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バイク好き少女のVRMMO  作者: 東風 とうふ
第一章:始まりのA
12/30

9:ヤンキーエルフさんとバイク馬鹿

VRMMO日間ランキング25位になりました。

皆様ありがとうございます












「ごちそうさまでした。……あの、これ少ないですけどお礼です」

「いらねぇよ」


 サクラは借りたナイフを返すと同時にバイクのための資金をすべて出したが、エルフはきっぱりと断った。


「これだけじゃ足りませんか?」

「ちげぇよ。肉くらいいくらでも穫れるからいらねぇんだ」

「困りますよ。お祖父ちゃんが言ってました。『借りた恩とスパナは絶対に返せ』って」

「なんでスパナ限定なんだ」

「マイナスドライバー返すの忘れてたときも怒られたので、工具全般って意味だと思います」

「いや、そうじゃねぇ。借りた物は何でも返せよ……」

「はい、だから返します」

「いらねぇって! ナイフは返してもらうけどよ……そういやお前、なんであんなところにいたんだ?」


 謝礼をかわすためか、エルフが強引に話題を変えた。

 サクラは困った顔をしながら、質問に答えた。


「はい、強いモンスターを求めて草原から森に入ったのです。それで出会ったイモムシさんを追いかけて、気づいたら目の前にカマキリさんが……」

「……ちょっと待て、草原から森に入ったって言ったか? まさかアリストレアから歩いてきたのか!?」

「はい、意外に距離があってびっくりしました」

「意外にって、お前。一時間はかかるぞ! おかしいとは思わなかったのか」

「歩くのも好きなので別に……」


 エルフの表情が驚きから困惑、そして深い溜息とともに呆れへと移り変わった。


「なんかおかしいですか?」

「……普通のプレイヤーは歩いてこの森まで来ない」

「じゃあどうやって?」

「転移結晶だよ。この森の真ん中にダンジョンがあって、そこの前にワープできる装置があるんだ」

「ええ!?」

「ええってお前、チュートリアル受けてないのか?」

「はい」

「ははっ」


 溜息を通り越して乾いた笑いしか出ないエルフ。

 それでも美人なのに不機嫌そうな顔に、笑みが浮かぶのを見てサクラは安堵した。


 焚き火に晒された横顔がさらに追求の口を開く。


「なんでそんなことしたんだよ?」

「バイクが欲しかったんです。でもお金が足りなかったのでモンスターを倒して集めようかと」

「バイクだぁ!?…………ピンク頭、バイク……まさか槍」

「え、ヤリ?」

「い、いや!! なんでもない!! で、どうしてバイクなんか欲しいんだよ」

「やっぱりバイクってかっこいいじゃないですか。……もしかしてバイクはお嫌いでしたか?」


 サクラが不安げな表情でエルフの顔を見つめ返す。自分が不快な話題を出してしまったのではないかと心配になった。事実、バイクが嫌いな人も少なくはない。

 しかしエルフは、


「き、嫌いじゃないけどよ…………でもよ、バイクなんて冬は寒いし、夏は暑いし、オシャレはできんし、事故ったらタダじゃ済まない……あんなの、あんなもんはな、バカが、大馬鹿野郎が乗る物なんだよ」


 吐き捨てるように呟いた。


「……そうですよ」

「え?」


 揺らめく炎がサクラの顔をぼうっと照らす。パチパチと爆ぜる薪から出た火の粉が暗くなってきた天へと登っていく。


「お祖父ちゃんが言ってました。『バイクは、バカにしか乗れない』って」

「……」


「昔、お祖父ちゃんの運転するバイクの後ろに乗せてもらったんです。速いし、不安定だし、風は強いし、下見たらすごい速さで地面が流れていって怖いし。倒れたバイクを起こしてごらんって言われたから持ち上げようとしたんですけど、びくともしませんでした。あれ乗る人は間違いなく馬鹿です」


「じゃあなんで」

「楽しかったんです。自分のすぐ横に、壁一枚もないとこに自分が見たことない景色があって、それがビュンビュン流れていって。匂いを乗せた風が心地よかったんです。それにお祖父ちゃんが嬉しそうだったから」


「……そっか。じいちゃんが好きなんだな」

「はい! いつか一緒にツーリングするのが夢でした」


 焼けて炭になった薪が折れて、たくさんの火の粉を散らしながら砕けた。



「……でした、か。自分で乗ったことないのか?」

「ええ、いろいろ都合があって。友達からこのゲームでなら乗れるって聞いたので、それで始めたんです」

「そうか、そんなことのために……」


 それっきり、サクラとエルフの会話は少し絶たれた。

 もうすっかり暗くなった空の下、優しく燃え上がる焚き火だけが(やかま)しく爆ぜていた。





「お前、名前は?」


 沈黙を破ってエルフが口を開いた。


「サクラです」


 サクラが名乗る。


 エルフの表情は出会ったころと違い、だいぶ柔らかなものになっていた。

 軽く吊り上がった口から言葉が紡がれる。


「サクラ、か。ふふっ、そうか。……サクラはバカなんだな」

「はい、友達にもよく言われます」

「バイク、いつか乗れるよ」


 その顔つきは聖母のようだった。


「ありがとうございます。……えっと、エルフのお姉さん」

「自己紹介してなかったか。オレの名は」


 エルフの美女がフードを取る。

 若葉のような緑の髪がこぼれ落ち、陰に隠れていた顔立ちがよく見える。

 切れ長で、火の光を反射する琥珀色の目がサクラの目をしっかり捉えていた。



「オレはの名前はフーカだ」









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