10話 必殺技名はシンプルに
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「わ、悪いコンピューターウイルスは私が削除しちゃうぞ♡」
くそ、なんだよこの小っ恥ずかしい詠唱文は!!
「くらえ! 《Code.0001/Virus Fixed Attack》!! 略して"VFA"!!!」
名前はそのままじゃねえか! どうせやるならここもそれっぽくしろよ!
という、心の中から湧き上がるツッコミを抑えつつ大人しく術式を読み終える俺。
すると目の前のゴブリンが透明な箱のようなものに包まれる。なにやら基板らしき模様が浮き出ているその箱。
『これで、相手の動きを十秒くらい固定出来るから』
十秒!? 派手なエフェクトの割には意外と短いな……
「次は何すれば!?」
『そのまま次の術式を詠唱して!!』
次……これか!
そのまま、コンソールに表記された二番目の術式を選択する。
「《Code.0002/Virus Delete Attack》!!!」
術式をそのまま実行する。すると今まで手ぶらだった両手にチアのポンポンらしきものが出現。
「……こういうとこは芸が細かいのに」
何で名前は捻りがなく直球なのか……
俺はそのまま一気にゴブリンの姿をしたコンピューターウイルスに向けて両手を向ける。
「でりゃー!!!」
ポンポンから放たれる青白いレーザーの様な光。それはスッと半透明の立方体を通過し、内部のゴブリンに突き刺さる。
攻撃を受けたゴブリンは微動だにする事なく、0と1の数字となり霧散していった。
「く、駆除できた……?」
なんだか本当に魔法少女みたいな必殺技だ。いや、魔法少女というより変身ヒロイン?
『おつかれおつかれ』
彼女の反応を見るに、どうやら完全に仕留められた様だ。
『今のはCクラスだから一撃で仕留められたけど、もっと高度なコンピューターウイルスだとそうは行かないから』
……ていうか、まだ俺にこんな事させるつもりなのか?
コンソールを展開して終了ボタンを押す。すると変身は自動的に解除された。
「この力で、俺に何しろっていうんですか」
『さっきも言ったでしょ? アイリスを救ってほしいって』
よく分からないが、アイリスに蔓延っているコンピューターウイルスを退治しろって事なのか……?
『それだけじゃないけどね』
「考えを読まないでください」
そうして、巫女服を着た彼女はふっと、再び俺の目の前に現れる。
「私がインストールしてあげたそのソフトウェアは、この世界に巣食う"悪意"とより効率的に戦うための手段」
──だから、悪意ってなんなんだよ。この人の言っている事はイマイチ抽象的でわかりにくい。
「一見単純明快に見えるその術式も、幾つものスクリプトが束ねられている物なの」
あの単純そうな術式も、複雑な設計により作り出されているという事か。
「それをより視覚的にわかりやすくしたのが魔法術式」
「にしても……ちょっと趣味的過ぎません?」
衣装といい攻撃方法といい、魔法少女モノを意識しすぎだ。
「そりゃ、私が好きだから」
個人的過ぎる設計思想だ。
「あぁ、そろそろ時間だね。あまり君のパパを心配させちゃいけないから。もう帰った方がいいよ?」
パパ? 一体誰の……って、もしかして龍二さんの事か!?
「変な事言うな馬鹿野郎!!」
そういう変なこと言われるとちょっと意識しちゃうじゃねえか。
「このエリアから直接ログアウトできるかな……できるっぽいな」
俺はコンソールを閉じて改めて巫女服を着た彼女に向き直る。
「一つ聞きます、俺がこのボディになったのと、ヤマさんと呼ばれる赤坂重工元役員が殺害されていたこと……」
そうして、この"TS-System"というソフトウェア。
「無関係なんて事はないですよね?」
俺は一体、何に巻き込まれているのだろうか。
「どうかな〜、私はただソレを設計して素質のあるモノに配布しろって言われているだけだから」
言われてる? 一体誰に……と口に出そうとしたが、彼女の人差し指が俺の唇に触れる。まるでその言葉を言わせないと言わんばかりに。
「それ今言ったら面白くないでしょ〜」
「面白くないって……人が死んで──」
だが、俺がそれを言い終わる前にサラサラと彼女のアバターテクスチャが崩れていく。
『これはゲームなんだよ? 私たちとネットワーク世界に潜む悪意との生存をかけた競争……巻き込まれちゃった君には悪いけど、しっかり駒として働いてね』
頭に響く彼女の声。そうして彼女のアバターは完全に消失していった。
「何がゲームだよ、ったく……」
最後までイライラするヤツだった。とにかくとっととログアウトしよう。これ以上龍二さんに心配をかけるわけにはいかない。
再びコンソールを展開して、アイリスからのログアウトを選択。
《アイリスをご利用いただきありがとうございました。ログアウト処理を実行中です》
そうして、視界がフェードアウトしていく。
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「ん……」
意識が現実に戻ってくる。電子世界から現実世界への帰還だ。
「あれ…………?」
辺りを見渡す。俺がいたのは先程までのヤマさんの部屋ではなく何故か見知らぬ車の中だった。
「ここ……どこ……!?」




