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16話 ネットワーク・ジャック

「……って、あの二人どこ行ったんだ!?」


 俺が下に降りた時には既に二人の姿は見えなかった。まあ当たり前っちゃ当たり前だけど、これじゃあ追い掛けることが出来ない。


「こうしてる間にも遠くに──」


 と、その時だった。またもやあの煩わしい頭痛が俺を襲う。そして「キィィィン……」という甲高い耳鳴り。


「……っ、こんな時に」


 だが、それと同時に何かの気配も感じ取った。気配は……街灯に取り付けられている監視カメラからした。


「な、なんだあれ」


 カメラの周りを人魂の様なものがフワッと回っている。見間違いかと思い目をこするが消えない。


 そのカメラからは何が赤く光るコードの様なものが飛び出ていた、そのコードはなんと俺の手の指に繋がっている。


「……《Network(ネットワーク) Jack(ジャック)》」


 突然、そんな言葉が頭によぎる。すると──


「は、はぁ!?」


 脳内に巡る、街中に設置されている監視カメラの映像。


 全く状況が分からないが、どうやら監視カメラのシステムをハッキングしている様だ。


「とにかくこれで……」


 映像を探る。見つけた、ここから二ブロック離れた場所。どうやら"俺"は建設中のビルの中に駆け込んだ様だ。


 インテリ派の"俺"の走力では直ぐに追いつかれてしまう筈なのに、龍二さんは一定の距離を保ち追跡している。一体何があったのだろうか?


 取り敢えず、俺もその建物に向かう。急がなければ。


 そうして、目的地にたどり着く。カラーコーンにより封鎖されている入り口を飛び越え中に。


「龍二さん!」


 二人は二階にいた。近づこうとするが──


「葵! 近寄るな!!」


 龍二さんの怒鳴り声。離れた場所にいた"俺"がくるりとこちらを向く。


「……え?」


 振り向いた"俺"。スッと手に持っている何かをこちらに向ける。ありえない、何故"俺"は拳銃(あんな物)を持っている?


「……あ」


 やばい、足がすくんで動けない。


「葵ッッッ!!」


 龍二さんが俺の方に向かい駆け出す、ほぼ同時に聞こえる乾いた発砲音が数発。


「────ッ……」


 彼に庇われる様に抱かれ、そのまま柱の影へと隠れる。


「り、龍二さん!!」


 彼の左腕から赤い血が溢れているのが見えた、撃たれたのか? 俺のせい? 俺がここに来たせい──


「かすり傷だ、素人の射撃なんざ怖かねえよ」


「ま、マジですか……」


 顔色一つ変えない龍二さん、いやいやマジかよ。この人めちゃくちゃタフだな……



「おい、そこの女」



 ──!? あ、あいつ喋ったぞ?


 柱の陰から"俺"を伺う。銃を構えたまま不気味な笑みを浮かべていた。


「……聞こえているだろ、そこのチビ」


 やはり、俺に話しかけている様だ。


「お前、何者だよ! 俺の身体で何してる!!」


「お前の質問に答えてやる義理はない」


 バサッと、俺の疑問は切り捨てられる。しかしムカつくな。俺の声でそんな生意気なこと言われると。


「……っ」


 そんなやりとりの最中、また俺は煩わしい頭痛を覚える。いい加減なんなんだよこれ……!


 と、その時だった。俺が頭痛を覚えたのとほぼ同時に"俺"はスッと銃口を横に向ける。


 三発の銃声、"俺"は直ぐ近くにあった現場作業用と思われる設置型アイリス用アクセスポイントを破壊した。


「……っち、ギャーギャー鳴き声がうっせえな」


 アクセスポイントの方を向き、乱暴にそう呟く"俺"。アイツは一体何をしているんだろう。


「──っ」


 だが、今のでヤツに隙ができた。龍二さんが素早くバッと柱の陰から飛び出して"俺"に向かっていく。


 "俺"がビクッと反応するが、龍二さんの動きは迅速だった。張り手により拳銃が弾き飛ばされる。


 そのまま華麗に背負い投げ。"俺"は呆気なく拘束された。


「大人しくしろ!」


 龍二さんは、後ろで手を縛り上げ手錠をかける。なんだか自分に手錠がかけられる姿を見るのは複雑な感じだ……


 俺も二人の元に、手錠をかけられた"俺"は項垂れ小声でブツブツと呟いていた。


「お、おいお前! 俺の身体で何を……」


 と、その時。"俺"がプッと口から何かを吐き出す。それはピンのようで──


「……残念でした」


 挑発するようにそう呟く"俺"。


「え?」


 そうして、龍二さんが何かに気がついたような雰囲気を出す。


「マズイッ!!」


 俺は龍二さんに庇われる様にお姫様抱っこをされる。そして彼は大急ぎで"俺"から離れ──




 直後に聞こえる大きな破裂音。一体何が起こった? 何が起こっているんだ?


「ごほっ……ごほっ……」


 匂う焦げたような香り。俺は龍二から降りて"俺"の方を確認する。


「……は?」


 目に入ってきたのは、余りにも見るに堪えない光景だった。もやは"俺"は原型をとどめていなかった。


 なんで、なんで? 俺の……身体は? どうしてこんな事に……


「…………うっ」


 胃から先程食べた人工肉ハンバーガーが込み上げてきて、吐きそうになる。


「葵、無事か! 怪我は?」


「は、はい……どこも。"俺"の方はめちゃくちゃですけど」


 "あれ"を見ても意外と冷静だな俺。いや、そうしてないと……そういう風を装ってないと。


 ちょっとでも気を抜くと叫び出してしまいそうだ。


「まさか、体内にあんなモノを仕込んでいたとはな」


 "俺"の残骸を見てそう呟く龍二さん。



 ……そうして、俺の元の身体(ボディ)は木っ端微塵になってしまった。

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