32話 精霊の導く先は
「にしても、やっぱここにいるヤツは和風なアバターが多いな」
場所が場所なせいか、このエリアにいるのはそういう人たちが多い。
「ここも結構広いからなぁ」
取り敢えず大通りを歩く、通りの左右には時代劇にでも出てきそうな建物が。
そうして、江戸風な街を探索すること数分、俺はある奇妙なモノを見つけた。
「……まただ、あの人魂みたいなの」
ふわふわとした人魂のようなモノが漂っている。
周囲を歩く人々はそれを気に留める様子はない、見えていないのか……?
「……よし」
俺はソイツの後をついていくことにした。
「……いやいや、なんだこれ?」
そうして辿り着く。
それは長屋がひしめく路地の奥地。周囲はカクカクとしたテクスチャ崩れみたいになっいる、そうして──
「まるでブラックホールだな……」
近寄ったら吸い込まれそうだ。
コンソールを展開して座標を確認する、人通りが殆ど無いから気が付かれていないのだろう。
恐る恐るソレに近寄ってみる。良かった、吸い込まれたりはしないようだ。
「……」
そっと、手を伸ばしてみる。すっと中に入っていく感覚。
「よし」
俺は中に入ってみることにした。フワンとした妙な感覚、そうして中は──
「何だこりゃ、何も見えねぇ……」
辺り一面が深い深い霧に覆われている。何があるのか全く把握出来ない。
「あれ? あの人魂いないな」
いつの間にか消えていた、いったい何処にいったのだろうか?
とにかく、前に進んでみる。何故だかこの先に目的のモノがあるような、"奇妙な感覚"がするから。
「どこまで続いてんだこれ」
結構歩いたような気がするが、まったくこの空間が終わる気配がない。
コンソールを開いて再度座標を確認する、が──
「不明、こんな事あるのか?」
流石に引き返そうか迷っていたその時だった。
「おっ……」
その空間は唐突に終わりを迎えた。すっと空間から飛び出る感覚、そうして目の前には不気味な景色が広がっていた。
アイリス特有の、あの青い空は無くただひたすらどんよりとした雲が広がっている。
「……なんか、嫌な雰囲気しかしねぇ」
周りには先程同様、古風な街が広がっている。だが他のアバターは誰もいない。
「おい、お前誰? 何でここに入れてんの?」
「……!?」
声? 一体誰──
「──なっ、お前誰だよ!」
ソイツは建物の屋根の上にいた。俺の事を警戒心を持った視線で見つめている。
「聞いてんのはこっちなんだが、躾のなってねぇガキだな。しっかりとプロテクトかけてきた筈なんだが」
その謎の男がスッと立ち上がる。
「プロテクト? テクスチャ崩れでこれ見よがしに入り口用意されてたぞ?」
あれで隠したつもりならお粗末過ぎる。
「────お前、もしかして"感じれる"ヤツか?」
「感じれる? 何の話だよ」
一体何の事を指しているのだろうか。
「ははっ、知らねーのか。でもスゲェな。本物を見るのは初めてだ」
ソイツがピョンとジャンプして俺の目の前に着地する。
「あー、せっかく見つからずに上手くやってたのになぁ」
心底ガッカリした様子の彼。
「見つからずににって……」
そこで俺は例の不具合の事を思い出す。翼のアカウントの件だ。
あの巫女に指定されたURLのエリアに潜んでいる謎の人物、コレでもかというくらい怪し過ぎる。
「"0x000123"ってコードの不具合はお前が何かしたのか!?」
「あぁそうだぜ」
あっさりと白状しやがったぞコイツ。
「リアルのアクセスポイントに小細工してな、アカウント情報を少しスキミングさせて貰ったわけよ」
なんともまあ、丁寧なくらい自分のやった事を教えてくれるな。
「手間が省けたな、お前の事は警察とスピカに通報してやるよ」
「おっと、そうはさせねぇよ」
男がスッと手をコチラに向ける。
《Code execution/form-Attack type computer virus》
コードが実行される。マズイ、コイツコンピューターウイルスを差し向けてくるつもりか──
コンソールを開き急ぎログアウト処理を実行しようとするが……
「で、出来ねぇ!?」
「残念だったなぁ、ここは俺のテリトリーだ。ログアウト妨害コードが走ってるんだよ」
そんなのありかよ……
「ははっ、お前のアバターめちゃくちゃ可愛いじゃん。恥ずかしい画像でも撮ってネットにばら撒いてやるよ」
と、若干変態じみた笑いを見せる彼。やめてくれ、そんな事したらお嫁に行けなくなる!
そうこうしているうちに、攻撃型のコンピューターウイルスが生成された。
「……」
それは武士のような格好をしていた、何もそこまでエリアの雰囲に合わせなくても。
「やるしかねぇのか!」
こうなれば闘うしかない、戦ってアイツを捕まえて警察に突き出そう。
俺はサッと後ろに跳躍して、武士と距離を取る。
コンソールを開き"TS-System"を実行する。即座に俺の身体の周りはキラキラとした粒子に包まれる。
「……っし!」
一秒とかからずに変身が終わる。あの無駄に露出度の高めなチア衣装、俺の戦闘服だ。
「かかってこいや! この"No name"様が相手じゃ!!」




