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4話 市警の男

 なんとなく、あの柄の悪い男に「愛玩人形」と呼ばれた時からそんな気はしていた。


「身体のこんな部分に企業ロゴのタトゥー、機械みたいな型番……なんかおかしいなとは思ってました」


 外縁部には違法ドールが出回っていると言う噂も聞いた事がある。


 柄の悪い男どもが俺を「愛玩人形」と判断したのは、多分この烙印が他の個体と同じような感じだからなのだろう。


「日本企業も法の目を掻い潜って、規制の緩い国で生体ドールを生産してるなんて事実もある」


 あぁ、だから"赤坂重工"なのか。そりゃ"商品"には"商標"が必須だしね……


「……ってか、アナタは何者なんですか? 随分とその手の事情に詳しいようですけど」


 話は変わるが、結局この男は何者なのだろうか?


「名乗り遅れた。俺は新橋龍二(しんばしりゅうじ)、まあ一応市警の人間だ」


 え、ちょっと今この人サラッととんでもない事言ってなかった?


「け、警察官だったんですか? いやいやどう見てもその筋の人かと……」


「……なんだそりゃ。疑ってんのか? ほら」


 彼は手のひらを俺に見せつける。そうしてその手のひらから市警のロゴのホログラムが浮かび上がる。


 新京市警という漢字とSKPDというアルファベット、警察官の身分を示す電子手帳だ。


「警察の人が違法ドールとかなおさらマズくないですか?」


 警察官って一番法を遵守しなきゃいけない人達でしょ!


「まぁそうなんだがな……ホントはお前見つけたら直ぐにでも報告しなきゃいけないんだが……」


 何か歯切れが悪そうな龍二さん。


「いけないんだが?」


 ──何か特別な事情があるのだろうか。


「お前があまりにも……娘に似てたから」


 は? む、娘?


「それって、亡くなったっていう……?」


 男は静かに頷く。


「……すみません、思ったより個人的な理由ですね」


 言っちゃ悪いけど、似てるからって違法ドール拾ってくるか?


 まあ俺には子供なんざいないから親心なんてものは分からない。親ってのはそういうものなのだろうか?


「俺もそう思う」


 いやいや、認めるんかい。


「そんなに似てるんですか?」


 気になって彼にそう聞いてみる。すると龍二さんは首から下げていたロケットを取り出して、開いて俺には見せてくる。


 中には金髪の少女の写真が。


「……新橋愛理(あいり)だ」


 ボソリと名前をつぶやく。確かに……写真を見る限り私そっくりだ。


「ホントにそっくり……」


 でも、この娘明らかに日本人じゃないよね。龍二さんは明らかに日本人だけど、何か事情があるのだろうか。


「お前はどこ産だ?」


 龍二さんはロケットをしまいそう質問してくる。


「どこ産?」


 どういう意味……あ、もしかして。龍二さんは俺の事を"作られた人格"と思っているのだろうか。


「……」


 どうすればいいのだろうか、素直に話すべきか。


 でもそうなると、俺がアイリスで行なっている一連の"イタズラ"も話さなきゃいけないという事になるのだろうか。


「どうした?」


「あ、いえ……」


 ひとまずは隠した方がいいだろうか、いや下手に隠しても……


「実は俺、普通の人間なんです」


 ここはうまく隠しつつ、重要な部分だけをひとまず話すことに。


「どういう事だ?」


「アイリスで変なファイルを拾って、開こうとしたら気を失って。気がついたら意識がこの身体に」


 俺の話を聞いて龍二さんは頭を抱える。


「……そんな事あるのか?」


「俺も、聞いたことないです」


 実際、意識が生体ドールに乗り移ってしまう事案など聞いたことがない。


 現在、記憶などをデータ化し保存する技術は存在している。人格データ、所謂"魂"を抜き出して移植できるなんて技術は聞いたことがない。


「すまんな、さっきも言ったが。この手の事件は専門外なんだ。一応最低限の知識は頭に入ってるが」


 ……まあそうだろうなぁ。だってこの人いかにもインテリ派な仕事じゃなくて、派手な仕事を担当していそうな雰囲気だから。


「あ、あの。俺の事を国に突き出したりしないですよね……?」


 俺はなるべくあざとく、瞳をウルウルさせながら龍二さんにそう言ってみる。


「はぁ、めんどくせぇもの拾っちまったぜ……」


 ふふ、それは自業自得だ。スルーしておけば良かったものを。



 ぐぅ〜



「……」


 と、真剣な会話の空気をぶち壊すかのように、俺の腹の虫が鳴ってしまう。空気を読んでくれまったく……


「腹減ったのか?」


「え、はい。すみません……」


 俺のその言葉を聞くと、龍二さんはキョロキョロと部屋の中を見渡し始める。


「なんもねぇな、しかたねえ。外に食いにいくか」


 龍二さんは乱雑に物が仕舞われている棚をゴソゴソと漁る、そうして何かを取り出して私に投げてきた。


「ゴホッ……埃だらけ」


 それはサイズが小さめなヘルメットだった。


「ほら、乗れ」


 龍二さんはシャッターを開けヘルメットを被り、真紅のバイクにまたがる。


 俺も後部の二人乗り(タンデム)用のシートに跨り、龍二さんの腰に手を回す。水素モーター特有の「キィィィィィン……」という甲高い駆動音がガレージ内に響き渡る。


「いくぞ、しっかり捕まってろよ」


「は、はい!」


 そうして、真紅の大型バイクはガレージを飛び出した。

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