47.試すな危険
ブルーゴブリンの素材を換金して、討伐報酬をもらって帰ろうとしたら、引き留められた。
「待ちな」
「いやだよ」
「えっと」
さっきのオオカミ男だ。名前は確か……。
「『青き虎狼の牙』」
「なんでそっちを覚えるんだよ!! クイールだ!!」
「ダメだよコルベット君、冒険者を相手にし出すと『おう面白そうだぜ、おれも混ぜろよ』って人がどんどん増えて知らない人と関わることになるんだから。本物のプロは藪から棒に話しかけないし、働いている相手を無暗に引き留めないものさ」
「説得力がある!」
「そりゃこの世界長いからね。というか君は経験あるでしょ、ほら最初に会った時も」
ああ、そうだ。冒険者はやたらと集まる習性があるんだ。一度捕まると囲まれる。
よし、無視しよう。
「冒険者は世話になってる街のためなら利害を別にして動くもんだろ!!」
ええ? さっきのロラスの態度を責めてるのかな? いや、挑発だ。
「それは君と、他の一部の冒険者の考えだよ」
無視してないじゃんロラス。
「君がどういう信念の元崇高な働きをするのかは君の自由だ。でもそれを他人に強制してはならない」
「ならあんたはどんな信念で冒険者をしてるんだ!?」
「ただのお金を稼ぐ手段だけど?」
「おれと戦え! アンタのような奴が黄金級なんておれは認めねぇ」
ケンカだ。ああ、ロラスがケンカを売られた。
こういう時、ぼくはどうすればいいんだ。いや決まってる。か弱い女性を……いやロラスはか弱くないけど、困っていたら助けるのが、紳士、ってアンジェリスが言ってた。
「ぼくが相手になるよ」
「戦う気は無いんだけど。時間の無駄だし」
「おれに勝ったら、もう絡んだりしねぇ。だが受けないならもうギルドで仕事は出来ねぇぞ」
「ぼくが相手になるよ」
「君にそんな力があるとは思えないけど。もっと肩の力を抜きなよ。君が冒険者の代表のような顔をしているけど、それは荷が重いでしょ」
「ぼくが、やろうかな〜」
「冒険者は依頼者たちの人生背負って働いてんだ! 覚悟を持って働いて当然だ!!」
クイールは挑発していた時の冷静な態度から一変して語気を強めた。
ブルーゴブリンを倒した英雄ともなると他の冒険者たちは彼の味方のようだ。さっき一人だけ態度が大きかったのは彼がこの街の英雄だからか。
「やれやれ危険だね。今はいろいろできて、その力を使って役に立てるからさぞ誇らしいだろう。分かるよ。使命感があるんだね」
ロラスは優しく諭すように、クイールの眼を見て話し始めた。
「おれたち冒険者がこの街を護った! これからもおれたちで護る。それで、アンタも冒険者だ。ここで勝手は許さねぇ!!」
周囲の冒険者が立ち上がってぼくらを囲んだ。
クイールは得意気だ。
こりゃマズイ。
「ハッキリ言いなよ。私にどうして欲しいのさ」
「南についてこい。大規模パーティを組んで何があったか調べるぞ!!」
掛け声にみんな雄たけびを上げた。
そんなこと勝手に決めていいのかな?
ギルドが決めるんじゃ……、ホラ受付の人がオロオロしてるよ。
「アンタも来るんだ。黄金級がいれば士気も上がる。そうすれば快くアンタを迎え入れる」
「熱いね。でもねー例えばある日、君はいつものように依頼を受けたとするじゃない? まぁ、大した任務じゃないよ。何度もやった任務、知り尽くした場所、それでも万全の装備で行くよね、君ならさ。それで―――」
突然部屋の温度が下がった気がした。
「気が付くと腕が一本消えてるぞ」
聞いていた周りの冒険者を始め、職員の人たち、依頼に来ていた人たち、それにクイール当人から一斉に大きな脈動が聞こえたようだ。全員固まった。
今ロラスがどんな顔をしているのかぼくの位置からは見えない。
「君や、ここにいる者はまだ死んでないだけ。夢やロマンを追い続けるのは勝手だけどそれで生き残るには特権が必要だ。でも君にはまだないね」
「あ、あんたにはあるってのか?」
「ないのさ。だから黄金級止まりなんだよ。私は身の程を知っている。だから持っている人の側で支えになると決めたのさ」
一斉にみんながぼくの方を見た。ロラスがぼくの方を見ているからだ。
「そいつ、さっき何かしただろ。おれにはわかるぜ。いいだろう。ならその特権とやらを証明してみ―――」
「おーいおいおい、ロラス! 遅いよ、コル君を返せよ!! 独り占めするなよ!!」
バコォンとギルドのドアをかっこよく開けてやってきたのはルカとアンジェリスだった。
「いや、違うの、ルカちゃん。ちょっと絡まれちゃって、でも私なりに急いだよ?」
「失 格 っ!!!」
「ひどい! でも何が!?」
「なぜ私があなたとコル君の二人だけで行かせたと思うの? 簡単な精算で戻ってくるだけ。お昼までたっぷり時間がある。戻るまでにその空いた時間でここまで頑張ってくれたコル君にねぎらいと感謝の気持ちで楽しいひと時を提供できたはず。いや私ならできた!!」
「ああ、私は自分のことばかりで、そこまで気が回らなかった。そうだよね、遊びたかったよね……ごめんよ」
ロラスは何で試されているの?
なにこれ?
いや、普通に帰ろうよ。
変な空気になってるよ。
「おい、割って入ってなんだあんたらは?」
「彼の嫁です」
ざわざわしちゃうからやめて。
「その方の奴隷です」
殺意が……すごい。
「悪いが、あんたの夫はおれの挑戦を受けた。黙っていてもらおうか?」
違うよ本気にしないでよ。
「……はぁ? ロラスの知り合い?」
「ロラスわかんない。全然知らない人」
おい。
「ははーん」
たぶん今ルカが思っているような流れじゃないからね。まぁ、ロラスをめぐってぼくが決闘を申し込まれたと思われても仕方ないけどね。
「っ!」
ルカが鎌を出してクイールに向けた。八本の刃が彼の身体の寸前で止まっている。
「負けたら全財産とその腕もらうわよ。それでもやる?」
クイールは全く反応できなかったらしく、青ざめて言葉もなかった。
「ロラス、今度からこうしなさいよ」
「はいぃ~。でも私なりに頑張ったのにー」
怒られてしおしおだ。
うん、まぁロラスはよくやってたと思う。とりあえず頭をなでておいた。
「おい、ま、待て何者だあんたは?」
「だから、彼の嫁」
そこに騒ぎを聞きつけたギルドマスターがやって来た。
「クイール、もういい。状況が変わった。内密に話がある」
「いや、だが……」
「ああ、君たちすまなかったな。街を楽しんでくれ」
そうか、あの人ぼくらを足止めするよう頼まれたのか。だから態度が急に……
でも最後の方は本音なのかもしれない。
使命とか責任が伴うとNOと言えないんだ。気持ちわかります。ぼくもそうだったし。
「さぁ、お買い物にいきましょ!」
「その前にお昼ご飯を食べませんか?」
「ああ、そうだね」
行く先々でぼくらは目立っていた。なるほどこれは無視をするという対処では不十分だ。ナンパがすごい。彼らの眼にはぼくが映っていない。もうルカはカルヴァドスの鎌をずっと出しっぱなしだ。
ナンパ撃退の効果は抜群だった。
空いているお店を探し、さっきあったことを話しながら昼食をとった。
◇
コルベットたちがギルドを出た後、クイールとギルドマスターは再び奥の部屋で城主、軍総督と話した。
「引き留めればいいと言っただろう。状況がハッキリするまで」
「無茶言うなよ、ハイエルフだぜ。学のない子供が切れ者の大人を論破できるか?」
ギルドマスターは騒ぎを咎めた。
「それにできれば実力をこの目で見たかった。気になることもあったからな」
「まぁ、ゴブリン軍は姿を消したようだから、やはり今回は討伐ではなく調査隊を組むだけになった。ほぼ危機は脱したようだ」
城主の使用人が酒と葉巻を持って来た。
城主は酒のボトルを開けさせた。
「気になることとはなんだ?」
総督が酒のグラスを受け取った。
「あいつ、ロラスの隣にいた奴が何かした気がした」
「隣? うーん、ただの奴隷であろう」
「大切にされているようだったな」
「いや、アンタも見ただろう。あのハイエルフに負けず劣らずのいい女があと2人、片方は妻で片方は奴隷だと言っていた。妻の方はたぶんロラスより上だ」
「お、おい……」
クイールとギルマスの会話に軍総督と城主は大きく反応した。
「ほう、ぜひ我が訓練校に招きたいものだな」
「いや、有能な人材なら私がいただく」
二人がいい女という言葉に反応したのは明らかだった。
「一筋縄ではいかないぞ。裏をかいても、地の利を生かしても、正攻法でもだめだったからな」
「だが、あの少年は素直そうだったな」
「うむ、取り入るならまずあの少年か」
「何か特別なスキルをもっているようなことをロラスが匂わせていたし、おれはお勧めしないぜ。とっとと調査隊を組んで南へ―――」
大きな心配がなくなって気が緩んだ権力者たちは酒盛りを始めた。
クイールはロラスの言葉を思い出していた。
「いや、やっぱり調査は軍でやってくれ。おれは必要ないだろ」
「どうした?」
「おれも次は懐柔作戦でいく」
クイールの獲物はロラスからコルベットに変わった。
ロラスの言う特権の正体と自分に足りないものを見つけるために。
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