初クエスト
翌日、俺は初クエストに参加することとなった。
指定の集合地点へ赴くと、そこで待っていたのはアリス1人のみである。
「あれ、他のメンバーはまだですか?」
「いや、今日は私と2人でクエストをこなしてもらうわ。武器は持ってきたかしら?」
「一応、アカデミー時代に使っていたものを」
「あなた、アカデミー出身なの!?」
アリスは目を丸くして驚いた。
彼女の反応も当然だろう。エリート揃いのアカデミー出身者がこんな場所で油を売っているはずがない。
通常なら、アカデミー出身の肩書さえあればすぐさま上級クエストを受注することができる。
そう。通常なら、だ。
ここで言う通常とは、アカデミー在籍時代に平均以上の成績を納めていた者のことを指す。
「レイモンド、あなた本当に初心者なの? 他のチームから勧誘とか来なかった?」
もちろん彼女は何も知らない訳だから、仕方ない。しかし彼女の質問は、俺の心は深くえぐるものであった。
「……いや、俺はあれだよ。いわゆる落ちこぼれってやつ」
「あっ、そうなの? でも何の経験もない初心者に比べれば心強いわ。戦闘訓練もバッチリ受けてるんでしょ?」
「学年でドベだったけどね」
「……えーと、ちなみにジョブは何かしら?」
「あー、一応魔剣士を専門に……」
「へ、へえ。アカデミー出身で魔剣士なんて珍しいわね。頼りにしてるわ」
年下の女性に気を遣われていることに、俺は益々気を落とした。
いや、落胆している場合ではない。ギルドの世界は実力主義だ。この子だって、新人のサポート役を一人で任されているのだ。ある程度の実力は兼ね備えているはずである。
「アリスさんのジョブは?」
「私は剣士よ。戦闘スタイルはお互い近いところがあるかもね。あと、呼び方はアリスでいいし、敬語は無しね」
大剣を手に取るアリスの姿からは、歴戦の貫禄すら漂っていた。
今回のクエストは魔獣討伐だ。討伐対象はキメラ、奴等を魔獣と呼んで良いものか分からないが、いわゆる合成生物である。
種類は多種多様で、この世界に蔓延る魔獣の大半がこのキメラである。生態は不明だが、大して脅威となる存在ではない。
「エールボス街の西門を出て5キロメートル地点。商隊が2度も襲撃されてるそうよ。報告では5体のキメラが確認されてるって」
5体。この程度なら、アカデミー時代の戦闘教練みたようなものである。
何よりも、2年間の引きこもり生活で発見した新たな魔剣の可能性を探るには、丁度良い匹頭であった。
「お手並み拝見ってところね」
アリスは悪戯っぽい笑みを浮かべた。やはり、クエストには慣れているのであろう。