52.怪物
間が空いてしまい申し訳ございません。
ああ……なんてことでしょう。
コル君がどっかに行ってしまったので、この職人街から北門まで一足飛びできる人が私だけになった。
いやいや、私が運ぶの? この三人を!?
クイールとかいう冒険者。顔パスで説明できた方がいいから必要でしょ。
ロラスは遠距離攻撃できるし、こういうのに慣れてそうだから必要。
アンジェリスは回復と陽動に必要。
オーノー……
「そこの女子たち。私にしがみついて。そこの男子は腕出して」
「はい?」
「こんなときに何言ってる!! 急いで北まで――」
「ルカちゃん、コルベット君がいないんだから意味不明な発言は控えてぇぇえええ!?」
もう面倒くさい。まとめて抱え込んで飛んだ。
「あわわわわ!!」
「ぐぉぉお!!!!」
「きゃあああ!!!」
一足飛びは無理だったわ。
いくつか屋根や壁を破壊したけど緊急事態だから仕方ないよね!
ああ、夜風が気持ちいいぜ!
はい、到着。
「うわわッ!!!! な、なんだ敵襲か!? カワイイな、おい!」
おちつけよ。
「……ちょっと、説明役!」
「はぁはぁはぁ、あおれのことか? ここは北門か?」
「あんた、クイールさんか?」
事情の説明をしている間に周囲を見渡す。
うじゃうじゃいそう。でも、真っ暗で見えないな。
「ロラスわかる?」
「マズイね。見える奴は分かりやすい陽動だわ。ホラ、正面の一団なんて」
ロラスが言葉を詰まらせた。
なるほど、コル君が言った通り失踪した冒険者たちはボロボロになって捕まっていた。
十字架にくくり付けられて運ばれている。人質のつもり?
「あ、あの下種共がぁ!!!」
クイールは兵士が集まる前に門の上から飛び降りた。
「あーあ、じゃ私たちもやりますか」
「降りるのは得策じゃない。この暗がりじゃ同士討ちの危険が……」
「彼なら平気そうだけど……」
その時、空が明るくなった。あれは太陽じゃない。巨大な光の玉が空に浮かんでいる。
「コル君かな?」
「他にいませんよ」
「じゃ、ロラスはここで援護、練習した通りにやろう」
おお、明るくなったせいか、ゴブリンたちは慌てて浮足立っている。さっきは見えなかった奴も丸見えだ。
「あれはゴブリンじゃないね。ハイゴブリンだよ」
「じゃあ……ゴブリンじゃん」
「ゴブリンの上位種だよ。それがこんなにたくさんいるなんて」
ゴブリンに比べてハイゴブリンは魔力と知能が高く、体格も人に近い。
クイールも中々奮戦している。槍を使って器用にハイゴブリンの急所を突いて進んでいる
ロラスの正確無比な矢が人質の周りにいるハイゴブリンを一掃した。すごい早業ね。
お、門番してたおじいさんたち、大丈夫?
無理すんな。
おっと、見てる場合じゃない。私もさっそく……
「あ、しまった」
「どうしました? もう催淫で呼び寄せてよろしいですか?」
「待って、マズイわ!! ここは……」
地面が、ぬかるんでいる。
昨日までの雨でドロドロだ。
こっち、舗装されてないじゃん。門の前はまだマシだけどここで催淫なんてしたら逆効果だし。あっちの丘の方に行かないと。でも、この靴、死ぬわ。
「ルカ様、先に行きますね」
「待って、なんでそんな勇ましいのよ?」
あなたも年頃の女子でしょ! その可愛らしいブーツが汚れても……
は?
アンジェリスのお背中から羽根生えてるんですけど。
飛んでるんですけど。
行っちゃったんですけど……
「なにあれ、パタパタしてかわいっ!」
いや、言ってる場合じゃなかった。
丘にあの子だけ行かせたら死ぬわ。
仕方ない。
あ、そうだ。
ぬかるみに触れないようにジャンプし続ければいいんだ!
昔の横スクロールアクションさながら、敵をスタンプして倒してジャンプ、敵にスタンプを繰り返す。
これだぁぁ!!
迫りくるハイゴブリンを踏み台にしつつ、カルヴァドスで細切れにする。一度に十匹ぐらいは余裕ね。
よし、着地で、首の骨をバキン。
美女に踏まれて死ぬなんて、ずいぶん徳の高いハイゴブリンだったのね。
丘まで周り道しながら、飛んで、細切れにして、着地を繰り返すこと三回で、アンジェリスの元にたどり着いた。靴は!? よし、無事ね!
おお、もうゴブリンが群がってる。剥がし不在のアイドル握手会みたい。
空中にいるアンジェリスに我先にと仲間を踏み台にして手を伸ばしている。
まとめて細切れにしてやろう。本気でね。
「おりゃ!!」
おお、強めに振ってみたらなんか真空の刃みたいのがたくさん飛んで行った。
バコーンと丘が無くなっちゃった。てへ!
「あ、しまった!!」
ああ、着地出来るポイントがない!!
「そんなに気になるようならブーツになされば良いのに」
「ああ、アンジェリスたんありがとう!!」
飛んできたアンジェリスに手を掴んでもらった。適度なところで放してもらい、ひょいと着地ポイント(ハイゴブリンの死体)に着地。人質たちのいるところまで一気に飛んだ。
十字架を足場に足元にいた奴らを一気に片付けた。人質も救出完了……あれ、十三人だ。残り七人は?
「ここにはいないようです」
「コル君の方かもね。仕方ない。アンジェリス、彼らのこと頼むよ」
さすがにアンジェリスの催淫も効果が無くなって来た。
最初は勢いがあった門番の老兵たちとクイールは結構苦戦している。ロラスの援護が無かったら死んでるわね。ハイゴブリン相手に情けない。私が中央を殲滅して混戦になってはいるけど、要は左右にまだ主力がいるから戦闘が継続している。私はその左右の陣営に挟まれている。
でも警戒して近づいて来ない。
なら一気に片を付けよう。
「行けそうかな?」
「はい?」
アンジェリスに聞いたんじゃないよ。
私は鎌を構えた。
「ぶ、武器が……動いて!?」
私が死神だったころ。当然お仕事にはいつも鎌を持って出ていた。相棒と言っても過言じゃない。この相棒は私が人になった時には実体化しなかった。魂を刈り続けたからか、数百年振るい続けたからか、私がカルヴァドスと名付けたからかその鎌は意思を持っていた。
どこに消えたのかと思ったけど、何と言うことは無い。ただ私に見えなくなっただけで相棒は傍にいたのだ。そして、コル君の作ったこの鎌に宿ることで実体化を果たした。
八本の刃が共鳴して音を奏でる。
わかったわかった。
「本気でやろう」
私は今ままでが5とするなら100ぐらいの力で鎌を振るった。
「薙ぎ払え!!!」
左右に残っていたハイゴブリンたちはまとめて消し飛んだ。




