表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/36

29話 妹思いの兄

「こ、ここか……随分と遠回りしちまったな」


 茶髪の彼は、目の前にあるドーナツ店を見て感慨深そうにそう呟く。


「みたいですね」


 やれやれ、この人ここに辿り着くのに回り道しすぎだろ。


「ここってそんなにウマイのか?」


 と、彼が隣にいる俺にそう聞いてくる。


「どうですかね……まぁ、美味しいとは思いますけど」


 特犯課にいる関係でここ数日たくさん食ったからなぁ。


 まあ美味しいっちゃ美味しいけど飛び抜けてどうってレベルでもないような。


「妹に頼まれてな、普段こういうの食わんからなぁ」


「妹さんですか」


 なるほど、兄として妹の為にお使いに来たというわけか。



 そうして、彼は適当なセットを買い店を出る。


 俺も一緒に店内に入ってみたら周りから「妹さんかしら?」「でも全然似てないわよ? 外国の娘っぽいし」とヒソヒソ囁かれてしまった。


 入らない方が良かったかも……



 その後店の駐車場に停めてあるパトカーに戻る。


「家まで送ってってあげるよー」


 と、車の中で待っていた歌恋さんが。


「え、いや流石にそこまでしてもらうのは悪いですって……」


 流石に申し訳ないと思ったのか、遠慮がちの彼。


「遠慮しないの! 君には葵ちゃん助けてもらった恩もあるし!」


 結局歌恋さんの押しに負け、彼はそれを了承した。


「……あ、家じゃなくてですね。東舞大病院に行ってもらっていいですか? そっからは自分で帰るんで」


 彼が指定したのは自らの家ではなく、病院という意外な場所だった。


「え、病院? いいけど、えーっと東舞大病院ってどこだっけ……」


 歌恋さんはアイリス・マップで場所を調べているようだ。


 ってかそこって……俺の亡骸が運び込まれたとこだな。そういや結局あの後どうなったのか聞いてないや。


 それにしても病院か、もしかしてさっき言ってた妹さんがそこに入院しているのだろうか。


「ふむふむ、ここから十五分くらいかぁ。よし! じゃあ出発!」


 そうしてパトカーは駐車場を出て病院に向かい始める。


「そうだ、今更だけどまだ名前聞いてませんでしたね。俺は天海葵です」


「お、俺……? あ、いやなんでもない。霞ヶ浦翼だ。よろしく」


 俺という一人称に若干戸惑っていたけど、彼も素直に名前を教えてくれた。


「あ、私は上郷歌恋! ふふん、こう見えても実はちゃんとした警察官だよー、驚いた?」


「いや、まあこんな車乗ってるしそうだとは思ってましたけど」


 と、苦笑いする彼。この人も歌恋さんの独特のテンションに若干引いているようだ。気持ちはわかる。



 そんなこんなで、新京市内を走り十分ちょっと。目的の東舞大病院に辿り着く。


 東舞大病院は、その名の通り新京市にある東舞大学付属の大学病院だ。俺も何回かお世話になったことがある。


「……なぁ、葵ちゃんも付いてきてくれないか?」


「え、俺もですか? なんで?」


 てっきりここでお別れかと思ったが。


「いやそのな、同年代の娘が話し相手とかになってくれると助かるんだが……」


 ああ、なるほどそういう事か。ってかこの人やっぱ俺を見た目通りの年齢だと思ってるな。



 というわけで俺もついて行くことに。歌恋さんは龍二さんと連絡を取るとかで車に残った。


 今更だけど、龍二さんの事すっかり忘れてた。合流する予定だったんだっけ……


「あ、翼くん。今日も来たの? 毎日偉いねえー」


 病院に入る。受付の人が彼を見てそう言った。どうやら翼は中々に妹思いな兄であるようだ。



 そうして彼の妹が待つ病室へと向かう。


「よー、来たぞ」


 若干優しげなテンションでそう言いながら病室に入る彼、俺も後に続く。


「ちょっと! お兄ちゃん遅いって……って、その娘──」


 病室のベッドで寝ていた少女が俺の方に視線を向ける。


「ちょ、どこから攫ってきたの! いくらその娘が美少女だからってそんな事……自首してきて!!」


「ちげーって!」


 いやはや、なんともお決まりのやり取りだなぁ。


「ドーナツ屋行く途中で不良に襲われててな、助けたんだ」


 翼の妹さんが「ほんとにー?」と言いながら俺の方を見る。歳は小学生くらいだろうか。兄と同じ色の髪。イメージしていたよりも元気がありそうな娘だ。


「うん、ホント。助けてくれた」


 取り敢えずそこは肯定しておく。


「そうなんだ……それよりアナタ。すっごく可愛い、お人形さんみたい、お名前は?」


「葵だよ、よろしくね」


「葵ちゃんっていうんだ、私は椿! よろしくね!」


 椿ちゃんか、兄が翼で妹が椿。兄妹だとわかりやすい。


「ほら、頼まれたやつ」


 翼が椿にドーナツ入りの箱を手渡す。彼女はそれを嬉しそうに受け取った。


「にしてもいいのか? ドーナツなんてカロリーの高そうなもの」


「うるさいなぁ! ちゃんと先生にもオッケー貰ったって。翼も聞いてたでしょ!」


 兄からの心配、うざったそうな雰囲気で返す椿ちゃん。あぁ、このくらいの年頃だとありがちだよねこういうの。


「ねー! 葵ちゃんも一緒に食べよう!」


「うん、食べよっか」


 にしても、SCARLET EYESの調査をしていたのにまさか病室で女の子とドーナツを食べる事になるとは…………ま、いいか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ