1話「全ての始まり」
サイバーパンク×メタバース×魔法少女×TSです。深夜のノリで書いて間違って誤投稿してしまったのですが、良ければお楽しみください。
西暦2058年、人間社会は大きな変革を遂げていた。電脳的仮想世界"アイリス"の登場。それに伴う社会的インフラの大幅な変化……
もはや、アイリスが無かった時代の事なんて俺には想像できない。昔はわざわざ板のような端末や、大袈裟なコンピューターでネットにアクセスしていたらしい。
現実と仮想の境界は曖昧になった、そんな時代に俺"天海葵"は生きている。
「ふあぁ……ねむ」
大きなアクビが漏れてしまう、昨日も徹夜でアイリスにダイブしていたから眠くてたまらない。
窓から外を眺める、今は退屈な学校の授業中だ。早く帰りたい。
昨日、アイリスの深部に潜っている途中に面白いモノを拾った。強固な保護が何重にも重ねられている謎のファイルだ。
プロテクトを無理矢理こじ開けるのは勿論違法行為だ。だけどこんなあからさまに"訳あり"なファイル、放置できるほど俺はおとなしい人間じゃない。
「…………」
俺はポケットから薄い手のひらサイズのガラス板を取り出す。これは"CLEAR"と呼ばれる旧時代の携帯型情報端末だ。
こう言った、リアルに形として存在するタイプの端末はもはや時代の遺物と化している。
今は脳を電脳化する技術が発達し、直接的かつ感覚的にネットワーク世界にアクセスするのが主流となっている。
勿論俺も電脳化をしている、今やこの世界──特に日本ではおおよそ八割方の人間が電脳化を済ませているらしい。それほど電脳化というのは当たり前になっている。
だからこそ、本来こんな時代遅れの旧時代の遺物を使う必要はないんだけど……
っと、あったあった。昨日のファイルだ。
この端末の中には昨日拾ったファイルを突っ込んである。ちょっと危ない作業をするときなんかは、こういった既に"アイリス"のような新世代ネットワークから切り離された端末は便利だ。
夜更かしして三つの防壁を突破した、あと一つ破れば内部のファイルにありつける。
防壁を破る専用の自作ソフトウェアを起こし、ファイルを解析にかかる。さて、どう料理してやろうか……
そうして俺は、授業中ずっとファイルの防壁破りに勤しんでいた。気がつけば授業も終わり下校の時間になっていた。
「帰るかぁ……」
作業途中だったが、一旦やめCLEARをバッグに突っ込む。続きは家に帰ってからしよう。
「……っ、なんだ?」
教室を出ようとしたその時、若干の目眩と立ち眩みが俺を襲った。
「……気のせいか?」
それはすぐに治った。いったい何だったんだ? アイリスに潜りすぎたせいで疲れが溜まっているのだろうか。
結局、家に帰るまで同じような目眩や、更には頭痛にまで襲われた。どうやら風邪でもひいたみたいだ。
「ただいま……」
新京市中心部より少し離れたところにある煉瓦造り風のクラシックなアパート、その一室に俺は住んでいる。
新京市は二十年前、東京からの首都機能移転計画の際にいくつかの行政機関が、ここに移って来て以来大きな発展を遂げている。
まあアイリスを運営する会社"スピカ・テクノロジー"がここに本社を構えていた事もあって、元々そこそこ発展してはいたんだけど。
そんな新京市で俺は一人暮らしをしている。親は俺が小学生の頃に事故で亡くなってしまった。
以来母の妹、結衣叔母さんに面倒を見てもらっている。けどあの人仕事の関係で殆ど新京市にはいない。
だから実質一人暮らしというわけだ。
通学バッグからCLEARを取り出す。作業はあと二、三ステップで終わる。
果たしてこのファイルには何が入っているのだろうか?
「っし、後はこうすれば……」
最後の処理を実行、プロテクトが解かれた内部ファイルにアクセスをする。
「……文字化けしてるな、修復できないか?」
現れたのは意味不明な文字の羅列。完全に文字化けしている。
画面をクスロールし中身を確認……と、その時であった。またあの妙な目眩、そうして激しめな頭痛に襲われる。
「──っ、あぐ……いってえ」
ちょっとこれはキツい、思わずCLEARを床に落としてしまった。徐々に意識も掠れてく……
ダメだ…………視界が…………
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「哀れな人間……君には罰を与えなければならない」
暗闇の中、誰かの声が聞こえる。ここは何処だろうか? 何も見えない。
「あれを拾ってしまったのは運の尽きとしか言いようがないかな……まあスルーしとけばよかったんだよ、自業自得」
こいつは一体何を言ってるんだ? 自業自得? なんの話をしているんだ。
「うーん、どれがいいかな。あ、これなんて可愛くて君にピッタリじゃないか?」
はしゃぐ子供のような声が頭の中に響く。相変わらず視界は真っ暗だ。
「────じゃ、また会おうね。せいぜい新しい身体を楽しんで」
そうして声は途絶えた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「……ん」
意識がハッキリとしてくる、どうやら気を失っていたみたいだ。
なんだか途轍もなく妙な夢を見たような気がするけど気のせいだろうか。
──あれ、ここ何処だ? 上に見えるのは全く知らない天井。俺はゆっくりと起き上がり、周りを確認する。
随分と殺風景な部屋だ。俺が寝ていた簡素なベッド、一台の大袈裟なコンピューター……
それ以外は何も無かった。窓は板で閉じられており、時間帯すら伺う事ができない。
ゆっくりとベッドから降りる、なんだか身体が途轍もなくダルい、感覚がおかしい。
「いてっ……!」
足をとられ転んでしまう、なんだか自分の身体に慣れていないような妙な感覚だ。
「……ん?」
部屋の隅、これ見よがしに置いてある大きな鏡。そこには一人の少女が写っていた。
「は?」
俺は思わず自分の顔をぺたぺた触る、鏡の中の少女も全く同じ動作をした。
「嘘だろ……」
立ち上がり、急いでその鏡の前へ。そこに写っていたのは……なんとも可愛らしい金髪の少女であった。