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25話 海を駆ける道を行く

〜〜〜〜〜〜〜〜



-アイリス-



「ひ、ひぃぃ!! 助けてくれえ!!」


 アイリス深部、荒廃した街を駆ける一人の男が──


「《Copy Bind》」


 それを、余裕な様子で追跡する紅い眼を持った少女。


 ボソリと術式(コード)を実行すると、逃げ回る男性アバターの体に鎖のようなものが巻き付いた。


「う、動きが……!」


 慌てふためく男、紅い眼を持った少女はスタッと彼の前に跳躍し着地する。


「ねー、追いかけっこはもうお終い?」


 まるで、楽しそうに遊ぶ子供のような口調の彼女。


 パーカーを深々と被り、変身ヒロインのお面をつけている為表情は窺い知れない。


「なぁ! ホントに知らねえって! 俺は頼まれただけなんだよ!」


 男は必死になりそう弁明する、だが少女は易々とそれを聞き入れる程物分かりの良い人間ではなかった。


「知らなかったで済む問題じゃないよねぇ、アンタのせいで……ま、いいや」


 スッと右手を上る彼女。


「《Call/"Scarlet Dragon"》」


 そう短く術式を実行する。すると彼女の頭上の空間が歪み──


「な……ッ! ソイツは……!!」


 顕現する真っ紅な(ドラゴン)。メラメラとした火の粉が辺り一面に、まるで桜吹雪の如く舞い散る。


「カッコいいでしょー、名前はまだ仮だけどね。喜んでいいよ、アンタ世界で一番最初に電子精霊に食われる人間になれるから」


 アハハッ、と狂気の入り混じった笑いを零す少女。


 その笑いに呼応するかのようにドラゴンは男の元に、そうして鋭い牙を持つ大きな口を開け──


「よーく味わいなさい♡」


 そうして、その場から男は消滅した。


「"Scarlet Dragon"、ソイツの電脳にアクセスしてぐちゃぐちゃにしなさい。二度と起き上がれないように」


 そう呟く少女。ドラゴンは返答するかのように大きな咆哮を上げた。


「はぁ、でも結局アイツもタダの下っ端だったね」


 フードを剥ぎ、仮面を捨てる。と、そこにコール音が鳴り響く。


「……どした?」


 手のひらを耳に当て応答する少女。アイリスではこの様な動作を行う必要はないが、これが癖になっている人間も多い。


「警察が私を追ってる? そりゃ当たり前でしょ、私世間をお騒がせ中だからね。ってかアンタも──」


 カリスマ的ハッカーである彼女を警察が追いかけるのは当たり前、のはずなのだが──


「特犯課? 隔離部署? 金髪ロリに気をつけろ?」


 頭の上に「?」のジェスチャーが表示される、アイリス内におけるコミュニケーション機能の一つだ。


「……あ、切れた。まったく何時も肝心なことは言わないんだから」


 通話を終えた彼女はスッと右手を上る。


「ありがと、戻っていいよ」


 控えていたドラゴンは消えていった。


「ま、いっか。はぁ……学校めんど、レッスン辛いしサボりたい……」


 そうして、紅い眼を持った彼女はアイリスからサインアウトしていく。




「ふぅ」


 アイリスから帰還、目を開ける彼女。


「ふわぁ……帰ろっと」


 ベンチから立ち上がる。海沿いの遊歩道を歩き帰路に着く。


 ふと、彼女の目に一台のバイクが目に止まった。海沿い公園内の駐車場に停められているピンク色の可愛らしいマシン。


「かわいいー、しかもちっこい……あの娘のやつかな?」


 側の自販機の前にいる少女に目を向ける。


(綺麗な金髪、外国人の子かなぁ?)


 ジーッと少女の後ろ姿を見つめる彼女。


「……あ! やば、遅刻する!」


 直前に「金髪ロリに気をつけろ」という警告を聞いていたので若干少女の事が引っかかっていたが、遅刻ギリギリの時間だったので声をかけるのは諦めてその場を去る。


(ってか、あんなちびっこなのに女ライダーとか。ギャップ萌えで死にそう……)



〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 新京市湾岸を走る湾岸ライン。俺は解放感のあるその高架道路をピンクのマシンで駆け抜けていた。


 ……っしかしこのマシン、駆動音がとんでもなく綺麗だ。楽器でも弾いてるんじゃないかって気持ちになる。


 湾岸ライン、まだ朝なので交通量はそれほどでもない。


 調子に乗ってスピード出し過ぎない様にしなきゃな……



「はぁ……いやー、ホントこんないいもん貰ってよかったのか?」


 湾岸ラインを降りて、海沿い公園の駐車場に止まり一休憩。


 ホントはこんな遊んでる暇じゃないんだけど、まぁちょっとくらいいよな?


 ヘルメットを脱ぐ、潮風が気持ちいい。


 近くにあった自販機に寄る、適当な缶ジュースを買いゴクゴクその場でゴクゴクと飲む。


「……あ、外縁部」


 ここからでも外縁部が見える。こうして改めて見るとホント。オーラからして退廃感がマックスだな。


 二回瞬きし、写真を撮る。うん、なかなか悪くない画像だ。


「そういや龍二さん、結局帰ってこなかったな」


 人に会いに行くと言っていたが、朝起きても龍二さんの姿は見当たらなかった。


 連絡……いや、これくらいで連絡するのもあれかなぁ。


 なんだか心配しているみたいで、いやいや心配はしてるけどさ。


 ほら、こうなんか少し気恥ずかしい様な……


 なんとも言えない微妙な感情の中、俺はアイリスにハーフダイブしBBSにアクセスする。


「SCARLET EYESの情報、まったく見つからんなぁ」


 新しく増えている書き込みもロクなものがなかった。


 今専スレはSCARLET EYESのリアルの容姿予想で盛り上がっている。


 "赤髪美少女でツンデレだと思う"という書き込みを残しておいた。すぐに"テンプレ過ぎだろw"というレスが返ってくる。


「さて、そろそろ帰るかー」


 歌恋さん放ったらかしで出てきたからなぁ、起きて俺が居ないとあの人めちゃくちゃ騒がしそうだし。


 ポイッと空き缶をゴミ箱に投げ入れる。そうしてヘルメットを被り直してマシンに跨り帰路に着くのであった。

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