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バイク好き少女のVRMMO  作者: 東風 とうふ
第一章:始まりのA
15/30

12:『憧れ』の残り火

そういえばTwitterやってます。

投稿報告とかはそっちでしてるので、よかったらどうぞ






「何、やってんだろうな……」


 オレは『それ』を目前にして未だに躊躇っていることに困惑した。

 ここはアリストレアの一角、オレのマイハウス。サクラより前にダンジョンから出て、すぐに転移装置でやってきた。


 滅多に帰ってこないマイハウスは半ば物置のようになっており、ボックスから溢れた素材や資材が乱雑に散らばっている。だが、『それ』の周りだけは拒絶されたかのように空白があり、異質な雰囲気を醸し出していた。


(オレの夢、あいつなら叶えられるって納得したじゃないか)


 迷う心を押さえつけて側に立つ。『それ』は軽自動車より少し小さい図体をしていて、被った大きな布からはピカピカに磨き上げられた銀色のパイプが煙草みたいにはみ出ていた。

 何日ぶりだろうか、これを見るといつも懐かしい気分に襲われる。


「よお、久しぶりだな。元気にしていたか? まだ動くよな……」

「……」


 旧友に会ったときのように気安く挨拶するが、返事などない。それでいい。返事などされてたまるか。


「……あのな、オレはお前を手放すことにした」

「……」


 物言わぬ『それ』に触れながら語りかけた。布越しに硬い感触が手に伝わる。もちろん返事はない。これは独り言だ。自分を納得させるための。


「お前も、こんな所に置物にされるより疾走(はし)りたいだろ? ……いつまでもウジウジしてちゃ駄目なんだ」


 オレは燃えカスだ。未練がましく残り火を燻ぶらせる醜い真っ白な灰だ。火は継がねば消えてしまう。

 だから次の篝火(かがりび)を選んだ。


「インベントリ、オープン」


 虚空に手を置きながらそう言った。目の前に青いパネルが表示される。

 オレは『それ』をアイテム化すると、インベントリの中に放り込んだ。


 『それ』が光になってパネルへと吸い込まれる。覆い被せてあった布が、内包物を失ってパサリと地面に落ちた。


「これでお別れだな……()()()


 誰もいない部屋にそう言うと、オレはマイハウスから立ち去った。


 目指すは野営地だ。待たせてるだろうか、急がないと。




◇◆◇◆◇◆◇◆




「遅いなぁ」


 サクラは野営地でフーカを待っていた。ダンジョンから出てからというもの、美味しそうなアイスキャンディを見つけて買った以外は寄り道などしていないのだが、それでもフーカより先に到着したようだ。


『そのお金さ、装備とか、自分の強化に使ってみないか?』

『お金を使わずにバイクが手に入る方法がある』

『野営地で待ってる。そこで全部教えるよ』


 フーカの言葉が脳内で反響していた。


(フーカさんは何が言いたかったんだろう? 全部教えるってどういうことなんだ?)


 サクラは言葉の意味を考えていた。フーカは確実に何かを隠している。でもそれを暴いてしまっていいのか分からなかった。


(それにしてもフーカさん、真剣な顔してた。それにまた恩が増えちゃったな)


 返せた恩はごくごく少ない。それにフーカはお礼としてお金は受け取らない。だとしたら何に喜ぶのだろう?

 髪飾りみたいに可愛いもの?今から手に入れるのは難しいだろう。


(うーん、アイスキャンディだけじゃ少ないよね……)


 あまりよくない頭で必死に考える。フーカと出会ってから焚き火をして……と思い出している内に一つだけ思い当たった。


「……肉だ。フーカさん肉食べてた」


 脳内にあるのは肉を頬張るエルフの横顔。

 一緒にご飯でも食べながら話したらいいんじゃないか。そうサクラは考えた。

 それだけじゃない。モンスターを倒せば素材も手に入るし、レベルも上がる。いいことづくしだ。


「よし、じゃあ早速モンスター狩りだ!」


 サクラは再び森の中へと駆けていった。


 そしてモンスターを蹴り倒していった。蹴って蹴ってまた蹴って、とにかく蹴り倒す。


 目についたモンスターは片っ端から蹴り倒していった。


 そしてレベルが40に近づいたころ、インベントリが素材でいっぱいになったのに気づいてやっと帰路に着いた。


「やばい、時間かけすぎたかも……」


 フーカを待たせてしまっているだろうか。連絡手段があればよかったが、サクラとフーカはフレンド登録していなかった。


「……ん?」


 野営地にたどり着く少し前で、サクラの足が止まる。

 前方の草むらが揺れたような気がした。


「なんだろう?――――っ!!」


 草むらから姿を表した者を見た瞬間。サクラは目を見開いた。





◇◆◇◆◇◆◇◆





「……あいつ遅いな」


 野営地に着いたが、サクラはまだ来ていない。寄り道でもしてるのだろうか、それとも……


「まさか迷子になってんじゃ……迎えに行くか」


 初めてサクラに会った時を思い出す。デスオオカマキリに襲われて瀕死だった少女。サクラは予想以上に強かったとは言え、またデスオオカマキリに会えば今度こそ負けてしまうだろう。

 野営地からラクネアまでの道を逆走する。


「ただの勘違いならいいんだが」

「キシャー!!」

「!!」


 聞き慣れた威嚇音が耳に届いた。デスオオカマキリだ!

 急いで足を止めて、鳴き声のしたほうへ走った。草むらを超えたむこうだ、間に合ってくれ!


「サクラ! 大丈夫か!?……あれ」

「ワン! ワン!!」


 デスオオカマキリに襲われているのはサクラではなかった。灰色の毛をした子オオカミだ。このゲームでは度々こういったモンスター同士の争いが起こる。当然、弱いものは死ぬ。この場合はオオカミのほうだ。


「グルルル……ワン!」

「キシャァァァァァ!!」


 子オオカミの威嚇に対してデスオオカマキリは敵意を表した!

 大きな鎌を振り上げて攻撃の体勢に入る!


「っ! 【パワーアロー】!!」


 それを見た瞬間、身体が勝手に動いていた。

 弓に矢をつがえ、スキルを発動しながら放つ。空を切り裂きながら飛翔した矢はカマキリに命中した。

 助けるつもりなどなかったが、どうしたことだろう。まあ、デスオオカマキリ一匹ならなんとか相手にできる。それにこんなのが野営地の周りをうろつくのは気が食わない。

 オレはデスオオカマキリを倒すことにした。


「ギシャァァァ!?」

「こっちだ!!」

「キシャァァァァァ!!」


 デスオオカマキリを挑発しながら走る。オオカミは無事に逃げたようだ。

 敵も邪魔された上、獲物に逃げられたのに怒ったのか、狙いをこちらに変えてきた。いいぞ。このまま跳躍で避けつつ攻撃していれば勝てる。だが、順調すぎるような……いや、集中だ。


「キシャッ!!」

「【跳躍】!!」


 デスオオカマキリの攻撃を避けるようにして跳躍する。その瞬間、違和感に気がついた。

 目に傷がない。確かに矢を当てたはずなのに。ユニークモンスターの部位破壊は消えないはずだ!


「キシャァァァァァ!!!」


 予想は正しかった。

 目の前にいる個体には『デスオオカマキリ Lv30』の文字が。

 そして後ろからも聞き慣れた咆哮が聞こえた。


「お前ら…………二体いたのか……!!」


 一匹でも苦戦するデスオオカマキリが後ろにもいた。挟み撃ちだ。それにこっちは先日付けた傷持ちだ。オレを覚えているのか、即時に戦闘体勢に入った。


「キシャァァァ……!」

「キシャ、キシャ」


「……」


 流石に高レベルボスモンスター二体では勝ち目がない。

 即刻逃げるべきだ。今は特にアイテム喪失は避けなければならない。


「【加速(アクセル)】!」


 スキルを使って一気に撒こうとした。だが、


「キシャァァァァァ」

「なにっ!?」


 それを読んでいたのか、傷持ちがオレの進む先から大鎌で薙いだ!


「ぐわぁぁぁ!!」


 鎌が身体に食い込む。オレはHPをガリガリと削られながら吹き飛ばされて地面を転がった。


 だが、それだけでは終わらない。


「ぐぅぅぅ……」

「キシャァ……」


 起き上がろうとしたところにさっきの若いデスオオカマキリがいたから。


 すぐに矢を放って応戦するが、


「かはっ!?」


 鎌で地面ごと抉られる。絶叫マシンに乗ったみたいに視点が激しく乱れる。

 低く設定されているゲームでとはいえ、痛覚は存在しているし、呼吸も乱れる。心臓は早鐘を打っていた。


「こんなとこで、死ぬわけにはいかねぇんだ……」


 ゲームの中で死んだとして、実際に死ぬわけでもない。いつもならこんなしぶとく戦う必要なんてない。

 だが、今は生きなくちゃならない。失いたくない物を持っているから。

 不幸にも、このゲームはログアウトしてからもしばらく当たり判定が残ってしまう。だから、そうやって逃げることも出来ない。戦わねば。


「キシャー!」

「ふっ!!」

「ギッ」

「ぐはっ!?」


 攻撃を避けながら矢を放つ。だが四つの大鎌が邪魔をする。オレの身体はまたあっけなく地面に転がされた。


 傷持ちのデスオオカマキリがジリジリと近づく。もうダメかもしれない。HPも残り少ない。


「はぁ、はぁ……ごめん、サクラ。約束、守れないかも」


 鎌が振り下ろされる。オレにはもう目をつぶって願うことしかできなかった。

 どうか、『あれ』だけは失いませんように!


「――っ!!」




 ガキン、という金属音が響く。


 だが、鎌がオレを貫くことはなかった。目の前にいる人物が鎌を脚で弾いたのだ。


「お祖父ちゃんが言ってました」


 見惚れるような薄紅色の髪。初心者そのものな服装。そして腕を覆う鋼鉄の籠手(ガントレット)


「『約束と、大切に思ってる人は何が何でも守らなきゃいけない』と」


 サクラが、そこにいた。









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― 新着の感想 ―
[一言] 悲しいよなそりゃ悲しいさ( -д-)何だかんだで自分の身を預けたマシンさ、大切にしまって置くのが持ち主の勤めさと言うがこのまま眠り続けるよりまた走らせてやるのも持ち主(相棒)としての義務と俺…
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