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バイク好き少女のVRMMO  作者: 東風 とうふ
第一章:始まりのA
7/30

4:バイク少女と初戦闘

 壁に守られた街を出ると、そこは草原だった。

 爽やかな草の香りを運ぶ風がサクラの横を通り抜ける。夏休みに田舎に来たような、これから冒険が始まることを予感させるような匂いだった。


 草原にはすでに人がいて、始めての戦闘をこなしているようだ。


「んー、いい風。よし、私も戦うぞ! どこだモンスター!」


 サクラもそれに倣って、モンスターを探し始めた。

 何かが出てきそうな草むらをガサガサと音を立てて進む。すると、丸っこいものが目前に飛び出してきた!


「きゅー!!」

「うお、兎だ!……兎?犬? なんだこれ」


 そこに現れたのは、人の頭ほどの丸い身体に目と口、そして兎のように長くて垂れた耳を着けただけの簡素なデザインのモンスターだった。頭上には『モッフィー Lv1』と表示されている。

 いわゆる最初の敵というものだろう。恐らくそう強くはない。


「かわいい……ってうわ!」

「キュイー!!」


 サクラが見とれていると、モッフィーが鳴き声を上げながら突進してきた! 丸くてぷにぷにの身体がサクラに迫る!


「よっと。うん、リアルよりはよく動くね。でも格ゲーよりは鈍いかな。っと」


 しかし普段から友達とVRゲームを嗜むサクラにとって、このような単純な攻撃を避けるのは造作のないことだ。半身を反らして軽々と突進を回避した。

 それに、サクラのリアルである桜花は非常に高い動体視力を持っていた。普段から鍛えているのだ。……バイクに乗る、それだけのために。


「キュイ!キュイ!」

「フッ!ハッ! 体当たりしかしてこないのかな? それならこっちから!」


 しばらく回避に専念して敵の行動を観察していたサクラだが、攻撃パターンが一つしかないことを見破ると、右足を半歩引いて腰を低く構えた。


「ちょっとかわいそうだけど……バイクのためだからごめんね」

「キュキュー!!」


 散々攻撃を回避されたためか、息を荒くして渾身の体当たりをかますモッフィー。だがサクラはその場から動かず、じっと敵を見つめていた。


「せいやっ!!」


 モッフィーの攻撃が当たる寸前、サクラの回し蹴りが炸裂した。

 ブォン、と空を斬りながら鞭のようにしなった脚は敵を正確に捉え、サクラは蹴りの勢いで後ろを向く形になる。

 まともに攻撃を受けたモッフィーのHPバーは一瞬で空になり、その身体は光となってサクラの背後で散った。


『レベルがアップしました』『1ガル手に入れました』

「ほっ……たったこれだけか。最初のモンスターだから仕方ないね」


 目の前に落ちてきたコインを空中でキャッチしながらつぶやく。

 ちなみにドロップしたお金をキャッチする必要はまったくない。仮に放って置いても自分が倒したモンスターのドロップ品は自動で回収される仕組みだ。


「このペースだと、あと59万9999匹……最初から持ってるのと合わせても59万8999匹倒さなきゃならないのかぁ。んー、もっと強いモンスターがいるところへ行かなきゃね」


 レベルがアップしたことに気づかないサクラは、さらなる強敵を求めて歩き始めた。






「きゅいー!」「きゅいきゅいー!」


 しばらくザコ敵を倒しながら歩いていたサクラの目の前に、モッフィーが二匹現れた。

 片方は普通の大きさだが、もう片方は一回り大きい。


「お、今度は二匹だ。君たちで二十六匹目だね」


「キュイ!」


 サクラの言葉を待たずにモッフィーが体当たりを仕掛ける。


「当たらないよ……ってのわっ!?」

「キュー!」


 体当たりを難なく避けたサクラに、もう一匹のモッフィーが突撃する。

 視界外からの挟撃に思わずダメージを受けたサクラだったが、ステップを踏んで二匹の敵を目前にした。


「油断した……今度はやられない!」


「キュイ!」


 構えるサクラにモッフィーが再び突撃する。一匹目を難なく避けると、続いて二匹目が飛びかかってくる。二匹目を避けると今度は体勢を整えた一匹目が再び攻撃してきて、サクラには攻撃する機会がない!


「くっ、まるで並列二気筒(パラツイン)エンジンだね! これじゃあ埒が明かないよ! おりゃあ!」


 被弾を覚悟してパンチを放つ。拳は確かに敵の身体を打ったが、さすがに一撃で倒すことは出来なかった。

 そこにもう片方の敵が放った()()()()がサクラの腹に当たった!


「おうっ!」(蹴り!?)


 体勢を立て直しながらサクラはもう一度敵を見る。モッフィーに足はないはずだ。すなわち、これはモッフィーではない。

 サクラの考えは的中していた。一匹は『モッフィー Lv3』だが、もう一匹は『モフィロン Lv10』と表示されていた。

 モフィロンには兎のような足が生えており、モッフィーよりも一回り大きく強いようだ。


「どおりで強いと思った! でも負けないから!」

「キュー!」「キュキュイー!!」


 構えを取るサクラに敵の連続攻撃が迫る!

 ボクシングのジャブを避けるように動くが、これではさっきと変わりがない。


 しかし状況を変えたのは敵側だった。


「「キュキューイ!!」」


 二匹が同時に鳴いたかと思うと、モフィロンが跳び上がったモッフィーをサッカーボールのように蹴り出したのだ!

 バチン!という音とともにすごい速さになるモッフィー。目で追うことが出来ても身体が動かない!


「うへぇ!?」


 予想外の連携攻撃をサクラはまともに食らってしまう。HPバーが半分近く削れる。


(ちょっとヤバいかも……)


 ゲームを始めてから最初のピンチにサクラの顔色に焦りが見える。

 激突したモッフィーはというと、跳ねるようにモフィロンの足元へと戻って行った。


「またあの攻撃が来る……でもこれは逆にチャンスかも!」


 拳に力を入れて構えを作る。

 そして目を閉じて意識を集中させた。


「「キュキューイ!!」」


 再び連携攻撃の合図をした二匹。

 ぽよぽよと跳ねる音の間隔が次第に長くなっていく。そして……


 バチン!という打撃音とともにモッフィーが打ち出された!


 サクラは目を閉じたまま避けずに待った。否、避ける必要がない!


「でぇあああ!!!」


 まっすぐ前に正拳突きを繰り出す!

 モッフィーの柔らかい身体がサクラの拳に突き刺さる。サクラはこれを待っていた。モッフィーの攻撃は常に胴体を狙っていた。故に、着弾地点に拳を置いたのだ。


「キュイ~」


 情けない鳴き声を上げてモッフィーの身体が消滅する。


『レベルが上がりました』『1ガル手に入れました』


『スキル【カウンター・セブン】を習得しました』


「さあ、後は君だけだよ」


 新たな能力を通知するウィンドウを横目に、サクラはモフィロンに指を指した。


 一人と一匹の戦いが始まろうとしていた。









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