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18話 贈り物

〜〜〜〜〜〜〜〜〜


-アイリス 深部-



 荒れ果てた光景が広がるデータの墓場、アイリスの大深度地下に広がる深部。


 広がるのは、廃墟と化した街々。データの"墓場"というのにふさわしい様相を呈している。


 そんな深部の一角。他所からはアクセスができない隔離されたエリアに"彼女"はいた。


「……」


 誰もが見惚れる様な綺麗な紅色の髪。サイドに垂れる紅いテールがふわりと揺れる。


 百人に聞いても百人が「美少女である」と回答するであろう容姿。


 尖った耳はまるで彼女がファンタジー作品に出てくる"エルフ"であるかの様な錯覚を覚えさせる。


 だが彼女のアバターは決して"紛い物"ではない。


 派手な髪の色や、エルフ風の尖った耳こそはカスタムされたものであるが。顔立ちやスラッとしたモデルの様な体型は彼女が生まれ持ったものであった。


 スッと、後ろを振り向く彼女。彼女の背後にはデータの残滓が収束しつつあった。


「……この規模なら期待できそう」


 彼女の紅々とした緋色の瞳が、データの渦を見据える。そうして右手を紛い物の空に掲げた。


「────オーバーレイ・ネットワークを構築」


 短くそう呟く。すると彼女の身体はピンク色の輝きに包まれる。煌めくピンク色の粒子、そして──


「ふぅ」


 短く息を吐く。彼女の纏っている衣装は、まるでファンタジー作品にでも出てきそうな"女騎士"そのものであった。


 目の前のデータの渦が収まる。そうして辺りに轟く、天を裂くかのような咆哮。


「かっこいい……絶対眷属(ペット)にしたい……」


 目の前に顕現した真紅の身体を持つ"電子の竜"を見て、うっとりとした表情で彼女はそう呟いた。


 電子の竜は大きな羽根を広げる、まるで目の前にいる少女を威圧するかのように。


 右手を竜に向ける彼女。ジジッ……という音と共に紅の剣が実体化した。


「じゃ、始めよっか♡」



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「……んにゃ!」


 衝撃で目を覚ます。どうやらベッドから転がり落ちてしまったようだ。


「ふぁ〜」


 立ち上がり、大きく伸びをする。そばの窓に近寄りカーテンを捲る。


「もう夜か……」


 どうやら、龍二さんの拠点に戻ってきてから数時間ほど寝てしまったようだ。


 俺は改めて部屋の中を見渡す。拠点、二階に上がってから一番目の部屋。俺にあてがわれた部屋だ。


 何故だか、ここは他の部屋と比べて小綺麗な感じがする。ちゃんと掃除している雰囲気というか。


「来客用の部屋……?」


 いや、こんなボロ屋に客なんて来ないか。


 そんな失礼な事を考えつつ部屋を出る。龍二さんは戻ってきているだろうか。


 ギシギシと音が鳴る廊下を歩きながら階段へ、何やら物音がする。


「おう、起きたか」


 ガレージで何か作業をしている様子の龍二さん、俺は彼の元に近寄る。


「……あれ、それ」


 彼は何やらバイクを整備していた。だが彼がいじっているのはあの真紅のバイクではなく──


「あぁ、こいつか?」


 龍二さんが立ち上がる。側にあるのは彼の愛車より一回り小さめな、ピンク色のペイントが目立つ可愛らしいバイクであった。


「なんか凄く可愛いですね」


 ボディの各所にハートの意匠があしらわれていた。うん、凄く失礼だけど明らかに龍二さんには相応しくないなコイツ。


 エンジン部に視線を向ける。龍二さんの愛車と同じような水素モーターエンジンが搭載されていた。


「……まあな」


 何やら寂しそうな視線を、ピンクのバイクに向ける龍二さん。あぁ、もしかしてコレの持ち主は──


「愛理用に一から手作りしたんだがな、まぁ乗ることもなくあの世に逝っちまったが」


 やはりそうだったのか。っていうか手作り? ハンドメイド!? 地味に凄いな……


「葵、もう大丈夫か?」


 龍二さんは話題を切り替える。


「ええ、そりゃもう」


 彼の意図はわかっている。元の身体はあぁなってしまったが。"俺"が死んだわけではない。


「龍二さん!」


 俺は意を決する。


「ど、どうした突然」


「俺に"抜け殻事件"の捜査を手伝わせてください!」


 自分が何故こんな目に合っているのか、それを俺は知りたい。


「……いいか? 警察の仕事ってのは子供の遊びじゃないんだぞ?」


 と、子供を優しく諭すようにそう言ってみせる彼女。


「んなことわかってます。龍二さん、正直に言います。俺には色々な"スキル"があります、きっと役に立ちます」


 流石にその"スキル"がどういうものか、ここで詳細に伝えはしないが。


 俺の持っている色々な技術は、彼の捜査のお手伝い程度には役に立つ……と思う。


「……はぁ、ちょっと考えさせてくれ」


 スタスタと、俺から離れガレージの奥に歩いて行く龍二さん。


「あ、そうだ。そこの箱」


 彼は振り向き、俺の側に置いてあった段ボール箱を指さす。


「上郷からのプレゼントだ、ありがたく受け取っておけ」


 プレゼント……? あぁ、そういえばあの人そんな事を言っていたような。


「俺は少し寝る、そのテーブルの上に適当に買った晩飯があるから食っておけ。あとシャワーは二階の一番奥にあるから」


 そう言って龍二さんはガレージ内にある、簡易的な作りで仕切られている部屋のようなスペースに入っていった。あそこが彼の個人スペースだろうか。


「プレゼントってなんだろう?」


 俺は側にあった段ボール箱を持ち上げる。そうして開いてみると──


 中には俺のサイズに合いそうな、なんとも可愛らしい子供用の下着の数々が!


「いや、マジか……」


 あの人、なんてもん送りつけてきてるんだ……いやでもこれは有難いのか?


 ……仕方ない、このままずっと下着を着ない訳にはいかないもんな。いやいや決してこういうブツに興味があるわけじゃないぞ?


 これは仕方ない、仕方ない事なんだ!

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