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3話 真紅のボディ

「──ってか、また裸じゃねえか!!」


 暴漢どもから夢中で逃げて来て気が付かなかったが、ブランケットを取られたまま真っ裸でここまで逃げて来てしまったようだ。


「……変な噂になったりしないよなぁ」


 露出狂の少女が……なんて噂になったりして。


「はぁ……」


 取り敢えず俺は元いた建物に戻る事にした。外階段をかけ上がり再び先ほどの部屋へ。


「なんかすげぇ疲れた……」


 寝かされていたベッドに座り込む。ここ短時間であまりにも、色々と多くの出来事が起きすぎだ……



〜〜〜〜〜〜〜〜



「……んっ」


 徐々に頭が冴えてくる、どうやらあの後疲れから眠ってしまったようだ。


「ふぅー」


 結構眠ってしまったようだ。もうそろそろ朝になっただろうか。


 ベッドから起き上がり、ひとまずこの建物の中の探索を始めてみた。


「……人の気配が全くしないんだよなぁ」


 そう呟きながら、俺は聴覚拡張デバイスを展開する、どうやらこの身体でも使えるようだ。いくつかのコンソールが視界に現れるが……


「あれ、オフライン? アイリスに接続できねえのかこれ」


 再び部屋の中を見渡す、あの時はこんな身体になっていたショックから気にする余裕はなかったけど──


「随分と古いタイプのコンピューターだなこれ」


 それに近寄る。見た感じ二十年くらいは遅れてそうな雰囲気のコンピューターだった。


「電源……入ってた、なんだ? パスもかかってないぞこれ」


 随分と不用心だが今はありがたい。


「……っち、こっちもオフラインか。せめてアイリスに繋がってればなぁ」


 このボディについての情報などを集めたかったが、まあこんな旧式のコンピューターがアイリスに繋がっているはずないか……


 コンピューターから離れた再び部屋を出て廊下に、外に出るドアをスルーして廊下を進んでみる。


 窓、閉ざされた板の隙間から差し込む柔らかな朝日、やはり一晩眠ってしまったようだ。


「構造的に、ただのアパートって感じか?」


 都心部にもチラホラ見られる、洋風でクラシックな感じの内装。ただホントにボロい、手入れなど全くされてなさそうな雰囲気。


 突き当たり、下に降りる階段を見つけそのまま一階に。


「おぉ……」


 一階部分は、ワンフロアをぶち抜いた広々としたガレージのような構造になっていた。


 様々な整備道具が乱雑に置かれ、オイルや鉄の匂いが鼻につく。


「……なんだろあれ」


 ガレージの中、これ見よがしにシートをかけられている物体があった。


 それに近寄り、シートを剥がしてみる。


「お、おぉ……!?」


 現れたのは、煌びやかな真紅のボディが輝かしい一台の大型バイクであった。


「かっけえ……」


 流線的なデザイン、まるでSFモノに出てくる戦闘機のような雰囲気を感じさせる。


 ピタリ、とそのカーボン製のカウルに手を触れる。スリットから見えるエンジン部を見るに多分流行りの水素モーター駆動のエンジンを搭載したバイクかな。


 と、その時だった。閉ざされていた入口のシャッターがガコンという音を立てる。


「──ッ! まずい誰かくる……」


 真っ裸の愛玩人形がコソコソバイクを触ってるなんて光景、見つかったらどう申し開きすればいいんだ!


 と、アタフタしてる間にもガラガラとシャッターが開かれてしまう。


「……」


「……」


 ガレージの中に入ってきた男と目が合う。


「…………起きたのか?」


 沈黙を破ったのは男の方だった。


「え、は、はい起きました」


 男はのそりと、こちらの方に寄ってくる。年齢は三十代くらいだろうか、かなりガタイがよく顔もそこそこイケメンだ。


「あー、服か……」


 と、その男は俺から目を逸らしながらそう呟く。


「ちょっと待ってな」


 そう言って、男は二階に上がっていった。


「な、何だったんだ?」


 取り敢えず、敵意とかが無さそうなのは分かった。何か事情を知っているのだろうか。


 しばらくすると男がガレージに戻ってくる。手には何やら可愛らしいワンピースのようなものが。


「取り敢えず着ろ」


 ばさりと、服を渡される。


「……」


「な、なんだ?」


 いや、このイカつい人が何でこんな可愛らしい服を持ってるのかな──とは流石に口に出せなかった。


「……死んだ娘のやつだ」


 あぁ、変な趣味があるのかとか疑ってすみません……


 取り敢えずそれを着る、下着は無いけど全裸よりはマシだろう。


「あの、色々と聞きたい事が山積みなんですけど」


 まず、ここは何処。そしてなぜ俺はこんな場所に。なぜこんな身体に。疑問は数え切れないほどある。


「お前、廃棄場に棄てられてたんだよ」


「廃棄場?」


 男は"廃棄場"について説明してくれた。廃棄場は外縁部に存在する。新京市内の廃棄機械(ジャンク)が集まるゴミ溜めらしい。


「お前、違法ドールだろ」


 違法ドール、その言葉は知っている。


 俺は自分の身体を改めて眺めてみる。普通の人間とは見分けがつかない程に精巧……


 薄々感じてはいたけど……多分ボディは生体ドールのものだと思う。


 生体ドール、その構造は九割方人間と同じだ。脳の全て、脊髄の一部が機械化されているがそれ以外は人間そのもの、消化器官もあるから食事もできる、そして生殖器官も──。まあ大方そのような目的で作られるから、そこまで再現されているのも納得ではある。


 ただ一つ。生きている人間と違う事。それは完全機械化が行われ電子制御された脳に"魂"というものが存在しな事だ。


 ここで"魂"というものの定義を語るのはとても面倒なのでとりあえず割愛するとして……


 まあ、要するに人間とほぼ同じ構造を持ったただの人形と考えてくれればいい、人工的に作り出された魂のない入れ物。


 そこに好みの人格データを設計してインストールする。するとあら不思議、理想の人間の完成だ。


「……はぁ、認可もねえのに国内でこんなモノ持ってたら無期懲役だな」


 そう"日本では"倫理的、人道的な観点からこれらの生体ドールを製造または所持する事は違法となっている。生体ドールというものはかつての”クローン人間”のような複雑かつとても面倒の多い厄介なモノとなっているのだ。


 まあ"多少の例外"はあれど……


「──違法ドール、か」


 まさか、自分が存在するだけで違法な"モノ"になってしまうとは……

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