19話 父と子
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「ふぁ〜………生き返った……」
拠点の二階にあるシャワールームから出る。今日は特に色々あったし、肉体的にも結構疲労していたので余計にシャワーが気持ち良く感じた。
「……はぁ、シャワー浴びるのも一苦労だったな」
なるべく自分のこのロリボディを見ないように、目を逸らしながらシャワーを浴びてたけど流石に大変だった。
まぁ正直、何度も目にしているのに今更という感はあるが──
「えーっと、あったあった」
脱衣所に持ってきていた、段ボール箱を漁る。上郷さんからのプレゼント(支払いは龍二さんだけど)の中には下着以外のモノも入っていた。
「……うーん」
"それ"を取り出して広がる。なんとも可愛らしい牛柄の、フードが付いたパジャマ。
「まさかこんな可愛らしい寝巻きを着るハメになるとな……」
まあ、今の俺は金髪ロリ美少女なので何もおかしくないんだろうが。
「下着はどれ着りゃいいんだ?」
勿論俺は男なので、女の子の下着の知識なんてゼロだ。
「……これとこれでいいか」
とりあえず、適当なパンツと。あと上に着るやつ、こういうのなんて言うんだっけ? あ、キャミソールってやつだ。
それを履き、牛柄の可愛いパジャマを着る。
特犯課で着せてもらった制服はどうしよう、この拠点洗濯機とか無いのか? 取り敢えずそこら辺に置いておくか。
ってか多分、他にまともな服ないし。明日もこの制服着なきゃいけないっぽいよなぁ。
「はぁ……疲れた」
俺は脱衣所を出る、窓からは妖艶な月明かりが差し込んでいた。
そのまま廊下を歩き一階へ、ガレージに戻り晩飯を取りに行く。
「…………zzz」
イビキが聞こえる。やたらおっさんくさいイビキだ。
俺は、ガレージ内に仕切られた部屋をチラッと覗く。龍二さんは豪快な寝息を立てながら爆睡していた。
「……」
俺は彼の側に行く。普段のイカツイ表情とは打って変わって無防備な寝顔だ。
「ありがとうございました」
俺はそっと彼にお礼を言った。正直、彼に拾われたのは幸運としか言いようがない。
この外縁部は知っての通り治安は最悪だ、この建物を飛び出したときも速攻で襲われそうになったし。
もし、自分がチンピラみたいな連中に拾われていたらと思うとゾッとする。
俺のボディは……愛玩人形なんだから、扱いは察するしかない。
「人間扱いすらされんかっただろうなぁ」
「……ん?」
と、龍二さんが薄目でこちらを見てくる。まずいまずい起こしてしまったかな。
「すみません、起こしてしま──」
「愛……理……?」
ガバッと飛び起きる龍二さん。そうして──
「ふぇっ……!?」
おもいっきり、彼に抱きしめられる。龍二さん、俺を娘の愛理ちゃんだと勘違いしてるなこれ……!
「ちょ、俺ですって。葵ですって!」
ジタバタと、彼から離れようともがく。
「──あ、す、すまん葵!!」
慌てて俺から離れる龍二さん。
「いえ、あの……俺の方こそすみません」
「いやいや、俺が悪かった……」
そうして、俺と龍二さんの間に微妙な沈黙が流れる。うー、なんというか気まずい。
「シャワーは、浴びたみたいだな。飯は?」
空気を変えようとしてか、龍二さんがそう聞いてきた。
「今から食います」
「そうか……すまんな、マトモなモノ買ってくりゃよかったが。特犯課にいると、いつもあれが溜まってくるんだ」
チラリと、龍二さんはガレージ内のテーブルに置かれた袋を見る。
先ほど俺も中身を確認してみたが。中身は大量のドーナツであった。
「いえ、腹が膨れればなんでも……」
ドーナツか、警察官といえばドーナツというイメージがあるけど。何もそこまでテンプレ通りのモノ持って来なくても……
「あ、じゃあ俺もう寝ます」
取り敢えず、話を切り上げて部屋を出ようとする。
「おう、おやすみ葵」
そうして彼はブランケットを被り寝転ぶ。
「……zzz」
「寝るのはやっ!」
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俺はドーナツの箱を抱えて二階の部屋に戻る。
「……龍二さん、やっぱ娘さんの事引きずってんのかなぁ」
彼が時折見せる、なんとも言えない表情。そうして先ほどの反応。
「うーん、俺ここにいていいのかなぁ?」
娘そっくりの人間が彼の近くにいると、心の傷を深めてしまうような気もする。
『メッセージを受信しました』
と、その時だった。脳内に機械的な音声が流れる。俺はドーナツの箱をベッドに置きコンソールを展開する。
「……ん、アイリスに接続されてるな」
なんだかんだ、色々ドタバタしてて気が付かなかったが。アイリスへの接続が回復しているようだ。
この状態ならフルダイブも出来るな……まあ今日は疲れてるし、やらないけど。
メールのアイコンを選択する。メッセージボックスには二つのメッセージが入っていた。
「こっちは……あの神社のURLか、でこっちが──」
タイトル『無題』。怪しさマックスだ。取り敢えずスキャンして安全性を確認する。
「"緋色の眼を持つエルフ"と接触しろ…………?」
そこにはただ一文、余計な情報など一切なくそれだけが記述されていた。




