004:ジェシカのリアル
高校生になって、入学祝いに買って貰ったゲーム機。すごく楽しみにしていたゲームだったのに、こんな事になるなんて思ってなかった。
まるでアニメみたいにゲームの中に閉じ込められた。一生このままなんだろうか……。私はここで死んじゃうのかな……?
パパやママにも、もう……。
VRゲームはアバターを自由に設定して、どんな自分にでも生まれ変われる、なんてバカみたい。
体を大きくして出来るだけ強そうな見た目のアバターにしたのに、不安に押し潰されそう。
変われるって思ったのに……。
そうだ。私は変わりたかったんだ。
負けたくない……‼︎ 街に籠もったまま何も出来ないのはイヤだ‼︎
外に出ないと。
とにかく、動かないと。
◎
今、このゲームは、死ぬと死んでしまう。
ゲームの中でモンスターにやられると、現実でも死んでしまうんだ。
なのに宮本くんはまるで死ぬのが怖くないみたいに、ズンズンと前に進んでいく。
【グラス】の街から西に進むほどに、出現するモンスターは大きく強くなっていった。いくつかレベルは上がったけど、すぐにモンスターを倒せなくなった。
高レベルのモンスターに出会っては逃げ出し、危険なフィールドは出来るだけ避け、見つけたポータルポイントを解放して、街に戻って補給して、私たちは休みながらも確実に西へ進行していった。
荒野フィールドを抜け砂漠フィールドを迂回して遺跡フィールドも越えると、宮本くんの言ってた通りにポータルポイントは無くなり、そこからは鬱蒼とした森が広がっていた。
あとはスタングレネードと各種トラップの出番だった。それまで貯めていたお金を全て費やしとにかくモンスターとの戦いを避けて森を抜けると、
「ジェシカさん! 最後の一発!」
「いっけぇぇぇぇ!!!!」
あとはもう、今の私たちでも倒せる程度のモンスターしかいない、丘の草原フィールドだった。
私のフォトンランチャーの光が大きな猪のモンスターを呑み込み、後には光の粒子のエフェクトが散らばる。
無理そうなら宮本くんがスタングレネードを投げて逃げるつもりだったけど、どうにか危なげなく倒せた。最も危険なところは越えられたみたいだ。
「峠は越えたみたいッスね〜」
「病気の人みたいな言い方するな」
ここまでの道中は、全て宮本くんが先導して道を切り拓いてくれたようなものだ。
この子はスゴイ。私なんかよりずっと、ゲームが上手いんだ。
私よりも小さな子までこんなデスゲームに巻き込まれて、私が助けないと、なんて思っていたのに……。
「ここまで来れば安心ッス。ヴァイスの街はもうすぐそこッスね」
「まだまだ油断出来ないだろ。金も無くなったし」
「金が無くて死ぬことは無いッスし、スタングレネードもあと2個残ってるッス。これ売って今夜はお祝いッスね。生きてここまで来れたことを喜びましょう」
「そうだな。これも全てアタシのお陰だな!!」
「いやほんと、ジェシカさん居なかったら絶対無理でした」
今はまだ言葉で強がるくらいしか出来ない。
でも私も宮本くんと一緒に、危険な道を乗り越えることが出来たんだ。今は頼りない私でも、いつかきっと……‼︎
「ん、誰かいるぞ」
「本当ッスね」
草原を歩いていると、蛾のモンスターと戦う女の子がいた。
手から火の玉を放って、人間大のモスラみたいなモンスターを一人で仕留めてしまった。魔法使いだ。剣と魔法の【ヴァイス】のプレイヤーだ。
「ちょうどいい、街まで案内してもらおうぜ」
「あ! ちょっとジェシカさん!」
「お〜〜い!! そこの魔法使い!!」
大声で呼びかけるとすぐに気がついてくれたみたい。駆け寄って来てくれた。
【ヴァイス】のプレイヤーと会うのは初めてだ。……ていうか、この子も子供じゃないの!? しかも美っ少女!!
「こ、こんにちは」
「その腕……サイボーグ? まさか【グラス】のプレイヤーですか?」
「あ、あぁそうなんだよ。よかったらヴァイスの街まで案内してくれないかい?」
「…………」
美少女は私たちを見て少し驚いているみたい。それはそうだ。彼女も【グラス】のプレイヤーを見るのは初めてのはず。
でも、しばらく考えて、
「すみませんが、案内は出来ません」
と言った。
「な、何で?」
「レベリングが忙しいんです。一刻も早く、少しでも強くならないと……」
レベリングって、敵を倒して経験値を稼ぐレベル上げのことだよね? 一人でレベル上げなんて、この子もデスゲームが怖くないんだろうか?
…………強く、か。
「私は案内出来ませんが、ここから南西に少し行けば街の方へ続く道があります。道をまっすぐ行けば人の多い狩場も近いですよ」
「や、どもども助かるッス! ありがとうございました〜」
道を教えてくれたところで宮本くんが割り込んで話を終わらせた。私の腕を強引に引いて急いで美少女から離れる。
すぐに教えてもらった道を見つけてズンズン進んでいく。
「ちょっと、宮本?」
「……迂闊過ぎッスよ。もしヤバイ人だったらどうするんッスか」
…………宮本くんは慎重だ。
そのお陰でモンスターをやり過ごしてここまでこれたのかもしれないけど、初対面であんな可愛い女の子を疑うのはちょっと行き過ぎだと思う。おねーさん怒るかもだぞ。
「宮本お前なー、そういうとこだぞー?」
「何ッスか。僕はジェシカさんが心配で言ってるんッス」
「…………」
う、嬉しいことを言ってくれるなーこの子は。私のこと大好きかー?
……でも実際のとこ、今のままじゃ本当にこの子に守られてるだけだ。
さっきの美少女も言ってたけど、私も強くなりたい。
「ところで、街に着いたら宮本はどうするんだ?」
「忙しくなるッスね。まずは知り合いを尋ねて、明日からイベントやクエストを熟さないと」
「今日はもう街の外には出ないってことだよな。じゃここで一旦解散ってことにしないか?」
「え? ここで?」
「ちょっとレベリングしときたいんだ。何かあったら【friend機能】で連絡してくれ」
Lvを上げれば、私のこのアバターは強くなる。それだけでも足手纏いってことは無くなるはず。
宮本くんみたいな小さな子を守れる人になりたい。宮本くんはとても強い子だったけど、私が最初に声をかけたのはそれが理由だった。
……手を振って別れた宮本くんの後ろ姿を見送りながら、弟のことを思い出す。
もう情けないお姉ちゃんでいるのは、イヤだ!
私は強くなりたい!
私は、変わりたいんだ!