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33話 電子精霊の魔術師

「ははっ、なんだよそれ。なんのコスプレだ?」


 と、男は馬鹿にしたような笑みを浮かべてそう言ってみせる。


「バカにしてられるのも今のうちだぜ、懺悔の用意は出来ているか!?」


 ビシッと。ヤツに指をさして、そう高らかに宣言してやる。


「はっ、お前みたいなコスプレ少女にそんな事言われても怖くもなんともねーよ!」


 バカにしやがって、そのコスプレ少女がお前の事をメタメタにしてやる!


 と、俺の目の前に現れたウイルス型の武士が刀を振り上げて突進してくる。


 何がともあれまずはあのコンピューターウイルスから駆除しなければ。


「────って、武器とかないのか!?」


 今更だが、何か武器とかないのかこのシステム。素手じゃ流石にキツいぞこれ!


「うわぁ!」


 ブンっと振り下ろされる刀をすんでの所で避ける。そうしてソイツと一度距離を置く。


「よし、なら……そりゃ!」


 頭の中で念じると、俺の手にはチアのポンポンが。これで……


「《Code.0001/Virus Fixed Attack》!」


 コンピューターウイルス固定用の術式を実行。これで捕まえられるはず──


「────よ、避けられた!?」


 だが、そう上手くはいかなかった。武士はその固定用包囲システムを華麗に躱してみせる。


「と、どうすんだよ……あれとデリート用のしか術式持ってないぞ……」


 一体どう戦えば良いのか。デジタル魔法少女流の戦い方を誰が教えてくれ!


「ははっ、何だよ。攻撃はそれで終わりか? やっぱ大した事ねぇなお前!」


 建物の屋根の上で偉そうにしている男がそう叫んでみせる。ちくしょう、バカにしやがって!



 その後も、術式を決められずにただ相手の攻撃を避けるしかない俺。


「何か打開策は……」


 何かないのか、と。逃げ回りながらひたすら考える。建物の中に隠れて倒す方法を必死に考えていると──


「……って、うわぁ!」


 いつの間にか、目の前にあのふわふわとした人魂のようなモノが浮かんでいた。


「…………なんだコイツ?」


 ソイツは俺の周りをふわふわと飛んでいる。


 と、その時だった。TS-Systemからピコンという通知オンが鳴る。コンソールを開き確認してみると──


《電子精霊の存在を感知、補足システムを起動します》


 という、日本語のダイアログが。──っていやいや。


「電子精霊ってなんだよ……」


 全く状況が掴めないが、どうやら今までは隠されていた機能のようだ。


「よくわからないけど、打開策になるかもしれん!」


《電子精霊TYPE-01の情報をダウンロードしました》


 という通知、そして──


「ちょ、え……?」


 人魂がキラキラと輝き始める。おいおいそんなに光ったら──


 スパンスパンッ、と隠れていた建物の扉が切り裂かれる。そうしてヌッとあの武士が侵入してきた。


 それとほぼ同時に、人魂は徐々に"人"のような形になる。そして……


「……」


 俺の目の前、丁度武士と対峙するように。一人の少女が現れた。


「な、な、な……」


 なんだ!? あの人魂が人になったぞ!?


 いや、まあここは電子空間なんだし多少おかしな事があっても……いやいやでも──



 後ろ姿しか見えないが、その少女はなんともまあコスプレがかった衣装を纏っている。


 なんだろう、例えるなら……魔法使い? というよりマジシャンっぽい?


「……っ! それよりアイツ!」


 武士はゆらりゆらりとコチラに近づいてきている。


 と、目の前の少女はスッと手に持っていた大きな杖を武士に向ける。


 すると、その杖の先に火球が現れ……ヤツの元に飛んで行った!


 火球に吹き飛ばされる武士。すげぇ、なんだ今の攻撃……


「……」


 その少女は何故か一言も喋らない。普通の人……ではないのか?


 俺は彼女の元に近寄る。見れば見るほどまたコスプレがかった格好だ。


 俺と同じ金髪、高校生くらいの背丈。うーん、かなりの美少女。


「おい、ソイツ……まさか?」


 スタッと、地面に着地し外からコチラのことを見てくる男。


「……! ってか今がチャンスだろこれ! 《Code.0001/Virus Fixed Attack》!!」


 倒れている武士に向かって術式を実行。


 続けて《Code.0002/Virus Delete Attack》も実行してコンピューターウイルスをデリートした。


「……っち! やりやがったな!」


「はっ、見たか!」


 散々バカにしてた相手にしてやられる気分はどうだ!


「もう終わりか? ログアウトでもするか? あ、出来ないんだったなぁ、お前の仕掛けのせいで」


「……このやろ」


 ははっ、自分の仕掛けが仇になったな。


 俺は建物を出てその男の元に近寄っていく。と、その時だった──


「…………ッッ!? な、なんだ今の!」


 空を裂くような、大きな咆哮がエリア一帯に響き渡る。なんだコレ? このエリアの仕様?


 動揺しているのは男も同じようだ。キョロキョロと灰色の空を見渡している。


 そうして……灰色の雲を引き裂き、信じられないモノがこのエリアに降臨した。


「……ど、ドラゴン?」


 燃え盛るような赤、煌めく火の粉を撒き散らす巨躯の竜が出現したのである。

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