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6話 二対のガバメント

「なぁ、お前アイリスに接続出来るか?」


 走行中、龍二さんがそんな事を聞いてくる。


「……それがですね、ずっとオフラインで」


 アイリスというモノは、聴覚拡張デバイスを導入しているならいついかなる時でもアクセスが出来る。


 聴覚拡張デバイスを導入していると、網膜にコンソールのようなモノが投影され脳波をキャッチし操作、アイリスへの接続が可能だ。


 この状態でアイリスにアクセスすることはハーフダイブと呼ばれている。


 完全に意識をアイリスに持っていき、電脳的仮想世界"アイリス"に潜るのはフルダイブだ。


 このボディにも聴覚拡張デバイスは導入されているようだ。だがどういう訳か、ずっとオフラインのままでアイリスに繋がらない。


「そうか……その件についてもヤマさんに聞いてみるか。あの人技術者上がりだしな」



 その後は特に会話もなく、ただひたすら荒れた外縁部を走り抜けていく。


「……あ」


 少し開けた大きな道に出ると、ちょうど正面の方角に天に向かって聳え立つ摩天楼の数々が見えた。


「……こうしてみると、ひどい格差」


 遠くに見える新京市中心部と外縁部の差は強烈だ。


 そうして、目的の場所にたどり着く。六丁目のヤマさんとは果たしてどんな人物なのだろうか。


「確かこのボロアパートの三階だったかな」


 そう言って龍二さんはアパートの中に入っていく、俺もそれに続いた。


 三階に上がったところで、何やら龍二さんの足がピタリと止まる。


「どうかしましたか?」


「……静かにしろ」


 そう言うと、龍二さんは右手をジャケットの脇に突っ込み何かを取り出す──。あれは拳銃だ。


 それは、ぱっと見"コルト M1911"のように見えた。だけどなんか太いし銃口が二つある。ちょうどガバメントを二つくっつけたみたいな……


「……なんですかその見るからにヤバそうな銃は」


「いいから、ちょっと隠れてろ」


 俺にそう言い残すと、龍二さんは一気に駆け出してある部屋のドア前で立ち止まる。


 銃を構えた彼は、そのままボロい木製のドアを勢いよく蹴破り部屋の中に入っていった。


「……ごくり」


 よくわからないが、かなりヤバそうな事態なのはわかった。


「ちっ、遅かったか」


 三十秒ほどして、龍二さんが部屋から出てきた。俺は彼の元にいく。


「いったい何が──っ!?」


 チラリと蹴破られたドア越しに見える部屋の中、一人の老人が倒れていた。……床には真っ赤な血が溢れていた。


「子供が見るもんじゃない、あっち向いてろ」


 そう呟き、龍二さんは手のひらを耳に当てる。


「メイか? 殺しだ、外縁部六丁目……」


 どうやら警察(なかま)に連絡を取っているようだ。


「……っ」


 その時だった、またも煩わしい頭痛が俺を襲ってくる。



『こっち……』



 え……? 今誰かの声が──


 俺は再び部屋の中を覗く、そしてある物が目に入る。


 部屋の隅、青色の光を放つ半透明のポール型の機械が置かれていた。


「アクセスポイントか……」


 あれはアイリスへのアクセスポイントだ。聴覚拡張デバイスを持っていない人でもアイリスにアクセスできるように作られた設置型ターミナル。


 街中でも結構見られる物なんだけど……でもなんだろう。不思議な感じがする。


「どうかしたか?」


 と、連絡を終えた龍二さんが訪ねてくる。


「いや、声聞こえませんでした?」


「──声? 誰のだ?」


 聞こえなかったのかな、でも確かに「こっち」って声が聞こえたんだけど。


「……」


 俺の足は、部屋の中にあるアクセスポイントの方に向く。


「おいバカ、無闇矢鱈に現場に入るな!」


 龍二さんが慌てて追いかけてくる。だけど今はどうしてもあれが気になる。


 物が散乱した部屋の中を歩き、ターミナルの前にたどり着く。


「これは……ターミナルか?」


「みたいですね」


 俺はターミナルの前にしゃがみ込む。



『こっち……』



 まただ、確かに聞こえた。


 俺は後ろの背中、頸辺りをサワサワしてみる。やっぱり有線接続用のポートが一つ付いていた。


「今どき有線……」


 今はなんでもコードレスの時代だと言うのに。


 俺はターミナルから伸びるケーブルを手に取る。


「おいおい何してんだ葵」


 不思議そうな顔をする龍二さん。


「なんか、呼ばれたような気がするんです」


「は? 呼ばれた?」


 ケーブルの先端をポートにパチリと嵌める。オフライン状態だった聴覚拡張デバイスがオンライン状態になった。


 目の前に現れる『ようこそアイリスへ!』の表記。無事に接続出来たようだ。


「この表記からするに……このボディはアイリス処女(みけいけん)っぽいな」


 取り敢えず仮アカウントを発行しておく。



『こっちの世界で待ってる……』



 再び聞こえる声。こっちの世界、フルダイブしろという事だろうか。


「龍二さん、ちょっと行ってきます」


「行くって、アイリスにか? なんでまた」


 なんだと言われても……正直俺もよく分からない。でも何故かこの声の主の事が気になって仕方がない。


 コンソールを展開、フルダイブの欄を選択する。


『アイリスへのフルダイブを開始します、使用の際は周囲の状況をよく確認して──』


 流れる注意書き、それらを流してログインボタンを押す。




 そうして、周囲の景色は一変。俺はアイリスへのフルダイブを開始した。

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