6.終活開始
「うぉぉぉぉ!!」
ぼくは森の中を走っていた。
「フッフッフ、もう逃がさない!」
[ぎゅるぅぅぅぅ]
逃げようとする森にいたモンスターを追い詰める。
「さぁ、ぼくに攻撃しろ! その牙と爪でぼくを斬り裂け!!」
「そんな無茶だよ〜コル君。ステータス見てみなよ」
[ピコ〜ん]
===ステータス===
■フォレストラビット(2)
・種族:魔獣
・レベル.4
・体力:F 魔力:C 精神力:F パワー:D スピード:C 運気:F 器用度:D
・スキル
E:『気配察知・小』
「掛かって来いって、何もしないから!!」
[ぎぇぇ!]
うわ、ぶつかった拍子に倒してしまったようだ。
「ああ、ひどい。ちょっとかわいかったのにぃ!!!」
「だめだ、モンスターじゃ相手にならない!!」
追撃隊が来るのを待っていたけど来ない。
そこで森にいることをこれ幸いと、モンスターに襲ってもらおうとした。
だが、ぼくはモンスターに避けられる。多分ゾンビだからだ。
ならばと、逆に襲わせようと試みたが、これも良くない。
反撃してないのに、ぼくに攻撃すると自滅してみんな死んでしまう。するともう要らないのに『スキル強奪』が発動する。
《『スキル強奪』成功 スキル『気配察知』を獲得》
はいはい……もういいよ。
===ステータス===
■コルベット・ライソン(享年17)
・種族:アンデッド
・職業:ハイゾンビ
・レベル.90
・体力:A 魔力:A 精神力:A パワー:S スピード:S 運気:F 器用度:S
・スキル
SS:『スキル強奪』
S:『言語マスター』『オートスキル』『経験値倍加』
A:『ステータス確認』
B:『治療・中』『斧・中』『火耐性・小』
C:『☆体温調節』『格闘・初』『投げ・初』『短剣・初』『筋力向上・小』『飼育・中』『栽培』『裁縫・中』
D:『☆嗅覚向上・小』『☆視覚向上・小』『☆聴覚向上・小』『投擲・初』『弓・初』『調理・中』『掃除・中』『調合・小』『解毒・初』『採掘・中』『採取・中』『伐採』『精肉・初』『革加工・初』『算術・初』『速記』『校正』
E:『☆気配察知』『☆威嚇』『発声・初』『看病・初』『採石・小』『解体・初』『釣り』
『体温調節』『嗅覚向上・小』『視覚向上・小』『聴覚向上・小』『気配察知』『威嚇』を新たに習得した。普通だったら五つもスキルがあるだけで喜ぶべきだけど今はどーでもいい。
レベルまで上がってしまった。
これでは本末転倒。
よし、次だ。
「ねぇ、コル君、お腹空いたよう」
「ぼくは空いてない。ゾンビだから」
でも身体は腐る。醜い怪物になる前に何とかしないと。
ということで、試すのは火だ。
「お肉焼くのね」
「いや、焼くのはぼくだ」
ゾンビと言えば火に弱いイメージ。でもスキルに『火耐性・小』がある。半端な火では効果は期待できないだろう。
ぼくは倒したモンスターを解体、加工して肉から油を抽出した。『解体・初』『精肉・初』がある上、器用度はS。食堂で下働きしてた時にもやったし楽勝だ。
《スキルが上達しました 『解体・初』から『解体・中』へ》
《スキルが上達しました 『精肉・初』から『精肉・中』へ》
なん……だと?
安易にスキルを使うと今度はスキルが向上するのか……
「うわぉ、きれいに捌くもんだねー! じゃあ、これ焼くね!!」
勝手にどうぞ。
ぼくは抽出した油を全身に浴びた。
「コル君、止めときなって。オチが読めるよ」
「オチってなんだよ! ぼくは真剣なんだ!!」
どうせ焼けただれているんだ。今更躊躇してどうする!!
思い切って焚火に脚を突っ込む。すると炎が全身に駆け巡る。
「ぐわあああああ!」
よし、効いてる効いてる!!
《スキルが上達しました 『火耐性・小』から『火耐性・中』へ》
のぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!
鎮火、確認、ノーダメージ。
「コル君、サービス精神旺盛だね」
「はぁっ!!」
ゾンビにも羞恥心はあるようだ。
前を隠した。
一先ずモンスターの皮を加工して服を作ることにした。ゾンビは寝ないから夜なべしても問題ない。
《スキルが上達しました 『革加工・小』が『革加工・中』へ》
《スキルを獲得しました 『服飾・初』》
もういいってば!!
◇
夜が明けて、強いモンスターを探しに森をさまよった。
《スキルが上達しました『気配察知』が『索敵』へ》
これは助かります。ありがとうございます。
ぼくはモンスターが多い方へと進む。自称女神も付いて来る。
レベルが1でステータス補正がなく、スキルが無いのに、補正Sのスピードに難なく付いて来る。
本当に女神なのだろうか……?
いや、待てよ。
「ひょっとして、あなたは召喚された異世界人ですか?」
「……ほう」
魔王軍に対抗するため、異世界人を勇者として召喚している、と聞いたことがある。
彼女はにやりと笑った。
「その人並外れた身体能力、ゾンビであるぼくを前にその余裕」
「フフ……」
初めて見せる反応だ。まさか勇者?
「それに決定的なのは、時々口を突いて出てくる謎のワード。『言語マスター』でもわからない概念は異世界のもの」
「名推理だね」
よし、謎は全て解けた!!
「つまり、あなたは勇者として召喚された、異世界人だ!!」
「よっ、名探偵! 大外れでーす!!」
「うぉぉい!! 何なんだよ!!」
途中まで当たってる風だったじゃないか!
テンション上げちゃったよ、恥ずかしい!!
「でも、まぁ、考えていればいつか当てられるよ」
「今、女神ではないと認めた!?」
「誘導尋問は違法です、裁判長!!」
などとふざけていたら
森を抜けてしまった。
「イェーイ!! 村だ、村だよね? 村!!」
「見ればわかるよ」
「スローライフ?」
「ノーサンキュー!」
はしゃぐ自称女神を横目に、ぼくは整地された地面を進んだ。
よし。
「う゛ぼお゛ぇらぁぁぁぁ!!」
「うぇぇ、びっくりした!! なにしてるの、コル君?」
モンスターがだめなら、人だ。
人に退治してもらう。
ぼくはゾンビだ。ゾンビになりきる!!
「うぉ、なんだお前ぇら!! ふざけるんじゃねぇ!!」
「「すいません」」
怒られてしまった。
◇
「まったく、近頃の若い奴は遊びとやっちゃいけねぇことの区別もつかねぇと来た!!」
「はい、ごめんなさい」
「ただでさえこっちは気を張ってるんだ。間違って弓でも食らったら死ぬぞ」
はい、そうしていただこうかと思ったんだけど。
この顔、まだ、人間に見えるみたいだな。
「ねぇねぇご老人」
「老人じゃねぇわ! まだ40代だわ! まぁ別嬪さんだから許すけども!!」
「この村ってなんでこんな……辺鄙なとこにあるの?」
「姉ちゃん、言葉選べねぇのか! と言いてぇとこだが、まぁ、住みやすくはねぇ。だが、森にモンスターが溢れるようになったのは最近のことだ」
そういえば、『索敵』でモンスターがたくさんいる方へ来て、村に行き当たった。この村、モンスターの縄張りの中にあるのか? 全然スローライフじゃないじゃん。ハードサバイバルじゃん。
「領主がモンスター退治の資金を、なんだかんだと御託並べて縮小したせいだ。ここ数年、間引かれることなくモンスターは増え続けてやがる。冒険者ギルドに頼んでも討伐依頼の受注は増えて、討伐数も前より上がったというが……」
また領主か。
ロクでもないなぁ。
あれ、でも待てよ。ここで待っていればモンスターは勝手に村にやってくるってことだよね。
「あの、ぼくら、ここにしばらく泊めていただけませんか?」
「お話、聞いてたか、ボウズ? モンスター、多い、ここ、危険、わかる?」
「はじめてのお泊り!!」
「いや、姉ちゃんもなんでワクワクしてるの!! まぁいいよ、かわいいから」
こうして、ぼくらは村に滞在することになった。
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