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バイク好き少女のVRMMO  作者: 東風 とうふ
第一章:始まりのA
13/30

10:バイク少女とダンジョンの町

ブクマ数100超えました。嬉しい!

あと評価してくださった方が9名もいらっしゃるようです!

皆様、本当にありがとうございます!!満足のいける作品が書けるように一層がんばりますね!







 次の日。学校から帰ってきた桜花はベッドの上でVRヘルメットを手に持って眺めていた。あの後、しばらく話し合って自然に解散となり、先にログアウトしたのだった。


 学校では、雪那に昨晩の冒険とフーカに助けられて共に過ごしたことを話していたのだが、妙に楽しそうに聞いていたのが印象的だった。


 雪那はまだ用事で合流出来ないらしい。曰く、「あたしがいない間はフーカさんとやらと遊べば?」とのことである。


(フーカさん、いるのかな……)


 目つきの悪い、けれども優しげな緑髪エルフの横顔を思い出す。


(お礼、しなきゃね)


 笑みを浮かべながらヘルメットを被り、横になる。桜花の意識はすぐにゲームの世界へと飛ばされた。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





「ま、いる訳ないよね……」


 ため息交じりにつぶやいた。

 野営地には既に人気はなく、昨晩二人が囲っていた焚き火は燃え尽きて白い灰となっていた。


(そりゃそうだよね、あの時もう結構遅かったし)


 このゲームにおいて1日は4時間で、そのうち1時間が夜となっている。

 昨晩、桜花がゲームを始めたのは夜8時を超えていた。つまりフーカとサクラが出会ったのは午後11時を過ぎた辺りだったのだ。


 現在、午後4時半。ちょうどゲーム内では朝日が昇ったところだった。


「仕方ない、一人で遊ぶか……何しようかな」

「よお、おはよう。いや、もうすぐこんばんはか?」

「うわ!?」


 野営地を後にしようと振り向いた眼の前にエルフがいた。


「うお、そんなびっくりするなよ。こっちが驚いたじゃねーか」

「いや、いるとは思わなくて……お早いですね?」

「悪いか? お前こそ早いじゃん。部活とかやってねーのか?」

「はい、帰宅部なんで……って、なんで高校生だって知ってるんですか!?」

「いや高校生なのは今知ったけどよ。まあ、わざわざバイク乗りにゲームするなんて金に余裕がないか、校則で禁止されてる学生くらいだと思ったからな」

「たしかに」


 あっさりと素性がバレた上に要らぬことまで自白してしまうサクラ。今度からは気をつけようと心に誓うのであった。


「でもバレたのがフーカさんで良かったです」

「なんで?」

「悪いことをしなさそうだから」

「……あんまりネットで会った奴を信用すんな。気をつけろよな」

「はい。このゲームだとまだフーカさんしか友達いないので以後気をつけますね。」

「……あっそ」


 赤い顔してプイっとそっぽを向くフーカ。顔を見合わせないように斜めを向きながら、やや強引に話を切り出した。


「……んで、今日はどうするんだ? 転移結晶があるとこまで送ってやろうか?」

「あー、いえ、いいです。このへんでモンスターを狩ろうかと」

「金のために?」

「はい、この辺のモンスターは強そうなので、お金もいっぱい手に入るかと」

「ふーん。でもモンスター狩りで金策は正直効率が悪いぞ」

「そうなんですか?」

「ああ、それよりもっといい金稼ぎがある」


 さっきとは一転してフーカが真面目な表情になった。


「……なんですか?」

「教えてやろう」


 サクラは秘密を聞くみたいに緊張しながらも尋ねた。

 対するフーカは口角を上げて答える。


「ダンジョン攻略だ」





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 アリストレア近くのダンジョン『大蜘蛛の樹洞(じゅどう)ラクネア』

 そこはゲームを始めてから最初に行けるダンジョンなだけあって多くの冒険者が集っていた。それだけではない。冒険者たちに物を売る者、物を集める者、彼らを守る者たちが自然と集まって一種の村のようなものができたのだ。

 プレイヤーたちはそんな場所をこう呼ぶ。『ダンジョン(まち)』と。



 サクラはフーカに連れられてラクネアのダンジョン町に来ていた。


「すごい! 人がたくさん! お祭りの出店みたい!」

「そうだろ? 普通はみんなここに来るんだ」


 ラクネア周辺はプレイヤーたちが勝手に出した露店で賑わっていた。

 生産職の商人たちが、これからダンジョンへ挑もうとする新人たちへ自分の商品を買わせようとアピールする声がそこかしこから飛び交っている。


「目的はあのでっかい樹だ。あれがダンジョンになってる……サクラ?」


 人混みの中、指をさして案内していたフーカだが、さっきまで横にいたはずのサクラがいなくなっていた。


「サクラ! おい、どこだ! どこ行った!?」

「あ、フーカさん。ここです! それより見てくださいよこれ! 可愛いですよ!」


 サクラはいつのまにか近くの露店で品物を見ていた。どこから持ってこられたのか、机の上にはクラフト機能で作られたと思しき髪飾りが並べられていて、店員の女プレイヤーがニコニコと笑顔で応対していた。


「はぁ…お前は子供か……さっさとダンジョン行くぞ」

「これください」

「500ガルです」

「はい、これで」

「ありがとうございます!」


「……買ったのか!?」

「駄目でしたか?」

「いやいやいや、バイク買うために貯めてるんだろ!? こんなとこで使うなよ!」


 まさかの散財にフーカが思わず声を荒らげる。サクラの所持金は1200ガルほどである。そのうちの500を、しかも装飾品に使ったのだから無理はない。


「バイクには乗りたいけど、これも必要かなって」

「いらねーだろ!! いちいち欲しいもん買ってたらいつまで経ってもバイク乗れねーぞ!!」

「そ、そんなこと!」

「そうだろうが! 昨日あんなにオレを熱くさせたのにその程度なのか!」

「ち、ちがっ」

「もう知らん!! お節介焼いたオレが馬鹿だった」


 ひとしきり怒号を飛ばしたフーカはサクラに背を向けズカズカと歩きだそうとした。


「待ってください!」


が、割と高いSTRを持つサクラに引っ張られ、うおっ、と声を漏らしながら止まった。


「んだよ……」

「違うんです。これ、フーカさんに似合うかなって思って」

「え!?」


 サクラの手のひらには桜の花を模した髪飾りが。

 そう、さっきの露店で購入したものである。桜花はログインしてからずっとお礼のことを考えていた。そこで目に入ったものがこれだった。


「絶対似合いますよ」

「いや、そんなオレには……」


 途端にしおらしくなるフーカ。琥珀色の瞳が右へ左へ揺れ動く。


「昨日のお礼です。あのときは本当にありがとうございました」

「だからいいって言ったのに……」

「駄目です」

「それになんの戦略価値も……」

「MPちょっと上がるみたいですよ」

「いや、あの、えっと……」

「はい、どうぞ」

「あっ……」


 サクラがたじろぐフーカの手に花の髪飾りを握らせる。すると、髪飾りは光になってフーカのインベントリへと収納されていった。


「…………その、さんきゅ……」

「こちらこそ。それ着けたフーカさん、絶対可愛いですから」

「――っ!! もういい!!」


「ああ! 待ってください! 着けてるとこ見せてくださいよ!」


 尖った耳まで真っ赤になったフーカは、今度こそサクラに背を向けて大股で歩きだした。

 結局、ダンジョン前まで一言も喋らなかったし、サクラと一回も目を合わそうとしなかった。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「ついひゃ、着いたぞ。ここが『大蜘蛛の樹洞(じゅどう)ラクネア』」

「……噛みました?」

「噛んでないッ!!」


 二人の目前にはビルほどもあろうかという大木。巨木に似つかわしい巨大な枝にはこれまた巨大な蜘蛛の巣が張られており、名前の通り『大蜘蛛』の存在をありありと語っていた。

 しかし、あくまでこれは外見の話。本当の主役は木の根元にぽっかりと空いた樹洞。

 まるで怪物が口を開けたように開くそれは、不気味に、暗く、財宝を求める獲物たちを今か今かと待ち望んでいた。



「じゃあ、行きますか」


 サクラはその深淵に足を踏み入れた。








 

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