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昔話

最弱ジョブである魔剣士を選択した俺は、その後街で最も勢いのあるギルドへ加入した。


勿論ギルドメンバーは魔剣士の加入を歓迎しなかった。しかし、俺の内に秘めたる潜在能力に勘付いたリーダーの計らいで、いくらか難関クエストを回してもらえるようになっていたんだ。


既存メンバーの反感は凄まじかった。しかし様々なクエストをこなしていく中、ギルドの連中も次第に俺の実力を認めていった。そして加入から数ヶ月も経たない内に、俺は時期リーダー候補まで上り詰めてしまったのだ。



なんて、うまい話があるわけない。

そもそもギルド加入には、ある程度の実戦経験が必要なのである。


俺はまがりなりにも、王立アカデミー卒業生の肩書を有していた。

王立アカデミーとは言うなれば戦闘エリート訓練校だ。読んで字の如く王立、王政府が運営する学校で、12歳以上18歳以下の王国民であれば、誰でも受験資格が与えられている。この国で貧乏人が金持ちになる為の、唯一の入り口と言ってもいいだろう。卒業生の多くは王国軍人や傭兵、または俺のようにギルドへ加入して生計を立てようとするのである。


なぜ俺のような人間が合格できたかって? 語るべき話は山ほどあるが、今は語る気になれない。

とにかく俺の卒業成績は下から数えた方が早いほうで、学年きっての落ちこぼれだった。例えギルドに加入できたとしても、低級クエストすら回してもらえない。そんな事実は卒業前から分かりきっていた。


しかし俺には武器があった。いわば強みである。その強みは魔剣使いにうってつけのものであり、アカデミー時代を通して発掘した俺の才能であった。だから俺は卒業後も、あえてギルドに加入しなかった。そう、「あえて」加入しなかったのだ。決して加入を拒否されたわけでもないし、強がって嘘をついているわけでもない。勿論涙など流していない。


そして俺は2年に及ぶ流離の冒険へと旅立った。各地で見聞を広め、魔窟を探索し、時には王国の刺客と剣を交えたりもした。


大公の娘と身分違いの恋にも落ちたが、俺は彼女の幸せを願い城を後にした。今も俺の胸にかかるペンダント。そう、これが別れの時エリーゼがくれた唯一の「思い出」だ。



……すまない。これも全部嘘なんだ。いや、己の才能の片鱗を見いだしたのは確かなのだが、それだけだった。アカデミー卒業後、行く宛のない俺は、すごすごと生まれ故郷の小さな村へ帰る他なかった。ノール村という小さな小さな農村だ。そこで俺は、2年間引きこもっていた。そうだ。俺は引きこもりだったんだ。親の家業である農業を手伝うこともなく、ひたすら自室で本を読み耽っていた。


魔剣に関する研究をしていたわけでもない。しかし結果的に、2年に及ぶ引きこもり生活で俺は魔剣士の真相に大きく近づくことができた……、と自負している。


ちなみに、アカデミー入学前に結婚を誓った幼馴染みは、既に男が出来ていた。規定の最小年齢である12歳で合格を果たした俺は、3年間の訓練生活を経て村へと戻った。もちろん街で就職先が見つからなかった、なんて言えるわけもない。俺は彼女に、アカデミーで経験した数々の武勇伝を語って聞かせた。しかし彼女はどこか上の空で、偶にうんざりしたような表情を見せるのであった。


妙に他人行儀な態度を取り続ける彼女に、俺は思わず切り出したんだ。

「長いこと待たせてごめん。結婚しよう」

ってね。すると彼女は何と答えたか。


「……いや、ごめんなさい。私もう他に男の人がいるの。結婚の話も進んでるから」


思えばあの時から、俺の性癖は狂わされたような気がする。


思い出話はこのへんにしておこうか。

ともあれ俺はアカデミー卒業後、2年間も本を読み漁っていた。この引きこもり生活の副産物として、俺はとんでもない力を手に入れてしまった、ような気がするのだ。

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