50.光の使者?
グレートファームの内壁。職人街で白銀級冒険者クイールから冒険者捜索を依頼された。
ぼくはスキル併用により、冒険者の居場所を特定した。
同時に、街に迫る脅威も察知した。
「北だ!! ゴブリンが押し寄せてくる!!」
「なんだと!? 北から?」
驚くのも無理はない。
だって、南で三百体のゴブリンを倒したばかりだ。
どうしたって意識は南に向く。ぼくも変異種がいないから警戒してたけど、北は意識していなかった。
「ただのゴブリンじゃない。『潜伏』か何かのスキルで気配を殺してる。たぶん北側の兵士さんたちも気づいてない」
「バカな、ゴブリンがそんな戦略を……!!?」
これはゴブリンか? なんだか動きが洗練されているし、装備も立派だ。おまけに捕らえた冒険者を殺さず人質にしている。このタイミングも憎たらしい。ちょうど調査隊が南に向けて出発した後だ。
棍棒を持ってわめきながら突撃するだけの、今までのゴブリンと印象が違い過ぎる。
もっと高位の種族かもしれない。待てよ……これは!?
ぼくの新たな『検索』モードはさらに不穏な存在を検知した。
「何してるのコル君、急ごう。北に飛ぶよ!!」
「ルカ、そっちは任せていい?」
「いいけど、なんで?」
「山の陰に何かいる」
ルカが前衛、ロラスが後衛、アンジェリスが陽動、これで街に迫るゴブリンは安心だ。
問題は山の向こう側に潜む奴らだ。強い気配が数匹。それにこちら側よりもゴブリンの数が多い?
「戻って来ない冒険者は捕まってる。頼んだよ」
ぼくは城主の街一番の高さを誇る塔へ跳んだ。全方位見渡せる。
そこからさらに上空へと飛んだ。雲に迫るほど高く飛び上がって、目視で山の裏側を見た。
「なんてこった……」
見えたのは焼き討ちされ、炎に包まれる複数の村。ゴブリンの軍勢。
すでに多くの人が犠牲になっていた。
『時間停止』で時を止め、『霊体化』で飛んで、一気に山の裏側へと向かう。
ん、あれは……?
その途中山頂に陣取る一際異質なゴブリンを目視で確認した。さっき引っ掛かった妙な気配の正体はコイツか。
真っ白な肌をしたゴブリンだ。亜種? いや……変異種かもしれない。
色だけではなくその佇まいの異様さ、ゴブリンとは思えない表情を見たからだろうか、一流冒険者のような装備だからなのか、ぼくは全てコイツの差し金だと悟った。
速攻で腰のベルトに差していたガンドールの斧を投擲した。
「おりゃああ!!」
全力だ。凄まじい回転で投げ込まれた斧は白いゴブリンにクリーンヒットし、吹き飛ばした。周囲の木々もなぎ倒して崖の一部が無くなった。
無防備な状態であれを食らったらスキルがあっても関係ない。あれだけやれば倒しただろう。
ぼくはそのまま燃え盛る村に着陸。動きを止めたゴブリンの頭を粉砕していく。
火をつけて回ってるやつ、村人を殴っているやつ、見張ってるやつ、追いかけているやつ、女性を襲っているやつ、赤ん坊を喰おうとしているやつ。
一匹たりとも見逃さない。
同時に襲われ、傷ついた人を『検索』モードで検知し、一気に『治癒』で治していく。
火をどうしたものかと考えけど直感で、魔法で消せるのではと思いやってみたらできた。『火魔法・熟』ともなると大体何でもできるものだ。
襲撃を受けた村は一つじゃない。
約一分で、ぼくは三つの村の火を消し、けが人の治療をし、ゴブリンたちを根絶やしにしていった。
よし、なんとか時間内には済んだようだ。
さすがに消耗したか。一日に二回『時間停止』を使ったのは初めてだしな。
「お?」
『時間停止』を解除すると、悲鳴と怒号、あらゆる叫びに包まれていた村々から、戸惑いと不安の声が聞こえた。炎が消え突然の暗闇にパニックになる人や、まだゴブリンの脅威におびえる人たちもいた。
やっぱり暗闇は怖いか。
ぼくは空に向かってやや大きめのファイアーボールを放った。
空高く上がった火の玉は、太陽の如く、辺り一帯を明るく照らす。村人たちが状況を認識し、落ち着きを取り戻し始めた。
◇
山間にあるおれの村に奴らが現れたのは一瞬のことだった。いつものように穏やかな夕闇だったのに、あっという間に村はゴブリンたちに占領され、抵抗した男衆は殺された。若い娘や子供は連れ去られた。
所詮はゴブリンだと思い最初油断したのが間違いだった。暗闇で始めは分からなったけど、奴らはただのゴブリンじゃない。
キチンと武器と防具を装備して、連携し、戦略的に将の指示に従って動いていた。
その将は他の矮躯とは違っていた。
成人の男と同じぐらいの体格で
おれも初めは抵抗しけどあまりの勢いと容赦のなさに恐ろしくなって武器を捨てた。必死に逃げたが追いつかれ捕まった。
殺される。
そう思ったが、ゴブリンたちはおれたちを捕らえると集めて何か調べていた。信じられないことに奴らの中にステータスを確認できる奴がいたのだ。
どうやら奴らはスキルを持っている奴は殺さないらしく、捕まっても命は助かった。でもそれは安全と言う意味ではない。
「うわぁあ!! やめ、ぎゃぁあああ!!!」
暇つぶしなのか、ゴブリンのゲームなのか、唐突にリンチを始める。
恐怖に駆られて逃げだす者を笑いながら追いかけまわし、捕まえると同じ目に合わせた。
さぁ、逃げてみろ。
そう言わんばかりにゴブリン共は得意げに不気味で汚らしい笑みを浮かべた。
「きゃああ、やめて!! いやぁぁあ、助けて、誰かァァァ!!!」
それにも飽きたのか、女に手を出し始めた。狭い村だ。それが誰の悲鳴かはすぐわかった。彼女の普段の顔が脳裏に浮かんだ。
「いやぁぁ、そんな、やめてぇ!! いやだぁ゛ッ!!! やめ―――」
おれは何もできないのか。
その悲鳴を聞きながら奥歯を噛みしめ自分の無力さに絶望した。
「―――え?」
次の瞬間。
目の前が真っ暗になった。辺りを見渡しても何も見えない。彼女の悲鳴も聞こえない。まさか……死んだのか? いや、おれが死んだのか?
一瞬殺されたのかと思った。どうやらそう思ったのはおれ以外にもいたようで、戸惑いの声があちこちから聞こえた。唐突な変化で妙な気分になった。張り詰めていた空気がフッと消え去ったかのような感覚だ。
おれは生きてる。
ならこれはどうしたことだ?
次に気づいたのは匂いだ。ゴブリンたちのドブのような臭気に交じって生臭い血の匂いが充満していることに気が付いた。
それに煙の臭いが薄くなっていた。
火が消えたのだとそこでようやく考えが及んだ。
でも、村中の火の手が一度に消えることなんてあるのか? そんなことは思いも依らないことだった。
眼が暗闇に慣れないまま辺りを見渡した時だった。
「なん……だ?」
急に空が明るくなった。
じんわりと暖かい光が周囲を照らし、おれはさっきゴブリンに連れて行かれた女性と目が合った。彼女の周りには頭がないゴブリンの死体が散乱していた。
次にリンチに遭った人を見ると、彼らはきょとんとした顔で空を見上げていた。その身体に傷は見当たらない。おれも頭を殴られたが、そういえば痛くない。
同じく周囲にはゴブリンの死体。
ゴブリンの死体。
それはおれたちの近くにいた奴のものも含まれた。
すぐそばでおれたちを監視していた奴だ。いつの間にか死んでいた。どうして気が付かなかったんだ?
絶望的な状況が、唐突に終わっていた。どのゴブリンも頭に風穴が開いて一撃で倒されたのだと分かる。でもそれをやった人を見たものがいない。
おまけに傷が治っている。
同時に消火までしてくれたのか?
あの光は?
この不可解な現象を説明できる言葉をみんな知っていた。でも少なくともおれが心の底から信じたのはこれが初めてかもしれない。
「神様の奇跡だ」
まともに働いたこともなく、盗んで騒いでケンカしての毎日だったおれだけど、助けてもらえた。そのせいか、この言葉はおれの口から真っ先に出てきた。
神様、おれ、真面目に生きます。
◇
かなり離れたところで火の玉を維持する。膨大な魔力の消失を感じた。
でも休んでいる暇はない。他にもまだ潜んでいるかもしれない。
「神様、検索、ゴブリン残党」
《う〜んとね!! 知りたい?》
神様はくりくりした目でこっちをのぞき込むように見上げた。
「あの、問答してる暇は無いんですが」
《私ね、コルのこと好きだから特別にいいこと教えてあげる!!》
「……また、『お願い』を聞いたらと言うやつ?」
甘い言葉の裏には結構えげつない頼みがあるんだよな。前は“五人殺せ”だったし。
《対価の要求は無し。優先目標達成のため敵戦力、および所有スキル、さらに想定される戦略を伝えます》
口調が違う。これは真面目やつだ。
優先、ということは……複合スキル。変異種か!!
神様はスキルのバランサー的役割を担っているらしく、複合スキルを無くすことが最終目標だ。
「あれ、変異種がいるならさっきの白い奴は違うの?」
《先ほどの攻撃は防がれました》
どうやって?
手応えはあったのに。
仕損じた。
ぼくは素直に神様の助言を聞いて山頂付近まで駆け上がった。
更新が遅れてごめんなさい。




