意外と伝わるもので
敵意剥き出しである。
こりゃダメだと思った。
歯がをここまで剥き出しにされなければならないようなことを、私は何かしてしまっただろうか。
ここで
「怖くないよ〜」
と言うのはナンセンスだろう。
何をどうするべきか、と、暫し思案する。
目が合ってしまった。
低い唸り声がする。
そのとき、ふっ、と気が付いた。
私は自己紹介をしていない。
「初めまして、私はオオサワハジメと言います。宜しくお願いします」
すると、にわかにおとなしくなって、私に近づいてきた。
案外と伝わる物があるようだ。
手を伸ばして毛並みに触れようとすると、後退られてしまった。
惜しかった。
「君はこれから、私と一緒に家族になってくれる人を探しましょう。私と一緒に来てくれますか?」
そう言って、手を差し伸ばしてみた。
軽く私の手の匂いを嗅いでから、更にこちらに近づいてきた。
私はペット用キャリーの入り口を開けて、
「これに入ってくれますか?一緒に行きましょう。中はタオルを敷いてるので柔らかいですよ」
一瞬、キャリーを怖がっているようにも見えたが、恐る恐るという感じで中の匂いを嗅ぎ始め、それから、私の顔を見た。
私は一回、頷いた。
ゆっくりと中に入っていく。
「閉めますよ」
そう言ってから、キャリーの入り口を閉めた。
あまりにもおとなしくて、中に本当にいるか疑わしいような気分になった。
初対面の私で、これだけ言うことを聞いてくれるのだから、きっと直ぐに家族が見つかるだろう。
私は一先ず安心して、保護施設へと向かった。