5・5.とある冒険者の悔恨
幕間です。
コルベットと死神が森に発ったころ。レクサスの街は混乱を極めていた。
処刑広場でのなぞの大量死。処刑した罪人の死に戻り。
危険なスキルが関わっていることはすぐにわかる。
だが追撃を試みようとした憲兵隊、神殿騎士、冒険者バズを、各組織が止めた。
憲兵隊は事態収拾のため。
『リベンジャー』の被害者には街の運営を領主から一任されていた代官がいた。また、多くの役人が一斉に死んだため、指揮系統から体制を整える必要があった。
神殿はもっと悪い。
大神官、神官が死亡。その後の対応は神殿騎士たちの現場判断となった。彼ら追撃を試みたが、事はそう単純に運ばなかった。神官の傍仕えがコルベット処刑の経緯を告白。保管されていた禁書=魔本の存在を明かした。禁忌の渦中に置かれた神殿騎士と憲兵たちは領主のスケープゴートとされる運命にあった。彼らは領主と魔本のつながり、そして身の潔白を証明せざるを得ない状況に置かれた。
ゆえに魔本の確保が最優先とされ神殿騎士たちと協力することとなった。
一方、冒険者バズは……
「なぜ、捜索に出てはいけないのですか!?」
「バズ・ア・シェンディム、君を今見失うわけにはいかない。かの謎の少年は君の攻撃をあっさりと受け止めたらしいじゃないかね。君の〝破壊剣〟を粗悪な斧で。さらにもう一人謎の女。神殿騎士、王国騎士、白銀級冒険者に囲まれ逃げ果せた相手だ。一人で行って戻ってくる保証がどこにある?」
「元より、覚悟はできている。あの処刑を止めていれば、悲劇は防げた。ヨウコも死なずに済んだかもしれない」
「そういう事じゃない。君はヨウコの死に責任が無いことを、キチンと王国に説明しなければならないのだ」
「……それは……」
ソロ冒険者バズは若くして熟練以上の力を持つ白銀級冒険者。そんな彼に目を付けたのが、洋子である。
洋子は魔王軍と戦うために王国が召喚した異世界人。つまりは勇者候補。召喚特典として与えられたスキル『言語マスター』、『オートスキル』、『経験値倍加』により、瞬く間にレベルを上げ、パーティメンバーであるバズをあっという間に追い越した。
その勇者候補をあっさり死なせてしまったとなれば、王国はその責任をバズと冒険者ギルドに向ける。
だが、ギルドマスターは憲兵たちや神殿騎士の慌てぶりから、責任の所在をどちらかに丸投げできると踏んでいた。そんな中当事者のバズが追撃に向かって死んでしまえば反論のしようがない。
「最近ではあの森はモンスターが増えて、君でも危険だ。大体一足飛びで街から森へ行ける相手を、あの広大な森でどう探す? 安易に飛び込んでも、困る人間が増えるだけだ。私とかな!」
「……はい、わかりました……」
追撃を禁止されたバズにできることは。彼はあまりにも事の真相から離れ過ぎている。ただ居合わせただけでなにも知らないのだ。そもそも、なぜコルベット・ライソンの処刑を神殿が急ぎ行ったのか。弁明の機会もなく、裁判にも掛けられず、市民権を持つ少年が処刑を強行されるのを街がなぜ許可したのか。
「悪はどっちだ?」
バズは洋子の生前の言動を思い起こした。見て見ぬ振りをしてきたが、確かに彼女の中には悪が芽生えていた。見ず知らずの少年の死を望み、大衆を扇動した、常軌を逸した行動。
スキルの無い少年を寄って集って蔑み、無実の罪で処刑に追い込む観衆。それを画策した神殿と街の役人。
彼は気づいた。権力者たちの不都合を解消することが己の目的ではないことに。
(おれはまず誰と戦えばいいんだろう。おれが求めるものはただの〝真実〟だ。それを知るものはやはり……)
バズはソッと姿を消した。