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バイク好き少女のVRMMO  作者: 東風 とうふ
第一章:始まりのA
18/30

15:バイク少女とリベンジ!

『ワールドチャット:【サクラ】が【デスオオカマキリLv30】を討伐しました!』


(サクラ、やったか!)


 サクラの勝利を示すチャットが流れる。一部のボスはこのようにして討伐報告が出る仕組みになっている。

 フーカはそれを横目で見ながら目の前の敵の攻撃を捌いた。


「当たれ!」

「キシャ!」


 鎌の連撃をかわしながらバックステップで距離を取りつつ、矢を撃つ。ゲームの仕様上、矢が尽きることはないのだが、与えるダメージと受けるダメージを考えれば長期戦になればなるほど不利になるのは明白だった。


「それなら連続でっ!!」

「シャッ!」


 サクラと合流する前にできる限りHPを削っておきたい。そう考えて連続で放った矢は、両鎌に阻まれて一つ、また一つと地面に落ちていった。


(やはり強くなっている……また何人かやられたのか!?)


 隻眼のデスオオカマキリはフーカが森を狩場にする前から存在していた。序盤のダンジョンが近いため、積極的に攻撃するような行動をとることはほぼなかったのだが、初心者プレイヤーたちが無闇に何回も挑んだせいでかなりAIが強化されていた。


(真っ向から勝負しても勝てないか……なら!)


「一つ、二つ!」

「シャッシャッ!」


 放たれた矢を打ち払いながらデスオオカマキリがフーカに近づく。そして攻撃範囲に入ったと見るや、大鎌を振るった。


「シャー!!」

「【加速(アクセル)】!」


 その瞬間、フーカは攻撃を回避せずに、むしろ敵の懐に踏み込んだ!


「この距離なら……!【パワーアロー】!」

「!!」


 至近距離から放たれる強撃が敵を襲う!慌てて鎌をクロスして防御するがもう遅い!!

 光を放ちながら弓から離れた矢は、鎌をかいくぐってデスオオカマキリの頭部に吸い込まれた。


「やったか!?」


「……」


 デスオオカマキリの動きが止まる。顔の前で鎌を構えたため、当たった場所が分からない。


「……キシャァ!!」

「嘘だろ!?」


 防御を解いた敵の口から咆哮とともに真っ二つになった矢がぽろりと落ちる。

 矢は刺さってなどいなかった。当たる瞬間に大顎で矢を噛んで止めたのである!


「くそっ!!【跳躍】!」

「キシャァァァァ!!」


 慌てて後ろに跳び上がったフーカに、敵はお返しと言わんばかりに鎌を振るう!

 浮き上がったボールを打つかのように鎌が当たった。


「ぐっ!」


 ガードしながら回避行動を取ったものの、鋭い鎌が防御に使った腕を切り裂いたようだ。少なくないダメージを負ったフーカが地面を滑る。

 デスオオカマキリは平然とした顔をしながらゆっくりとフーカに近づく。


「ちっ、骨折り損じゃねーか……ん?」


 ふと、次の攻撃手段を考えていたフーカの目に走る人影と小さな何かが映った。サクラと子オオカミだ!


「来たか!!」

「キシャァ……」


 援軍の到着に折れかけた心が立ち直る。しかも目の前の敵はサクラたちが来たことに気づいていない!

 フーカは奇襲を悟られぬようにデタラメに矢を射った!


「キッシャ!キッシャ!」

「……そうだ、お前の敵はここだ!」


 破れかぶれに攻撃しているように見せかける。ボクサーのように身体を左右に振って攻撃を避けるデスオオカマキリ。命中しそうな矢も、最低限の動きで振られる鎌に阻まれている。

 それでも惹き付ける。その場から一歩も動かずに。ギリギリまで。


「キシャァァァァァ!!」


 ついに目前に迫ったデスオオカマキリがトドメを刺すために鎌を上段に構える!

 だがフーカは不敵に笑ってみせた。


「おせーぞ」

「キシャ?」


――――敵の背後でサクラが跳んだ。


「でぇやぁぁぁぁぁぁ!!」

「!?」


 不意に後方に気配を感じて振り返ったデスオオカマキリだが、その視界はサクラの足の裏で覆われた。

 直後、強い衝撃と反転する世界。サクラ渾身の飛び蹴りが炸裂したのだった。


 四本の足が崩れ、二メートル近いカマキリの巨体がたまらず倒れた。


「ナイスキック!」

「フーカさんが注意を引いてくれたおかげです」


 膝を曲げて衝撃を和らげながら着地したサクラへ、フーカが称賛を送った。

 そして敵が転けている間にサクラが前に、フーカは後ろへとフォーメーションを組んだ。子オオカミ、ジロウはサクラの横に付いている。


「けっこうHP削れてますね」

「イヤミか? 何発も射たけど全然だ」

「さっきのより楽に倒せるかも」

「油断するなよ」


 軽く冗談を交えながら戦闘体勢に入った。デスオオカマキリも起き上がって鎌を上げて威嚇した。


「キシャァァァァァ!!」

「お怒りだぞ」

「面白くなってきた!」


 サクラが突撃する。と同時に後方からフーカが矢を二本放つ。

 前衛の両脇を抜けて飛翔した矢をデスオオカマキリがハエを叩くように打ち落とす。だがその後ろから飛んできたサクラの右拳が顔にクリーンヒットする!


「ギシャ!」

「まだまだぁ!!」


 怯んだ敵に連続パンチによるラッシュ、そのまま回し蹴りを食らわせる!


「私が格ゲーで鍛えたコンボはどうだぁ!」


 サクラのリアル友人、雪那で鍛えた技を披露する。雪那はこれのせいで何回か泣いたし、桜花に格ゲーを挑むことはなくなった。


「あいつやべーな……アクション俳優でも目指してんのか」


 フーカが引き気味に評する。

 一方、猛攻に晒されたデスオオカマキリは絶えきれず後ろに身を引いて顔の前に鎌を構えて防御姿勢を取った。


「……」

「退いた?」

「ワン!」


 デスオオカマキリは風に吹かれた草花のようにゆらゆらと、不気味なほど静かに揺れ始めた。


 しかし好機と見たのかジロウが噛みつきに行く!


「!! 待てサクラ! そいつを近づけさせるな!!」

「キシャァッ!!」


 刹那、瞬きより速く敵が動いた。フーカの攻撃を軽く避け、鎌を一気に広げ、体全体のバネを使ってジロウに飛びかかる!


「っ! 危ない!」


 だが、ジロウを守るためにサクラが間合いに飛び込んだ! デスオオカマキリの両鎌が避けようもないサクラに襲いかかる!


「くっ!?」


 大ダメージを覚悟したサクラだったが、そうはならなかった。その代わり、カマキリの頭が目の前にあった。慌てて払いのけようとした所で、やっと自分の両腕が鎌で抑え込まれていることに気がついた!


「な、なにこれ!?」

「サクラ!!」


 カマキリの捕食行動だ!

 鎌を用いて一瞬で獲物を拘束する、カマキリ本来の狩りである。それを理解した頃にはサクラはもうどうしようもなくなっていた。食い込んだ刃が確実にHPを減らす!


「ワン! ガブ!」


 主を助けようと脚に噛み付くが、硬い甲殻を持つ高レベルのデスオオカマキリは意にも返さない!


「やめて! 離してよ!」

「サクラ! 今助ける!!」

「キ!!」

「うわぁっ!」

「何っ!?」


 フーカが弓を引き絞って狙いを付けた瞬間、デスオオカマキリがサクラを持ち上げてフーカの射線上に構えた。なんとサクラを生きる盾にしたのだ!

 角度を変えて射ようとするが、敵も合わせて移動する!


「この!このっ!」

「どうすれば!?」

「ガフッ!!」


 一転攻勢。サクラ側に攻撃の手段がなくなってしまった。

 デスオオカマキリは勝ちを確信したかのように大顎をカチカチと鳴らし始めた。こんな口で頭を齧られればひとたまりもないだろう。


「ギギギギギ!!」

「少しでも近づいたら蹴ってやる!」


 頭を小刻みに動かしながらサクラを観察するデスオオカマキリ。最初に始末すると決めたようだ。


「キシャッ!キシャッ!」

「わわっ!」


 頭を噛もうと猛スピードで何度も顎が迫る! 紙一重で避けるが、段々精度が高まってきた!

 サクラは足を曲げて顎での攻撃に備えた。もうカウンターを狙う。それしかない! しかし、そこであることを思いついた。


「……待てよ、いいこと思いついた。フーカさん! 私の背中を撃って!」

「何言ってるんだ!」

「いいから! 早く!」

「キシャァァ」

「くそっ! 【カウンター・セブン】!」

「キッ!!」


 フーカに自分を攻撃するように願う!

 噛みつこうとしていたデスオオカマキリはサクラのカウンターを警戒して攻撃をやめた。


「早く! 7()()()()()!!」

「! わかった!――っ!!」


 要望通り速攻で矢を射るフーカ。飛び立った矢はまっすぐにサクラへと向かう!

 するとサクラの身体に稲妻が帯びた! フーカの矢を使ってスキルを発動させたのだ!


「離せぇぇぇぇ!!」

「ギギッ!!?」


 強化された脚力で大鎌を蹴り上げた。デスオオカマキリの右鎌が限界を迎えて砕け散る! と同時にサクラの拘束が解けた。


「【パワーアロー】!」

「ギィィイイイイイ!!」


 その機を狙ってフーカが矢を射る! 矢は残った方の目に深々と突き刺さる!


「おらぁっ!!」

「ギシャァッ」


 着地したサクラも鉄の拳で殴りつける! 断末魔を上げてデスオオカマキリは無様に地面に転がって動かなくなった。勢いで飛ばされたジロウも噛み付くのをやめたようだ。



「……勝った、のかな?」

「いや、死体が消えない。死んだふりだろう。オレが射ってみよう」


 フーカが矢をつがえて敵を狙う。だが、


「待ってください」

「ん?」

「無理なお願いなんですが……私がやっていいですか?」

「なんでだ?」

「その、最後にどっちの反射神経が上か、試してみたいんです。初めて負けた相手ですから。どうしても勝ちたい」


 サクラの口から突拍子もない願いが出された。それはフーカを割と悩ませるものだった。ここで手柄を譲ってもいいのか? 素材の分配は? もしサクラが負ければ挽回できるのか? いろいろ考えたが、すぐに答えが出た。


「……いいよ。やっておいで」

「ありがとうございます」


 自分の利益なんてどうでもよく思えた。そもそもサクラがいなければ確実に負けていたのだ。こいつを倒したのも実質サクラだ。そう思ってフーカは応えた。


 サクラがゆっくりとデスオオカマキリに近づく。フーカは手に汗握りながらその様子を見ていた。


「……」


「……ふぅー」


 互いが互いの間合いに入る。勝負は一瞬で決まるだろう。サクラが全身の力を抜いた。




「…………キシャー!」


「ハァッ!!」



――――――――――



――――――



――




『レベルがアップしました』『1200ガルを手に入れました』


『スキル【蟷螂斧脚(とうろうふきゃく)】を習得しました』




『ワールドチャット:【サクラ】が【デスオオカマキリLv64】を討伐しました!』









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― 新着の感想 ―
[一言] 蟷螂拳ならぬ蟷螂斧脚?サ、サクラお前栄光あるバッタライダーではなくカマキリライダーだったのか?Σ( ̄ロ ̄lll) これからこんな感じで技増えるのか?(ー_ー;)カッコイイじゃないか( ´∀…
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