13:バイク少女とオオカミと
誤字報告してくださった方、ありがとうございます!
すごい簡単な間違いだったのでめちゃくちゃ顔が赤くなりましたw
しかし、間違ってるところには「ここ間違ってるよ!」って突っ込んでいただければ私としても嬉しい限りです!……ちょっと恥ずかしいですが
本話は12話の裏側、サクラが何をしてたかという話です。
よって前話ラストより少しだけ時間が遡ります。
「なんだろう?――――っ!!」
サクラの目の前の茂みが揺れ、灰色の毛玉みたいなのが出てきた。
それを見た瞬間、サクラの目が見開かれる。
「子犬だ!! 可愛い!!」
出てきたのは子オオカミだった。辺りを警戒しながらフラフラと歩いてきたが、サクラに気づくと「ワン」と一吠えしてから唸り声を上げ始めた。
「うわ、怒ってる。よーし、よーし、こわくないですよー」
「ワン!! ワン!! グルルル」
「うーん、どうにかして近づけないかな?……骨、餌……そうだ!肉食べる?」
「わふ?」
「おいでー、美味しいお肉だよー」
「ワン!」
インベントリから取り出した肉をチラつかせながら子オオカミに近づく。すると逆に子オオカミのほうが尻尾を振ってサクラに近寄ってきた。
腰を落として生肉を目の前にぶら下げると、子オオカミは肉に飛びかかってガツガツと食べ始めた。
「へっへっへ、ちょろいワンちゃんだぜ……」
「ガフ! ガフ!」
「おー、おー、まだあるからねー」
「ワン!!……ガフッ!ガフッ!」
すごい速さで食べ終えた子オオカミが次を催促してきたので、インベントリからまた肉を取り出して与えてやった。
あまりにも無警戒なのでサクラは籠手を外して子オオカミの身体を撫でてみた。すると天日干しした新品の毛布みたいなフワッフワな感触が手のひらに返ってきた。
「うわぁ……モッフモフだぁ……あ~飼いたいなぁ、犬なんてウチじゃ飼えなかったもんなぁ」
「ヘッヘッヘッ……ワン!」
「あら、もう食べたの? 早いなぁ」
だらしない顔になりながらモフモフの手触り感を楽しんでいたサクラだが、子オオカミの再三の要求に応えてまた肉を与えた。すると、
『オオカミと契約しました!』
「おろ?」
アナウンスと共にメーッセージが表示される。どうやら餌を与えたことで子オオカミが懐いてテイム出来たようだ。
「君、オオカミだったの!?」
「ワン!!」
『【契約の首飾り】を入手しました』
「なんだこれ」
サクラが子犬だと思っていた相手がオオカミだったことに驚いていると、突如として目の前に首飾りが現れた。サクラがそれに触れると説明が書かれたパネルが表示される。
【契約の首飾り】
モンスターと契約した証。装備すると契約モンスターの力を借りることができる。
モンスターの収納、召喚もこのアイテムで行う。
モンスターが死亡した場合、自動的に収納されて24時間召喚不可になる。
「死んだら消えるわけじゃないんだね。よかったよかった」
サクラは安堵しながら首飾りを装備する。消えてしまう仕様ならずっと格納してしまっていただろう。
そんなことを考えていると今度は別のアナウンスと説明パネルが出てきた。
『モンスタースキル【狼吠索敵】を使用できるようになりました』
【狼吠索敵】
契約モンスター[オオカミ]召喚中のみ使用可。
周囲のモンスター、プレイヤー、NPCを探知することができる。
「へぇ、便利じゃん早速使ってみよ。【狼吠索敵】!」
「ワオォォォン!」
サクラがスキルを発動させる。すると遠吠えした子オオカミを中心に白い円が波紋のように地面を広がっていき、周囲にいたモンスターをなぞっていく。
「すごい! 隠れてるモンスターまで丸見えだ!」
「ワフ!」
子オオカミがどうだ!と言ったように鳴く。
サクラの視界には輪郭を白く光らせたモンスターたちが、木や岩といった障害物越しに映っていた。
「ん? あれって……」
その中に一つだけ人影があった。弓を持ってカマキリ型モンスターに対峙しているフードを被った人物だ。
「フーカさん!?」
その姿はまさしくフーカだった。
フーカの影はカマキリに善戦しているようだが、そこにもう一体のカマキリが現れていた。
そして、逃げようとしたフーカに大鎌が迫り……
「――っ!!」
サクラは急いで駆け出した。すでにスキルの効果は切れて影は無くなっていたが、方角は覚えている。
「フーカさんがピンチだ!」
「ワン!!」
走るサクラの横を子オオカミもしっかり付いてきた。木や石、背の高い草といった障害物をうまく避けながら全力疾走する!
そして草むらを超えて開けた所に出た瞬間、フーカと二体のデスオオカマキリの姿がはっきりと確認できた。
二匹に挟み撃ちにされたフーカは地面に伏しており、敵は追撃の一手を打とうとしているところだった。
「フーカさん!!……【跳躍】!!」
近くにあった木にドロップキックの要領で両足を付けてスキルを発動する。
するとサクラの身体は、反動で矢のように真横に跳躍した!
「止まれっ!!」
鉄の籠手で地面をひっかきながら減速してカマキリとフーカの間に割り込む。
そしてデスオオカマキリが振り降ろした大鎌に回し蹴りを食らわせた!
ガキン!という金属音とともに、軌道の変わった大鎌が地面に突き刺さった。
「……お祖父ちゃんが言ってました。『約束と、大切な人は何が何でも守らなきゃいけない』と」
「サクラ……!」
「フーカさん。約束したのに遅くなってすみません。ちょっと寄り道してました」
「……」
「ワン!」
「お前、さっきの……! 助けを呼んで来たとでも言うのか!?」
「知ってるんですか?」
「さっき助けた犬だ」
「ハッハッ」
サクラの登場に呆気に取られていたフーカだったが、子オオカミを見て返事を返した。
一方、いきなり飛んできた乱入者に驚いたのか、デスオオカマキリは鈍重そうな見た目に似合わず軽々とバックジャンプを披露して二人から距離を離した。
「こいつら二匹いたんですね」
「ああ、さすがに二人でも勝てるかどうか」
「なら私が囮になるのでその間に……」
「何を言う。私も戦う」
「大丈夫ですか?」
「ああ」
フーカはそう言うと立ち上がって高そうな瓶に入った回復ポーションを一気に飲み干した。身体がエフェクトに包まれてHPゲージが満タンになる。
「キシャァァァァァ!!」
「……さて、やりますか」
「ああ、逆襲開始だ!」
「ワン!!」
各々が戦闘の体勢を取る。鎌を上げる者、拳を構える者、弓に矢を番える者、牙を剥く者。その誰もが闘志を燃やしている。
戦いの火蓋が切られた。