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バイク好き少女のVRMMO  作者: 東風 とうふ
第一章:始まりのA
14/30

11:バイク少女とダンジョン攻略

 アリの巣のように入り組んだ樹洞。その闇の中に六つの目を光らせる捕食者(モンスター)がいた。天井に張り付いたクモ型モンスター『トラップスパイダー』だ。

 彼はこのゲームが生まれたその日から存在し今日に至るまで、眼下を通る数多の新人プレイヤーたちを屠ってきた実績ある罠モンスター、いわゆる初見殺しだ。


 今日の哀れな犠牲者は女プレイヤー二人、ピンク髪の籠手使いとフードを被った弓使いだ。不用心にもぺちゃくちゃと、まるでピクニックにでも来たかのようにおしゃべりしながら歩いてきた。

 トラップスパイダーはじっと息を潜めて獲物が襲撃地点(トラップ)へと近づいていくのを待つ。あと十歩…あと五歩…まだだ。


 あと三歩。この辺モンスター出ませんねー、なんて喋っている。

 あと二歩。フードの弓使いが足を止める。

 あと一歩。だがピンク頭は気づかない。今だっ!!


「シャー!!」

「!! でやぁああああ!!」

「ギュピー!?」


 トラップスパイダーが降下した瞬間、サクラの目がギョロリと動いてそちらを向いた。と同時に身体が回転してオーバーヘッドキックが放たれる。

 太い胴を蹴り抜かれたトラップスパイダーはそのまま壁に激突して光になって消えた。


「ちっ、なんだ引っかからなかったか」

「びっくりした~知ってたら教えてくださいよ」

「お前知らずにあんな攻撃したのか!? すげぇ反射神経だな!!」

「ああ、視界の端になんか映ったので」

「ええ……」


 サクラは襲い来るモンスターすべてを無傷で倒していた。バカ正直に突っ込んでくるものばかりだったのでカウンター主体のサクラにとっては敵ではなかった。

 フーカはというと、敵が多いところ以外は戦闘に参加しなかった。曰く、オレはただの付添いだから、だそうで。


「足のある兎さんのがよっぽど強かったですね」

「足のある兎さん…? モフィロンか。うん、まあ、最初のダンジョンだしな」

「そういえば、フーカさんがやってた、あの跳ぶスキル。どうやったら手に入るんですか?」


 サクラは、前々から気になっていたことを口に出した。


「ん、【跳躍】か? 初期から取れるスキルの一つだぞ」

「どうやるんです?」

「メニューからスキルのところだ」

「【メニューオープン】……あ、ほんとだ」


 サクラがメニューを開いて【スキル】と書かれた欄をタッチすると、スキル名が書かれた樹形図のようなものが出現する。その中の一番左端に【跳躍】とあるのを見つけるや否や、さっそく取得した。


『スキル【跳躍】を習得しました』


「お、早速取ったのか。跳躍はいいぞ、移動にも逃走にも攻撃の始点にも使える。それに」

「はい! ちょっと使ってみますね【跳躍】!」


 フーカの言葉を最後まで聞かずにサクラがスキル名を唱えた。その脚に赤っぽいオーラが出現する。

 ちなみに、スキルを発動するには名前を言うだけでなくスキルを発動しようという意思が必要で、ただ言葉に出すだけでは発動しないようになっていた。


「足があるっていいよなぁ……ってこんなとこで使うんじゃねぇ!」

「え……? ふごっ!?」


 フーカの警告も虚しく、サクラの身体が2、3メートルほど跳び上がってそのまま天井に激突した。


「言わんこっちゃない」

「いたた……」


 このダンジョンでの初ダメージを受けるサクラ。狭い場所ではこういうことが割とあるようだった。





◇◆◇◆◇◆◇◆





「なんですかこれ?」


 サクラたちは敵を蹴散らしながら、大蜘蛛の樹洞ラクネアの最深部へとたどり着いた。そして目の前には大きな石造りの扉が佇んでいた。


「ボス部屋だよ」


 フーカがそう言いながら近づくと、石の扉が独りでに音を立てて開いた。


「さあ、行って来い」

「フーカさんは付いてきてくれないんですか?」

「ああ、オレが行くとボスが強化されるからな。一人で行け」

「わかりました」

「うむ。ただ、ボスは多少強いからな。今までみたいにいかないからがんばれよ」

「……覚悟します」


 サクラがボス部屋へと足を踏み入れる。石の扉は二人を隔てて閉まった。





「暗いなぁ」


 ボス部屋は体育館ほどの広さになっており、隅の方にまばらに生えたキノコだけが緑の光を怪しく放っていた。


「ボス、どこにいるんだろ」


 周囲を警戒しながら部屋の奥まで進む。だが、ボスはおろか、蜘蛛の子一匹とてその姿はなかった。


「誰もいない……?」


「グモハハハ!!」


「!?」


 突如、独特な笑い声が部屋の中に響く。サクラはすぐに振り返ったが、後ろは誰もいない空間が広がっているだけだ。


「グモハッハ……ここだ」

「上か! 誰だお前は!?」


 サクラが声に導かれて上へと目を向けると、そこには蜘蛛をかたどったような頭の怪人が天井に逆さまになって立っていた。


「クモ男……!?」

「グモハハハ! 吾輩はゴーマクネア・バ。この樹洞ラクネアの主である!」


 甲殻に覆われた腕を組んで自己紹介するクモ男こと、ゴーマクネア。


「バ……? 何か分かりませんが、とりあえずボスってこと?」

「グモハハハ、左様。そして『バ』は我が一族を表す音だ」

「なるほど名字……あと、気になってたんだけどその笑い方は無理があると思います!」

「フハ…グモハハハ! 我が館を荒らすだけでなく我輩をも愚弄するか冒険者よ。その代償は高いぞ?」


 サクラのツッコミを挑戦として受け取るゴーマクネア。もはや戦闘は避けられないようだ。ゴーマクネアの六つある目が赤く光る。


「望む所です、『バ』さん! バイク購入資金の足しにしてやる……!」

「よい闘志だ、だがどこまで持つかな……!?」


 互いに戦闘態勢に入る。サクラは緊張しながらファイティングポーズをとった。

 視界の下の方に敵の名前とHPバーが表示される!



[BOSS]『(うつろ)の大蜘蛛 ゴーマクネア・バ Lv10』



「ゆくぞ冒険者! まずは小手調べだ!!」


 ゴーマクネアは手から糸を出して天井へ着けると、ターザンのようにぶら下がって突っ込んできた!


「来い! こっちも本気で……【カウンター・セブン】!!」


 サクラも最初からスキルを発動する。稲妻が体中をほとばしる!!


「うおおおおおおおおお!!」

「おりゃあっ!!」

「グワーッ!!」


 ……が、ただ突っ込んで来たせいでサクラの回し蹴りをまともに受けて吹き飛び、壁に突き刺さってそのまま死んだ。何も言わなくなったクモ男の身体が光の粒子となって虚空へと消えていく。




「あれ?」


『大蜘蛛の樹洞ラクネアをクリアしました!』

『レベルが上がりました!』『ダンジョンクリア報酬を入手しました』


 明るいファンファーレとともにボス部屋が明るくなり、入り口の石の扉が開く。その奥には暇そうに地面を弄るフーカの姿があった。


「ん? あれ、もう終わったのか!?」

「ええ、みたいですね」

「はえーな!?」

「ボスめちゃくちゃ弱かったです。カマキリさんどころか兎さん以下でした」

「……お前今レベルいくつだ?」

「えーっと、24ですね」

「……はー、そりゃそうなるか。初期装備だからもっと低いと思ってたわ……まあいいや。それより見ろ、その宝箱を」


 しまった。と言うように額に手を当てるフーカ。だが、これ以上深く考えるのはやめたようで、部屋の真ん中に出現した二つの宝箱を指差した。


「これは?」

「報酬だよ。片方は賞金。もう片方は装備品だ」

「開けていいですか?」

「もちろん」


 サクラはわざわざ許可を得て宝箱を開けた。ガチャっと軽快な音を立てて中から光が漏れる。


『2000ガルを手に入れました』『鉄のガントレットを入手しました』


「2000ガルも!? しかも新しいガントレットまで……」

「ああ、そうだ。これがダンジョン攻略の旨味だ」

「すごい! 300回やったらバイク買えますよ!!」


 サクラは予想外の金額に驚愕した。おそらく300回周回も本気だろう。

 だが、横にいるフーカは妙に落ち着いていた。


「……なあ、ダンジョンは楽しかったか?」

「ええ、まあ」

「そのお金さ、装備とか、自分の強化に使ってみないか?」

「ええ?」


 フーカの突然の提案にサクラが困惑する。当然だ。ダンジョンに入る前にお金について叱責されたばかりなのだから。


「普通はみんなそうするんだ。このゲームではな。バイクなんかオマケなんだ」

「私はバイクに乗りに来たんですよ?」

「もしもなんだがな……お金を使わずにバイクが手に入る方法がある、と言ったらどうする?」

「……なんで教えてくれなかったのか尋ねます。犯罪とかじゃないですよね?」

「犯罪じゃない。……ただ教えるのをためらっただけだ」

「どうすればいいんですか?」

「……」


 フーカは無言でサクラの横を通り過ぎて、部屋の最奥へと歩いた。そこには人間ほどの大きさのクリスタルが置いてあり、フーカがそれに触れる。どうやらこれは転送装置のようだ。


「野営地で待ってる。そこで全部教えるよ」


 そう言うとフーカの姿が光に包まれて消えた。


(どういうことだろう……フーカさん。すごい険しい顔してた)


 いつにもなく真面目な表情だったフーカを思いながらサクラもワープクリスタルに触れる。

 目の前が光に包まれて、気づいた頃にはダンジョンの前に立っていた。


 だが、すでにフーカの姿はそこから消えていた。










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