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12話 特犯課

「おまたせ……あれ、新橋さんは!?」


 上郷さんがペットボトルを三つ抱えながらこちらに走って戻ってきた。


「分署に行くって言ってましたよ」


「あ、そうだ! 後から来いって言われてたんだ!」


 いやいや、大丈夫かこの人。


「はい、葵ちゃん」


 彼女がペットボトル飲料を一本渡してくる。ていうか"ちゃん"って、なんかそう言われると背筋がむず痒いんだけど……まあこの人からしたら俺は普通の女の子だし仕方ないのか。


 俺はそれを受け取ってパトカーの後部座席に乗り込んだ。


「じゃ、行こうか! ウチらの分署(ホーム)に!」


 上郷さんが運転席に乗り込む。


「……ちゃんとライセンス持ってるんですか?」


「ちょ、葵ちゃん? 私こう見えても二十四歳だよ? ちゃんと持ってるってば!」


 に、二十四歳? いってても十八歳くらいと思ってたのに……


「さー! レッツゴー!」


 そうして、パトカーは走り出す。にしても分署か……外縁部に警察署なんてあったかな。


「特犯課でしたっけ、どういう部署なんですか?」


 オレンジジュースを飲みながら、上郷さんにそう聞いてみる。


「うん、私もよくわからない」


 ズコッ……なんで? この人ホントに警察官?


「課長は『問題児の集まり』って言ってたっけなあ〜、おかしな話だよね! 私は普通なのに!」


 その言葉で大体理解できた、要するに島流し部署みたいな場所なのだろう。


 このポンコ──。いや上郷さんはともかく、龍二さんはバリバリ仕事もできそうな雰囲気だが何故そんな場所にいるのだろうか。


 そんな事を考えながら、俺は流れる車窓越しの景色を眺める。


 外縁部の隔離分署に設置されている課なんてきっとロクなもんじゃない気がしてきた……


 そうして、現場から数分ほどでその分署に到着する。


 分署は外縁部北側辺りに存在しており、外縁部と中心部を結ぶ海を跨ぐシーブリッジと呼ばれる大きな橋の近くにあった。


 外縁部は中心部から少し離れた、湾岸部の人工島に存在している。ここと中心部を結ぶのはその橋のみであり、それが余計外縁部が隔離されている感を演出していた。


「これが分署……」


 そのボロい建物を見上げる俺。二階建ての建物で一階部分は車が数台停められる車庫になっている。


 チラリと入り口の看板に目をやる。ボロい木製の看板には"新京市警外縁部第四分署(特犯課)"と描かれていた。


「そういえば、葵ちゃんって新橋さんとどういう関係?」


 パトカーを車庫に止め、降りて俺の方にやってきた上郷さんがそう聞いてくる。


「新橋さんからなんて聞いてます?」


 龍二さんは彼女に俺のことをどう説明したのだろう。


「聞いてない! もしかしてお子さん? いやいやあの人にこんな可愛い娘さんがいる訳ないか……」


 どうやら彼女は龍二さんの娘である愛理ちゃんの事を知らないようだ。


 というかあまり可愛い可愛い連呼しないで欲しい。他人から改めてそう言われるとかなり気恥ずかしい……


「あれ? 葵ちゃんもしかして照れてる? 可愛いー!」


「ち、ち、違いますって! 照れてなんかないです!!」


 まったく、どうしてこう女性というのはすぐ可愛いを連呼するのだろうか。


「……えっと、俺の事はこの後龍二さんが話してくれると思いますよ」


 取り敢えず、説明はあの人に丸投げしよう。


「──んっ」


 と、その時だった。下腹部辺りに若干の違和感を覚える。これはもしかして……尿意というヤツだろうか。


「どうしたの?」


 さっきのオレンジジュースのせい? それともあのミルクのせい?


 あ、そういえば生体ドールって空っぽの状態でも専用の栄養剤を液体で補給させてるとかなんとか聞いたことが──


「葵ちゃん?」


「……あ、いえ何でもないです!」


 というか、女の子のおしっこってどうやってするんだろう。想像が付かない。


「──っていやいや! 何考えてんだ俺!!」


 うん、気のせいだ気のせい、決してこのボディでトイレに行く勇気が無いわけじゃない。そう、さっきの尿意は単なる気のせいだ!



 そんなこんなで、俺と上郷さんは二階の特犯課とやらが入っていると思わしき部屋に上がる。


「あれ、ドア開かない……ここたまにこうなるんだよなぁ」


 ガチャガチャと入り口の立て付けの悪そうなドアを引っ張る上郷さん。


「おりゃ!」


 強引にドアを引っ張る。派手な音を立ててそのボロいドアはようやく開いた。


「上郷歌恋! ただいま戻りました〜。可愛いお客さんも連れてきましたよ〜」


 彼女に続いて俺も中に入る。


「お邪魔します……」


 特犯課、部屋の中は物が乱雑に散らかった狭苦しいオフィスのような感じだった。


「きたか」


 窓際に設置されているデスクにいるおじさんと、会話していた龍二さんが此方を振り向く。


「へぇ、ホントにそっくりだねぇ」


 若干小太りのそのおじいさんが俺をジロジロと見る。


「ちょっと! 変態的な視線で葵ちゃんを見ないでください! ロリコンですか!?」


 上郷さんが、彼の視線を遮るように俺の前に立つ。


「酷いな……歌恋ちゃん、おじさん傷ついちゃうよ……」


 がっくりと項垂れるロリコ──。いやそのおじさん。


「上郷、あまり課長を揶揄うな」


 やれやれ、といった様子でそう呟く龍二さん。


「揶揄ってないです! 私は葵ちゃんが課長の毒牙にやられないよう警護しているのです!」


「歌恋ちゃーん? 君の中の僕の人物像ってそんなあれな人なの……?」


 俺はその賑やかな光景を見て思った。あぁ、ここってそういうノリの分署なんだなぁ……と。

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