良い技術者は存在しない。なので貴重な武具の消耗を抑えるために強度や耐久性に優れた剣を扱う傾向にあるからだ。


 「そういや自己紹介がまだだったな。俺の名前はレンだ。歳は18で出身はブルクっていう田舎の小さな村だ、レンって呼んでくれ。」


 自己紹介とともにアルトに握手を求め右手を出すレン。


 「名前はアルトです。歳は16で試験を受けるのは今回が初めてです。レンさんは試験は何度目なのですか。」


 差し出された手を握りアルトも簡単な自己紹介をする。


 「おれも今年が初めてだぜ、って言ってももう2回も落ちてるから初めてって言えるかは微妙なラインだけどな。アルトは何回目の挑戦なんだ?」


 「僕は今日の試験が初めての挑戦になります。色々とあってリーテンについたのが2日前になってしまって。」


 「そいつは運がなかったな。毎年試験最終日は模擬戦の相手が前線で戦っている騎士たちだって噂があって、試験最終日に合格した人間はこれまでいなかったとか前の連中から聞いたぜ。」


 「それでもこれだけの列があるのは驚きですね」

 

 「まあ、みんな自分だけは違うって思っているんじゃねのか。それに中には初めての最終日合格者を狙っている奴もいるとか」

 

 アルトとレンが試験の話をしていると列に動きがあった。試験官の騎士が現れ、門の中へと列を誘導していく。


 門を抜け案内されたのは二階建ての小さな闘技場のような場所だった。一階が戦闘を行う広場で二階が観戦をする場所だ。闘技場の中には騎士や騎士見習いがおり、アルト達を品定めするような視線が飛び交う。


 そして、二階の席にいる騎士の中から一人が立ち上がった。声は発していない。ただ、その騎士が立ち上がった瞬間、他の騎士たちとは一線を画すような凄みを感じる騎士だ。それは決して訓練では手に入れることができないもの。数多くの実戦を繰り返し研ぎ澄まされ、ようやく手に入れることができる殺気のようなものだ。


 「諸君、今日はよくぞレタリア騎士養成学院の試験を受けに来てくれた。私はこの学院の学院長を務めるボデス・ノーメルだ。今から簡単にだが試験のルールを説明する。諸君らにはこれから、ここにいる騎士たちと一対一の模擬戦をしてもらう。万が一の事故を避けるために模擬戦では訓練用の剣で行うものとする。あっちにいくつかの種類があるから自分が扱いなれた剣に近いものを選ぶことをお勧めする。

そして最後に試験の合格基準だが、騎士に勝利した者、あるいは見込みのある者が合格と言った非常にシンプルな物だ。諸君らの検討を祈る。」


 ボデスが説明を終えると、他の騎士が訓練用の剣の所に列を誘導する。前列の5人から武器を選ぶように騎士から声がかかる。


 1分も経たないうちに5人が武器を選び終えると、広場の中央に向かうように指示が出される。広場の中央には訓練用の剣を持った5人の騎士が横一列に並んでいた。


 彼らと向き合うように前列の5人も横一列に並んだ。すると両端の騎士が横に歩き出した。ある程度動いてもぶつからないくらいの間を開けて騎士と受験者が向かい合う。


 わずかな静寂が広場に訪れる。すると二階席にいるボデスが再び立ち上がり訓練用の剣を持った10人を目視する。


 「どうやら全員の準備ができたようだな。では、構え、始め」


 ボデスの簡潔な開始の合図とともに全員が剣を構え動き出す。


 「ようやく始まったな。どうだアルト、少しは緊張してきたか。」


 剣のぶつかり合う音が響く中、レンが明るい声で話しかける。その声音は自分が落ちることなど微塵も想像してないようにアルトには聞こえた。


 「少しだけ緊張してきました。逆にレンさんからはあまり緊張を感じませんね。」


 「まあな。俺は田舎出身だから村を襲う魔物としか戦ったことがなかったからな。騎士の剣を上手くよけたり捌いたりするのが難しかったけど、前回の試験から今日まで他の志願者と稽古をしたりして人の剣に慣れたからな。」


 アルトとレンの会話が続く中、早くも志願者の中から脱落者が現れた。騎士の攻撃を綺麗に受け切っているかのように思えたが一度も攻撃に転じることもなく敗北していた。それからすぐに残りの四人も敗北の結果で終わった。


 それから同じような光景が何度か続いた。70人ほどいた列も残り10人まで減ってしまった。しかし、未だ合格者は一人も出ておらず、列に並んでいた時にレンから聞いた、最終日の合格者がいまだに出たことがないと言う噂が現実味を帯びてきたなんてアルトが頭の中で考えていると、訓練用の剣を選ぶ時間がまわってきた。


 訓練用の剣の種類はアルトが想像していたよりもかなり多かった。中には短刀ぐらいのサイズもあり、かなり色んな戦い方ができそうだ。


 アルトは普段自分が使っている剣と同じサイズの剣を選んだ。横にいるレンもアルトと同じように使い慣れてるであろう少し大きめの剣を選んでいた。


 訓練用の剣を選び終えアルト達が広場の中央に向かい、先ほどの志願者たちと同じように試験官役の騎士と相対する。

 

 全員の準備が完了し、いよいよ最後の試験が始まろうとしたとき広場の入り口がざわめいた。


 見ると一人の騎士が広場に向かって歩いてきている。騎士の姿があらわになると二階席にいる騎士や騎士見習いたちが何か話し合いだした。アルトの耳に届く声には「なぜあの方が」や「どうしてここに」などと困惑気味の声が聞こえてくる。突如現れた騎士はボデスの元まで歩いていき


 「お久しぶりですボデス学院長。」


 「久しぶりだなアラン。それで一体何の用だ。」


 「事前の連絡もなく不躾なお願いにはなるのですが、最後の試験、私も試験官として参加させていただけませんでしょうか。」


 「それはお前のおやじのお願いか」


 「いえ、父ではなく私個人のお願いです。」


 「まさか礼儀正しいお前がいきなりそんなことを言うとは少しばかり驚いたが、いいだろう。アラン、お前を試験官として認める。ただし、少しでも手を抜けばどうなるか分かっているな。」


 「はい、全力を尽くします。」


 ボデスに一礼したアランという名の騎士は広場の中央、一人の志願者の元に歩いていく。


 綺麗なブロンドの髪に幼さはなく真面目で誠実そうであり優しそうな顔の青年の騎士アランはとある志願者の前で足を止める。


 綺麗なブロンドの髪に少しばかり幼さが残る顔に灰色のローブを纏った志願者、アルトの前に。


 そしてその瞬間、ボデスの「構え、始め」の合図とともに今年度のレタリア騎士養成学院最終試験が開始する。 

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