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17話 電子の妖精

〜〜〜〜〜〜〜



 その後、俺の亡骸は警察によって回収された。亡骸ってもぐちゃぐちゃに飛び散りほぼ原型をとどめていなかったんだけど。


 それが回収されるのを俺はボーッと見ていた。


 自分の亡骸が拾われて行くのを自分で眺めているのは、なんとシュールな光景だろうか。


 現場のビルから少し離れた場所で座り込む俺。


「まさか身体にあんなモノを仕込んでいたとは……」


 側にいる龍二さんは、手のひらを耳に当て秋田課長と連絡をとっていた。


「遺体は東舞(とうまい)大病院に、解剖に回させます。はい、まぁ酷い状態ですけど……」


 サイレンの音が辺りに鳴り響いている。俺の亡骸は集められて新京市にある大学病院に運ばれる様だ。


「それじゃあまた後ほど」


 通話を終える龍二さん、彼は地べたに座る俺の方に向き直る。


「……大丈夫か?」


「何がですか?」


 俺は敢えて、平気なふりをしてみせる。


「…………すまん」


 龍二さんは頭を下げる、意図はわかる。だが──


「龍二さんが謝る事じゃないです」


 まさか、あんな物騒なモノが身体に仕込まれているなんて、普通は予想も付かないだろう。


「あそこまでバラバラでぐちゃぐちゃだと、流石に厳しいな……」


 彼の言う通り。今の医療技術を持ってしても、あの状態から元通りにする事は厳しいだろう。


 チラリと、ビルの入り口の方に目を向ける。封鎖テープが貼られ市警のパトカーと救急車が一台ずつ止まっている。


 いかにも「ここで事件がありました」みたいな雰囲気が周囲には漂っていた。


 周囲には野次馬が集まっていた。全くどいつもこいつも呑気なモノだ……


「葵、ちょっと待ってろ」


 龍二さんは俺から離れて、ビルの入り口から出てきた彼の同僚と思われるスーツ姿の男性と話している。


「はぁ……」


 俺はスッと自分の右手を空に掲げる。握ったり、手を開いたり──


「これから一生このボディで生きてかなきゃいけないのか、俺は……」


 懐かしの我が身体は、見るも無残な姿になってしまった。


 一体何故、あんな事になったのだろう? そもそもあの身体にいた意識は"誰"なのだろう。


「……ぁぁああ!!」


 側に転がっていた空き缶を怒りに任せ、思いっきり踏み潰す。ぐしゃっと哀れに潰れるアルミの空き缶。


「クソが……」


 だがそんな事をしても、この行き場のない怒りとも少し違う……なんとも言えないモヤモヤが晴れるわけではない。


「つぁ…………」


 そうして空気を読まず再び走る頭痛。ちくしょう、なんだってんだよホント。


 若干ボヤける視界、そうして再び感じる"何か"の気配。俺は気配のする方に視線を向ける。


 まただ、またあの人魂の様なモヤモヤが。


 今度は少し離れた場所にある、ポール型のアイリス用公衆アクセスポイントの周りを回っている。だがそのモヤモヤは……


「よ、妖精?」


 一瞬だけ、可愛らしい羽根の生えた小さな女の子の様に見えた。


 見間違いかと思い、目をこする。


「消えた……」


 "それ"はすぐに消えていた。……いやいや、俺本格的に疲れてきてるな。肉体的にも精神的にも。


「葵、どうかしたか?」


 いつの間にか戻ってきた龍二さんが心配そうに、そう聞いてくる。


「すみません、ちょっと疲れたみたいで……」


「……そうか、一度俺の拠点(セーフハウス)に戻るか」


 どうやら、エグい光景を目の当たりにして精神的に参ってると思ってくれている様だ。


 まあ、あながち間違いじゃないのだが……


「待ってろ、車とってくる」


 そうして、龍二さんは学校の前に止めてあるパトカーを回収しに行った。


 数分後、彼が乗ったパトカーが目の前に止まる。俺は後部座席に乗り込んだ。



 拠点への帰り道、車内には微妙な沈黙が流れる。そうして十分ほど走る。橋を渡りそのまま外縁部の人工島へ。


『はい、現役女子高生お天気キャスターの──』


 車内、ホログラム投影されているテレビの映像をボーッと眺める俺。


「葵、着いたぞ」


 パトカーは止まる。俺はホログラムを切りパトカーを降りた。


「もうこんな時間か……」


 空を見上げる、若干の茜色。そうして聞こえるカラスの鳴き声。


 思えば今日は激動すぎる一日だった。


 こんなボディにされ、龍二さんと出会い、バーでサンドイッチをご馳走してもらい、ヤマさんの遺体を目撃し、デジタル魔法少女(?)にされ、特犯課の面々と出会い──


 そうして俺の元の身体がぐちゃぐちゃになる。


「濃いってレベルじゃねーな……」


 人生でこれ程激動の一日を過ごしたのは初めてだ。


「葵、俺は一度特犯課に戻る」


 パトカーの窓から顔を出す龍二さん。彼はジャケットの胸ポケットを探り、鍵を取り出し俺に渡してくる。


「ガレージの鍵だ。あと……そのストラップがついてる方の鍵は二階の一番目の部屋のヤツだ。好きに使っていい」


「……っす、わかりました」


 そうして、龍二さんが運転するパトカーは去っていった。俺はガレージを開け中に入る。


 相変わらず鉄とオイルくさい。暗がりの中、俺は電気のスイッチを探る。


「あった、これだ」


 スイッチを入れる。数秒ほどのタイムラグがあり。パチリパチリと電灯が灯る。


「……ん? もう一台あるな」


 ここに最初来た時は気が付かなかったが、モノが積まれているさらに奥の方に、シートが掛かっているバイクと思わしきモノが押し込まれていた。


「ちょっとちっこいな、まあいいや……とっとと部屋に行くか」


 今は少しでも身体と心を休めたい。早く二階に上がるか……

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