14:バイク少女と強敵戦
「いいか、傷のあるほう……隻眼のほうはオレが惹き付ける。サクラはその間にもう片方を。ヤツのほうがレベルが低い。お前なら倒せるはずだ」
フーカが作戦を伝える。流れとしては、フーカが囮になっている間にサクラが若い方のデスオオカマキリを倒す。そして倒し次第二人で隻眼のほうを仕留めるといったものだ。隻眼のほうはレベルが62あるが、二人なら勝機は十分にあると踏んでのことだ。
「……わかりました。でもあんまり無茶しないでくださいね」
「それはお互い様だ。……ほら、これをやる」
フーカが高級そうな瓶をサクラに投げ渡した。
「なんですかこれ?」
「ハイポーションだ。やばくなったら迷わず逃げて回復しろ」
「ありがとうございます。この子はどうしましょうか?」
サクラが足元で唸り声を上げる子オオカミをちらりと見て言う。
死ぬと一日出てこれなくなるので、できるだけ戦闘をさせたくないのだろう。
「どっかやっとけ……と言いたいところだが、そいつは戦う気満々みたいだな。好きにさせてやれ」
「ワン!」
「わかりました。君もピンチになったら逃げていいからね」
「わふ!」
「よし、じゃあ、行こうか!」
「了解!」
フーカが矢を引き絞り、サクラが地面を蹴る。それに応じて二匹のデスオオカマキリも動き出した。
「食らえ!【跳躍】& 回し蹴り!」
「ギシャ!」
サクラが若いカマキリに飛びかかって空中で回し蹴りを当てる。デスオオカマキリは突然跳び上がった相手に反応できず、頭にまともに攻撃を食らってグラついた。
「キシャァァァァァ!!」
仲間に攻撃されたことに怒ったのか、隻眼のカマキリが鎌を振り上げてサクラへと迫る!が、
「【パワーアロー】!!」
「ギギギ!!」
フーカが放った矢がデスオオカマキリを襲う。
「お前の相手はオレだ。【加速】!」
「キッシャァァァァァ!!」
自分の片目を奪った相手がよっぽど憎かったのか、まんまと引き離すことが出来た。
「キシャッ!キシャッ!」
「ほっ! はっ!!」
一方サクラは、カマキリの攻撃を回避しながら隙を伺っていた。左右から繰り出される両鎌は不規則なリズムをしており、カウンターを狙うのが難しい。
「せい!!」
「ギッ」
時々攻撃をかいくぐってジャブを当てるが、有効打にはならない。
それどころか相手の攻撃が身体を掠めて、少しずつHPが減る。
「くっ! このままじゃダメだ。さっきみたいに攻撃を弾き返せばいけるかな!?」
「キシャ!」
「おりゃあ!」
左から放たれた攻撃にパンチで応じる。鎌とガントレットが火花を散らしながらお互いを弾いた!
「今だっ! っておわ!?」
「キッシャ!」
サクラはチャンスが来たと思って拳を振ったが、敵も同じことを思ったようで、反対の鎌で攻撃してきたのだ。
サクラの右拳が敵の身体に、敵の左鎌がサクラの右肩にめり込む。
「ぐぅぅ……!!」
「ギッギッ……!!」
敵が右鎌で攻撃しようとしてきたので左手で抑え込む。そしてそのままお互いを睨みつけながら膠着状態へと陥ってしまった。サクラのHPが毒を受けたようにじわじわと減っていく。
「ワン! ガブッ!」
「ギッ!?」
「ナイス!」
だが、戦っているのはサクラだけではない。子オオカミがデスオオカマキリの脚に噛み付いた!
敵は不意打ちに驚いて、食い込ませた鎌の力が緩む。サクラがその機を逃すはずはなかった。
「よっと!」
「ギ?……ギッギッ!!」
サクラはその場で軽くジャンプして右鎌に全身を使って組み付く。敵は引き剥がそうとして空いた左鎌を使ったが、根本しか当たらず、サクラにダメージを与えられない!
「5…4…」
「キシャッ!」
敵はサクラを振り切ろうと腕をブンブン振るうが、びくともしない。ついには顎を使ってサクラに噛み付いたが、それでもサクラは離れずに何かを待っていた。
「ぐっ! 3…2…1…【跳躍】!」
「ギギギギ!」
両脚にパワーが溜まり、縮んだバネのように一気に開放される。待っていたのはスキルの再使用可能時間だった。
敵を足場にした跳躍でサクラが斜めに跳んだ。――デスオオカマキリの右鎌ごと!!
「ギシャァァァァァ!?」
片腕を千切られ、大幅にHPを削られた敵は悲鳴を上げて大暴れし始めた。脚に噛み付いていた子オオカミもたまらず投げ出される。
地面に線を描きながら少し離れて着地したサクラは、もぎ取った鎌を捨て、敵に背中を向けて立ち上がった。
「おいで……ジロウ」
「……ワフ?」
サクラは、なおも立ち向かおうとする子オオカミに呼びかける。初めて名前を呼ばれて困惑した子オオカミだったが、マスターであるサクラが自分を見て言ったので素直に従った。
「君の名前、決めたよ。ジロウだ」
「ワン!」
「ギギギ、キシャァァァァ!」
痛みにのたうち回っていたデスオオカマキリがサクラを睨む。
それでもサクラは敵に背を向けたまま、ジロウに少し離れるように指示をした。
「ジロウ、【狼吠索敵】」
「! ワォォォォン!!」
ジロウが遠吠えする。白い波紋が地面を擦って敵に当たる。デスオオカマキリが閉じていた翅を開いて飛翔しようとする様子がサクラにも感じられた。
敵の変化を目の当たりにしたジロウがソワソワし始めたが、目で制する。サクラはただ立っているだけだ。
「キシャァァァァァッッ!!」
怒りに我を忘れたデスオオカマキリは必殺の一撃を放とうとしていた。
空へと飛び立ち、そのまま真っすぐ強襲する!
大木をも切り裂く一閃がサクラに届こうとしていた。だが、まだ動かない!
「キッシャァァァァァァァァ!!!」
「1…2…3…【カウンター・セブン】……! ハァッ!!」
敵がサクラを両断しようと、鎌を振ろうとしたその刹那、稲妻を纏った神速の後ろ回し蹴りがデスオオカマキリの細い首をへし折った!
「!!!???」
己に何が起きたか理解しきれないカマキリの身体が地面にめり込む!
サクラはキックの勢いで一回転してジロウの方へと向いた。
「ギ……ギギギ……」
「…………」
相手を倒したかなど確認する必要はない。こちらも必殺の一撃だ。
デスオオカマキリが爆発して光の粒子を散らす。
『ワールドチャット:【サクラ】が【デスオオカマキリLv30】を討伐しました!』
「……ふぅー。勝ったね」
「ワン!!」
構えを解いたサクラを見てジロウが尻尾を振って喜ぶ。
だが、まだ戦いは終わっていない。
「フーカさんの方に急ごう!」
隻眼のデスオオカマキリと一人で戦っているであろうフーカの元へと走っていった。