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11話 やかましい部下

「起きたか?」


「うわっ!!」


 ぬっと、空いている窓からこちらを覗き込んでくる龍二さん。まったく心臓に悪いからそういう登場の仕方はやめて欲しい。


 首筋を触ると、頸のポートには有線接続用ケーブルが。俺はそれを乱暴に引っこ抜く。


「……なんで車に乗ってるんすか俺」


 取り敢えず説明を求める。車内の様子からして……これ多分パトカーの中だ。なんとなく雰囲気や運転席見たらわかる。


「まぁ、取り敢えずだ」


 何が取り敢えずなのかよく分からないのだが。


 俺は有線接続用ケーブルの先を辿ってみる。ケーブルは運転席に取り付けられているアイリス用の移動ターミナルらしき小型端末に接続されていた。


「はぁ……頭痛え……」


 このボディで初めてアイリスにダイブしたからだろうか、やけに頭が痛い。こりゃアイリス酔いかな……


 俺は車を降りる。やはり俺が乗っていたのは市警のパトカーだった様だ。


 白黒のカラーリングに真っ赤なパトランプ、"SKPD"のアルファベットが存在感を放っている。


 あたりを見渡す、街の雰囲気からして外縁部からは出ていない感じだ。


「……さっきのアパート」


 少し離れた場所に先ほどのアパートが見えた。アパートの前には数台のパトカーと、一台の救急車が止まっている。


「葵、あんまり顔出すな。見つかったら厄介な事になる」


「え……は、はい」


 俺はパトカーの影に隠れる。


「何分潜ってました?」


 地面に座り、パトカーに寄りかかりながら俺は龍二さんにそう問いかける。


「十分くらいだな」


 体感ではもっと潜っていたような気がするけど、まあそんなもんか……


「新橋さん!」


 と、その時。龍二さんの苗字を呼ぶよく通る元気の良さげな女性の声が聞こえた。


「上郷、どうかしたか」


 龍二さんは声のした方を向く。俺もパトカーの影に隠れながらこっそりと、そっちを覗いてみた。


「現場に入ろうとしたら、特犯課はお呼びじゃねえって追い返されました!!」


 スーツを着たポニーテールの女性……見た目はだいぶ若い、高校生くらい? でも今の会話からするに龍二さんの同僚っぽいな。


「だろうな……」


 ため息をつき、そう呟く龍二さん。特犯課というのは龍二さんがいる部署だろうか。聞きなれない名前だけど一体どんな部署なんだろう。


「……おや! そちらの娘は!」


 ぎくっ、見つかってしまったのか?


「お目覚めみたいですね!」


 俺の元に来る彼女。彼女もしゃがんで俺に目線を合わせる。


「ほわぁ……見れば見るほど美少女ですね、お人形さんみたいです!」


 キラキラとした視線で俺のことを見てくる彼女。いや確かに、俺のボディは見とれるのもわかるくらい可愛いけど……って、なにナルシストみたいな事言ってんだ俺。


「あ、あの……」


「おい上郷、葵が混乱してるだろ」


 困惑する俺に龍二さんが助け舟を出してくれた。


「はっ、すみません! あ、私は上郷歌恋(うえさとかれん)と言います、新橋さんの部下です!」


「はぁ……」


 なんだかいちいち喧しい人だ、元気いっぱいすぎるというか。


 俺は事態の説明を求める視線を龍二さんに向ける。まったくどういう経緯でこんな状況になってるのやら。


 俺の視線に気がついた龍二さんは何やらポケットから旧型の情報端末CLEARを取り出してなにか操作をする、何をしているのだろうか。


「上郷、千円やるからそこの自販機で三人分の飲み物買ってこい。釣りは取っておいていいぞ」


 あぁ、送金してたのか。というか龍二さんって未だにCLEAR使ってるのか。


 まあCLEARも末期の世代はまだ使えるモノもあるし、それを個別に財布代わりに持つ人も割といるから珍しくはないか。


「新橋さん太っ腹です!」


 そう言って駆け出していく上郷さん、単純な人だ。


「……で、状況を説明してもらえませんか?」


「あぁ、そうだな。まず──」


 そうして龍二さんは俺がダイブした後の状況を教えてくれた。俺がダイブした後、龍二さんは数分様子を見ていた。


 だけど流石に事件現場に違法ドールがいると話がややこしくなってしまうので五分ほどで切り上げ、ヤマさんの部屋に転がっていたアイリス用中継機に接続を移して部屋から離れたらしい。


 あの部屋に中継機があったとは、物が散乱しているから気が付かなかった。


 中継機を使えば部屋を離れても接続が維持できる。そうして後から呼んだ部下、あの上郷歌恋さんに回収させたとの事。


 現在は入れ替わりで部屋に刑事課の人達がやってきて、今現場の調査をしているみたいだ。


「現場のもの勝手に持ち出していいんですか?」


「後でこっそり戻しときゃ問題ない」


 いいのかそれで……適当すぎる……


「はぁ……この面倒くさすぎる状況なんとかしなきゃならねえな。ターミナルにも接続ログがあるだろうし、仕方ねえがきちんとお前の状況を素直にうちの連中にも伝えるぞ、いいな?」


 う、それは困る。俺のイタズラが露見してしまうかもしれない。


「いいけど、龍二さん捕まりませんか?」


 俺はそっちの方向を突いてみた。


「……ま、なんとかうまい説明方法を考えるさ」


 そうして、龍二さんはパトカーの近くに止まっていた真紅のバイクに跨る。


「先に分署に行ってる、お前は上郷に連れてってもらえ」


 そうして、龍二さんはヘルメットを被りさっさとこの場から去っていった。


「…………大丈夫かなぁ」

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