7:バイク少女と緑のアイツ
「ちぇいさー!!」
「キュイー!」
ステータスがアップした結果、サクラの戦闘能力は更に上がり、森までの道中のモフィロンを一撃で屠れるレベルにまで達していた。
「ふう、これで所持金は1732ガル。残りは……考えたくないね……」
60万まで残り59万8268ガルである。
一時間ほど歩いているうちに、サクラは森の入口へとたどり着いた。森は周囲に他のプレーヤーの姿も見えず、薄暗く口を開けている。
「ちょっと不気味だな~。でもこういうところのほうが強いモンスターがいそうだよね」
サクラは警戒しながらもどんどん奥へと足を踏み入れる。
その時、道の端の草むらがガサガサと蠢いた!
「!! 出たなモンスター! バイク購入の資金にしてやる!」
ファイティングポーズで待ち構えるサクラ。
そこに現れたのは人の足くらいの大きさを持つ芋虫! 苦手な人が見たら卒倒してしまうだろう。
シャクトリムシのように這いながら、わざわざ道の真ん中まで来ると真ん丸で黒い目をサクラに向けた。
「さあ来い!」
「……」
「またカウンター警戒するタイプ? そんなことしないから!」
「……」
芋虫はサクラを見つめたまま動かない。警戒しているのか、妙にプルプルと小刻みに振動している。
「あれ、もしかして敵じゃなかったり? 怖がってるのかな?」
そう考えたサクラは構えを解いて芋虫に近づく。芋虫は歩いてくるサクラをじっと見つめていた。
「ごめんねイモムシさん。私はただバイクが欲しいだけなんだ」
「ピー!!」
「うわっ!」
サクラがしゃがみこんで触れようとした瞬間、芋虫は甲高い鳴き声を発しながら白い粘着性の糸を吐き出した!
驚いて仰け反ったせいで尻もちを着いたサクラだが、糸の直撃だけは免れた。
「びっくりした……ってどこ行くの!? 待って!」
芋虫はサクラが呆気にとられている間に急いで地面を這って藪の中へと隠れてしまった。
急いで後を追うがちょうど顔くらいの高さに密集した木の枝が行く手を阻む。
「むぐぐ、枝が邪魔……ってのわっ!?」
顔を両手で守りながら進んでいくと急に開けた場所に出たようで、勢い余って何かにぶつかってしまった。
感触からして少し柔らかく、サクラの体当たりを受けて少し動いた。木ではない。人だろうか?
「ごめんなさい、モンスター追いかけてたら草むらに入っちゃ、って、えぇ……」
サクラが謝りながら顔をあげると、成人男性くらいの大きさのそれも首を回してサクラの方を向いた。
緑の身体に四本の足、そして両手に大鎌を持ったそれは、
――人間大のオオカマキリだった。
「あー、どうも。こんにちわ」
もしかしたら会話できる存在かもと淡い期待を持って挨拶を投げかけてみる。巨大カマキリはこちらに正面を向け、身体を揺らしてサクラを無言で見つめた。
(そういえば、NPCなら敵も味方も頭の上に名前が表示されるよね?)
そう思ってカマキリの頭上に視点を向ける。たしかにそこには名前が浮かんでいた。
『デスオオカマキリ Lv63』
「レベル63!?」
「キシャー!」
「わわっ!!」
サクラの声に驚いたのか、巨大カマキリことデスオオカマキリは一メートルはあろうかという刃物みたいな大鎌を振り上げて威嚇のポーズをとった。そして一気に距離を詰めて鎌を真横に薙ぎ払った!
「ひいっ!!」
悲鳴を上げながらしゃがんで回避する。頭の上すれすれに鎌が走って後ろの木が音を立てずに切れた。
「ちょっとこれはまずいなぁっ!!」
バキバキと音を立てながら崩れてきた木をローリングしながら避けつつ、カマキリから距離を取る。
カマキリはボクサーのように狙いを定めながら近づいてくる。
「やるしかない! 【カウンター・セブン】!」
サクラの身体に稲妻が走る。
と同時にカマキリが両鎌を振り上げて跳びかかった!
「キシャッ!!」
カマキリの二連撃!!
サクラはステップでギリギリ避けると、その勢いで身体を空中で回転させた。
「食らえっ!」
モフィロンの動きを参考にした飛び回し蹴りだ!
雷のエフェクトが付いた蹴りがカマキリの頭にクリティカルヒットする!
「どうだ!?」
たまらず仰け反ったカマキリだが、頭だけをこちらにゆっくりと回転して戻した。
HPバーもほとんど減っていない。
「駄目か!」
「キシャァァァ!!」
獲物の反撃に怒ったのか、カマキリは更に鎌を振り回す! サクラにはそれをただ避けることしか出来ない!
「このままじゃやられる! どこかで反撃を!!」
鎌の連撃を避けながら隙を伺う。その時、大きく振り上げた右鎌が空を切ってカマキリのバランスが崩れた!
「今だ!」
そこにすかさず蹴りを叩き込む!
――しかし、それはデスオオカマキリの戦略だった。
カマキリは上半身だけを器用に動かすと、サクラの全力キックをいとも簡単に避けてみせた。
(マズっ!!)
そう思うもつかの間、左の大鎌がサクラの身体を捉えた。
「ぐはっ!?」
木のように真っ二つにはならなかったが、潰れたカエルみたいな嗚咽を上げながらサクラの身体が吹き飛ばされる。
宙を浮いて地面に激突したサクラのHPは一気に減って、もう10くらいしかない。
「やばい、死ぬ……」
初めての死を感じたサクラに、カマキリが腕を舐めながら近づく。
そして両鎌を振り上げ――!!
「伏せろ!!」
「!!」
ハスキーな女性の声。
サクラがその警告に従って身体を丸めると、風を切りながら二本の矢が飛んできた。
「キュビッ!?」
獲物を前にしていたデスオオカマキリだが不意の攻撃に気づき、まるでハエを追い払うように鎌で矢を切り落とした。
だが、どこからともなく現れた三本目の矢が見事に左目に突き刺さり、苦悶の声を上げた!
「キュビァァァ!!」
「【加速】!!」
森の中から緑色のフード付きマントを被った人物がすごい勢いで飛び出してきたかと思うと、サクラの身体を抱きかかえた。
「キシャァァァァァ!!!」
しかし獲物を奪われて怒り狂ったカマキリの大鎌が二人を襲う!!
「ちょっと飛ぶぞ、【跳躍】!!」
「え……うわっ!!」
鎌が二人を切り裂く寸前、サクラを抱えた緑の人物の身体が木より高く飛び上がった。
「うわああああ!!!飛んでるぅぅぅ!!!」
「うるせぇ!!」
「ひっ、ごめんなさい!!……え!?」
とっさに謝るサクラ。だが、助けてくれた人物の顔を見て言葉を失った。
風でまくれたフードから現れたのは、端正な顔立ちと綺麗な新緑色の髪、そして、
「エルフだ……」
長く尖った耳だった。
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