5:バイク少女とカウンター
「後は君だけだよ」
サクラは丸い身体に兎みたいな耳と足を持つモンスター、モフィロンにそう宣言した。
……のだが、視界に映る「新スキル獲得!」の文字が気になって仕方ない。
「ちょっと待ってね。今スキルの説明読むから」
「キュイ!」
知ってか知らずかモフィロンが威嚇の声をあげる。
だが、無視してウィンドウに注目した。
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【カウンター・セブン】
7秒間、カウンター攻撃の威力が2倍になる。
取得条件
敵をカウンター攻撃で20体倒す。
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「へぇ~、結構強くない? おっと」
淡々と読んで簡単に理解したサクラだが、その間にもモフィロンは容赦なく攻撃してきた。
「さっそく使ってみよっと【カウンター・セブン】!」
「……!!」
サクラがスキル名を口にすると、稲妻状のエフェクトが全身を駆け巡る!
と同時に身体の底から力が漲ってくる。
「強くなった気がする! さあ、どっからでも掛かってこい!!」
ファイティングポーズを取りながら、指を曲げてモフィロンを挑発した。
「……」
「……あれ?」
――しかし、さっきまで果敢に攻撃を仕掛けてきたモフィロンは急に動きを止めてサクラをじっと見つめた。
「どうしたの? かかってこい!」
「……」
「お願い! かかってきて!」
「……」
「なんで来ないの!?……あわわわ、効果が切れちゃう!」
「キュイー!!」
「うぉあぁ!! 今来ないで!」
モフィロンはスキルの効果が切れて稲妻が身体から消えた途端に襲いかかってきた!
それもそのはず、このゲームの敵モンスターはカウンターを狙いすぎると学習して回避するというAIが組まれているのだ。大概のプレイヤーはチュートリアルを受けてそれを知るのだが、サクラはバイクを探すのに夢中になっていたらしく、飛ばしてしまっていたようだった。
「私のカウンターを見切ってるなんて……正々堂々勝負しろってことね!?」
「キュイ!」
返事をするようにモフィロンが鳴き返した。
サクラは両手を顔の前に構えてぴょんぴょんと二回跳ねた。そして今度は逆にモフィロンに突撃した。
「うおおおお!! 喰らえ! ライダーパーンチ!!」
「キュキュッ!!」
自分が小さなころから好きな特撮ヒーローの技をパクって必殺の一撃を振るう。
だが、サクラ渾身の拳はモフィロンがジャンプして避けたせいで空を切った。
「あらっ」
「キュイーッ!!」
サクラの体勢が崩れる。その刹那、モフィロンの小さな身体が空中で翻り、回転をつけて蹴りを放った。
「ぐべーっ!?」
バチン!という音と共に、顔にまともに飛び回し蹴りを食らったサクラがギャグみたいに吹き飛んで、地面を無様に転がった。
「キュイっ!」
「んぐぐ……おのれ、なめよって……可愛いからって容赦しないんだからね!」
勝ち誇ったように鳴いたモフィロンに対して、残り少ない体力を振り絞って起き上がったサクラが変な口調になりながら毒づく。なお、ほっぺたに肉球の跡が着いたことには気づかなかった。
「もう一度。うおりゃあああ!!」
「キュッ!!」
サクラはもう一度拳を構えて飛びかかった。しかし、モフィロンは見切った!と言わんばかりに飛び跳ねて回避する。
そして再び身を翻して回し蹴りが炸裂させた。
――だが、
「甘い!!」
「キュイッ!?」
回し蹴りを予知したサクラは顔を反らして蹴りを回避する! それどころかむしろ逆にモフィロンの足をガッチリ掴んで勢いそのままに投げ飛ばした!
「はぁ、はぁ、どうだ!?」
「キュ、キュイイ……!!」
モフィロンが起き上がる。体力を示す赤いバーは、もはや縦のほうが長くなるくらい短くなっていたが、まだかろうじて残っていた。
お互い、もう一撃でも食らえば保たないだろう。
「楽しいね……でも、もう終わりだよ……!」
「キュイ……ッ!!」
それでも一人の少女と一匹のモンスターは対峙する。
サクラは今、この時が楽しいと感じていた。そして、目の前に立ちはだかる兎に似たモンスターに友情のような熱い思いを起こしていた。
モフィロンも同じことを思ったのか、呼応するように鳴き声を上げ、地面を掻くように足をこすりつけた。
「これが私の全力だよ……! 【カウンター・セブン】!!」
「キュキュイッ!!」
サクラがスキルを発動させると同時にモフィロンが走り出す! サクラも全身に稲妻が走るのを感じ取った瞬間に敵に向かって走り出した!
ここから繰り広げられる技は――
「でぇああああああ!!!」
「キュゥイィィィィ!!!」
――飛び蹴り!!
一人と一匹の身体が空中で交差する。
雌雄は決した。
互いにほぼ同時に着地して地面を滑る。そして与えたダメージも自身のHPも確認せずに立ち上がった。
「……」
「……キュ、キュ、イ……」
モフィロンの身体が地面に沈み、光となって散っていった。
サクラは勝利を噛み締め、無言で拳を天に突き出した。
『レベルが上がりました』『12ガル手に入れました』
「君は強かった。でも私の勝ちだ」
ただ、順当にレベルを上げてステータスポイントを割り振れば、大して苦戦する相手ではなかったのをサクラが知ったのはすぐ後のことである。
感想、ブクマ、評価ありがとうございます。
作者の餌になりますのでどうかください。