2話 外縁部にて
あまりにも現実離れした光景だった。俺は……勿論言うまでもなく男だ。でもこの鏡に写っているのは紛れもない"少女"だった。
「……これ夢か!?」
だとしたらなんとも妙な夢だ。
俺はもう一度よく自分の身体を確認する。小柄で年齢は小学生から中学生くらいだろうか。ロリ感が強い。
顔付きはよく整っていた、まるで青空を切り取ったようなスカイブルーの瞳、さらさらとした綺麗なブロンドヘアー、日本人離れした容姿だ。
「……」
そうして、あまり直視しないようにしてたんだけど──
「な、なんで裸?」
布一枚纏っていない産まれたままの姿であった。
「いやいや色々とまずいだろこれは……」
まずいと思いながらも身体の色々な場所をふにふにしてみる……柔らかい! 残念ながら胸の膨らみはほとんど見られなかったけど……それでも女の子の身体ってのが実感できる。
いやホント、なんというか男のゴツゴツした感じとは大違いだなこれ……!
「じゃねぇ!! 何してんだ俺!!!」
その時、ふと右太腿内側に何やら文字が書かれているのが見えた。タトゥーが何かだろうかと思って見てみると……
「なんだこれ?」
そこには『AKASAKA Heavy Industris, Co.,Ltd』と刻印されていた。それと『LD-201/AR』という謎の文字列。タトゥーにしては前衛的すぎる、最初のは……これって会社名か?
「赤坂重工……株式会社? って……あの赤坂?」
その会社名には聞き覚えがあった。赤坂重工といえばあの赤坂グループの系列企業、日本を代表する一大重工業メーカーだ。
「なんでこんなタトゥーが?」
色々と謎だらけな事ばかりだ。取り敢えず……
「……あー、だめだ。あんま見ちゃダメな気がする」
太ももよりその上、あまり直視しないようにしていたけど……やっぱり男の一番大事な部分が無い。
「女の子ってこんな風になってんのか……ってダメだ! 何やってんだ俺!」
俺は自分が寝ていた簡易ベッドの方に戻る。ブランケットを剥ぎ取り、バサリとマントみたいに羽織った。
身体が小さいからなんだがアンバランスだけど仕方がない。
取り敢えずこれで目のやり場に困ることはないだろう。
「──っ、またかよ……」
そこに再び俺を襲うふらつきと頭痛、なんとかそれに耐えながらドアの方に向かう。
鍵はかかってなかった。これなら外に出れる……
ガチャリと木製のドアを開ける。外は乱雑にものが散らかった廊下だった。正面にもう一枚ドアが。
そのドアを開けると今度は外に出た。外階段のようなものが地面に伸びている。
「暗いな、夜中か?」
空を見上げる、夜空に浮かぶ半月が怪しげな光を放っている。
「……ここどこだよ」
ちらほらと電灯のような物が付いているのが見える、あたりはボロく、どこか退廃感のある建物がひしめいていた。
「もしかして、ここ外縁部か?」
外縁部、新京市南西の湾岸部に存在する低所得者やならず者が集う街。
治安は最悪、おそらく今の日本で一番アレな街で都心部の人間は誰も寄り付かない荒廃しているエリアだ。
まったく、なんで俺がこんな場所に……
階段を下りる、裸足なので足に地面の冷たい感触が伝わってくる。
「……はぁ、はぁ」
ブランケット一枚を羽織っただけの若干危なげな格好で、外縁部の小汚い街を走る。
外縁部の建物はどれもボロく、遠くに見える都心部との格差がモロに出ていた。
「しっかし、こんな格好誰かに見つかったらヤバいかも……」
こんな治安の悪い場所で美少女が布一枚、うん間違いなくまずい状況だ。
幸い、時間帯のおかげは人影は見られなかった。それでも一応警戒しながら進んでいく。
物陰から物陰に……忍者みたいに進んでいく。
「にしても、六月で助かったな……これで冬とかだったら凍え死んでたぞ」
それにしてもホントに外縁部は、何というか世紀末な感じだ。
ここらのエリアは普通の人間は近づかない、集まるのはホントにならず物ばかり──
「お嬢ちゃん〜ん?」
……ほら、こういうね。
背後を振り返る、そこにはいかにも柄の悪そうな男二人が。
「な、なんでしょうか」
震えた声で、それでも冷静を保った感じを出しながらそう返答する。
「な、メチャクチャかわいい……!!」
そりゃどうも。
「んー、見ない顔だなぁ。ちょーっと俺らと楽しいことししねぇか?」
ジリジリと俺のほうに寄ってくる男二人。
「いやー、遠慮しておきます」
俺はその場から脱兎の如く駆け出そうとする、だが──
「待てやゴラァ!!」
とドスの効いた、今日日ヤンキー物でしか聞かなそうな言葉を放つ男。
「きゃん……」
首元、身体を覆っていたブランケット掴まれる。というか「きゃん」って何だ!? 我ながら可愛過ぎる悲鳴……
「……ッ、離せ!!」
両腕を掴まれる、ブランケットが足元からゆっくりと捲り上げられる。
「ひゃー、上物……って、コイツ愛玩人形か? おいおい何でこんな上物がうろついてんだ?」
手を止め、太腿のタトゥーみたいな企業ロゴに目を向ける男。
「なら、好きなだけ遊んでやってもかわまねぇって事ですね!」
もう一人の、手下みたいな男がそう嬉しそうに言ってみせる。
「あのー、遊ぶって何をですか……?」
「そりゃなぁ? ぐへへへ」
気持ち悪い笑みを浮かべる男。チクショウ冗談じゃねえぞ!
「はなせー!!!」
このままじゃ……よし、そうだ!
「でりゃ!!」
「おごぉ!!」
後ろから俺の両手を掴んでいた男の股間に勢いよく後ろ蹴りしてやる。
そうして側にいたもう一人の男の股間にも同じく……潰してやる勢いで蹴りを入れる。
思わぬ不意打ちにのたうち回る男二人。
「バーカ! 誰がお前らに初めてをくれてやるか!!」
そのまま必死の思いでその場を逃げ出した。
「はぁ……はぁ……」
建物の陰で息を整える俺。って、夢中で駆け回ってて気が付かなかったけど……
「元の場所に戻って来ちまった」
最初に俺が眠っていた建物の前に戻って来てしまったようだ。
「はぁ〜……マジで、これからどうすりゃいいんだ……」