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28話 ドーナツを求めて

 その目つきの鋭いイケメンが現れた事で、場の雰囲気が一変する。


「てめぇは……! なんでこんな場所に!」


 不良三人組のうちの一人がそう叫ぶ、どうやら知っている人間の様だ。


「おい、大丈夫か?」


 そのイケメンは、三人組をスルーして先にいる俺の方に視線を向ける。


「は、はい……」


 今のところは何もされていない。追いかけられたりはしたが。


「てめぇ! 無視してんじゃねぇよ!!」


 三人組のリーダーと思わしきスキンヘッドが怒鳴り散らす。


「はぁ、弱い犬ほどよく吠えるとはよく言ったモノだな……」


 な、中々煽るなこの人。


「上等じゃねえか」


 拳をポキポキと鳴らしながらそのイケメンにジリジリと近寄っていくスキンヘッド、下っ端もそれに追従する。


 そうして、三体一の喧嘩が始まった──




「つ、強え……」


 ──と、思ったら速攻で喧嘩は終わった、っていうか一分も経ってないぞコレ。


 あの茶髪イケメンは動きからして、ボクシング経験者っぽかった。


 華麗に相手の動きを回避して的確に攻撃を当てていた、その動きは見てて惚れ惚れするレベルだった。


 対するチンピラはただ勢い任せに乱暴に動いているだけ、そりゃこうもなるか……


「まだやるか?」


「……くそっ! おいそこのガキ! 顔覚えたからな! 覚えてやがれ!!」


 と、捨て台詞の様なモノを吐きながら少年チンピラ共は去っていった。全く最後まで小物っぽいセリフだ。


「はぁ、手応えのねぇ奴ら」


 逃げていくチンピラをつまらなそうな目で見つめる彼。


「あ、あの。ありがとうございます」


 正直助かった、この人が来なければ……結構ヤバかったかもしれない。


「気にすんな、にしてもアイツら。こんな子供相手によくあんなイキってられるな」


 まあそれには同意だ。こんな可愛いロリ美少女相手によくもまあ、あんな脅しみたいな事できるよなホント。


「迷子か? 安全な場所まで送って行ってやろうか?」


「あー、いえ迷子というか……」


 連れとはぐれたんですよ。って、いやいやこれ迷子だな……


「──っと、わりぃ」


 彼が手の平を耳に当てる。誰かからの連絡があったのだろう。


「遅い? いやいやちょっと待ってくれよ。探してるんだけど見つからなくて。確かにこの辺りのはずなんだがなぁ」


 どうやら彼は何かを探している様子だ。探しているのはもしかして…… SCARLET EYESか?


「迷ってる? いやちげぇよ! 俺を方向音痴扱いするな! やれやれ、まったく……」


 そうして通話を終え手を下ろす彼。


「なあ、ちょっと聞きたいんだが」


「な、なんでしょうか」


 SCARLET EYESの情報を聞かれるのか? そんなのこっちが聞きたいくらいだっての。


「デリシャス・ドーナツって何処にあるんだ?」


「…………え?」



〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「あ゛お゛い゛ち゛ゃ゛ぁ゛ん゛!!!」


 大袈裟に泣きながら俺に抱きついてくる歌恋さん。


「ごめんねぇぇぇ!! 怖い思いさせてぇぇ!!」


「ちょ、離れてくださいって!」


 この人ホント、いちいちオーバーリアクション過ぎだろ!


「…………」


 ほら、茶髪イケメンくんもちょっと引いてるし!


「ホントありがとう! 葵ちゃんを助けてくれて!」


「や、通りかかったら見かけたんで。当たり前の事をしただけですって」


 歌恋さんに、これでもかというくらい感謝される彼。



 あの後、倉庫街を出たら直ぐに歌恋さんと合流できた。


 どうやら彼女の方は特に何も無かった様だ。ただ単純に迷っただけとの事。


「いやー君は偉い! 感謝状モノだよこれは!! 私の方から推薦しておくね!」


「は、はぁ……で、聞きたいんですけど」


 そうして、彼は俺に聞いたのと同じ事を歌恋さんにも聞く。


「へ? デリシャス・ドーナツ?」


「そうっす、この辺りのはずなんですが」


 そう、彼が探していたのはハッカー"SCARLET EYES"ではなく。警察とも癒着疑惑のあるドーナツチェーン"デリシャス・ドーナツ"の店舗だった。


 デリシャス・ドーナツは新京市に三店舗ある、そうしてここからだと──


「……えっと、一番近い店舗でもここから三キロ離れてるけど」


 アイリスで素早く検索を済ませたであろう歌恋さんが、丁寧に彼にそう伝える。俺もさっき調べたがこのエリアには無い。


「え……マジですかそれ」


 と、これでもかというくらい驚いて見せる彼。


「逆に聞きたいんだけど、なんでこんな場所に?」


「えー、いやアイリス・マップのナビ通りに来たと思ったんだが……」


 アイリス・マップとは、スピカ社が提供するナビ機能の事だ。電脳拡張機能としてインストールでき、網膜にマップとナビ機能を投影できる便利な機能である。


「……居るよなぁ、こういう人」


 それを使っても迷う人ってたまに居るんだよなぁ。正直方向音痴にも程があるだろ! って思うんだけど……


「マジかぁ……わざわざバスで来たのに」


 これでもかというくらい落ち込む彼。


「あー、送ろうか? 私が」


 そんな彼を見かねてか、歌恋さんがそう提案する。


「い、いいんですか?」


「うん! 君には葵ちゃんを助けてもらったし、それくらいお安い御用!」



 そうして、俺たちは一先ず最寄りのドーナツ店に向かう事に。あれ、そういえば何か忘れているような……ま、いいか。

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