46.ゴブリン軍
朝、ぼくとロラスはギルドにいた。
「ギ、ギル、ギルマスを呼んで参りままますので少々お待ちくひゃい!」
しゅん。
またぼくのせいかな。受付のお姉さんがすごい慌てている。
「いや、コルベット君のせいじゃないよ」
彼女はぼくの頭に手を置く。周囲から殺意の波動を感知した。
「これはロラスのせいだ」
「ええっ、なんでよ!?」
「お待たせしました、ど、どどうぞ、こちらへ!!」
「時間無いから手短に頼むよ」
通された部屋には三人がいた。
「コルベット君、帰ろう」
「え?」
「まぁ、そう言わずに掛けたまえ」
ソファーの真ん中に座っている人が言った。この人が一番偉そうだ。まるで王様みたいな恰好をしている。
部屋には毛色の違う護衛が何人もいる。
冒険者、兵士、騎士だ。
「ギルマス、軍総督、それに城主が揃い踏みとは不意打ちのつもりかな?」
思わずぼくはロラスを二度見した。
え? 本物?
「し、失礼しました!」
とっさに平伏のポーズをとってしまった。
「ほら、私の友達が怖がってしまったよ。これはあまりにも卑怯だね」
「すまない、こちらから出向かなければ会っていただけないかと思ったものでな。ここには換金で必ず来ると踏んで待っていた」
「換金と状況説明は受付けですれば済むからね、わざわざ来る必要があるかい? お礼も依頼料の振り込みがあればいい。それが習わしだよ。つまり、君たちが揃ってここにいるのは別の理由、面倒事を頼みに来たね」
面倒事?
「貴様、無礼だぞ!!」
騎士が怒鳴った。コワッ! すいません!!
「いやぁ、ごめんごめん。でも……大人同士の話に割り込むなら駆け引きの流れを把握した方がいい。帰るよ?」
「なんだと? なんだその態度は!!」
騎士と兵士が殺気立った。
やめときなよ、ロラスさん! お偉いさんを怒らせたら打ち首……あ、平気か。
いやいや、絶対面倒なことになるよ!!
屋台出せなくなるとか?
あと、嫌がらせされたり……?
「やめとけ、お前たちでは束になっても敵わねぇよ」
「なに!?」
冒険者の一人が騎士と兵士を止めた。
「黄金級はバケモンだ。だが……」
その冒険者はぼくを見ている。痩せたオオカミみたいな印象の男だ。なんだか探られてる?
「本物のバケモノはそうだと悟らせない。能天気そうな顔してても中身は野獣だ」
「こんなかわいい野獣ならいいでしょ?」
ロラスは自分を指さした。
おい、なんだかルカに似てきてない?
「許せロラス、いや『金色たる精霊歌姫』よ」
「やめて、その名で呼ばないで!!」
びっくりした。
突然どうしたの?
「いや、そう構えずに。私たちはこの街の最高権力者だ。数分話を聞いたらいいホテルで豪勢な暮らしができるぞ」
総督の言う通りにすればいいんじゃないか?
別に急いでないし。
「わかった。とても穏やかでいい街だけど、今日中に発つわ」
「ま、待ってくれ! これが卑怯なことは分かっているが、人命に関わることなのだ!」
「ロラス、話しだけでも聞いてあげようよ」
「想像は付くよ。討伐依頼でしょ」
なんだ、そんなことか。なんでだめなんだ?
「ブルーゴブリンには困っていたが、本命は南のゴブリン軍だ」
ぼくが座るとロラスも座った。
「左様、私は軍総督のドルトンと言う。我々の調査では南でゴブリンに変化が起き、その内の一体が変異種と化した。その変異種は他のゴブリンを強化できるらしく、亜種を発生させる。ブルーゴブリンはその変異種が生んだものと推測できる」
やっぱり変異種は増加しているみたいだ。
他のゴブリンを強化できるということは特別なスキル持ちだろう。
「まだいるってこと?」
「ブルーゴブリンは以前倒したのだ。その時の被害は甚大なものだった。なのにまたブルーゴブリンが現れた。変異種を討伐しない限り強力な個体は増える。早急に対処しなければ手遅れになる」
「でもそれは軍のお仕事でしょ?」
「隣のグレートブリッジに軍の救援を要請したが断られた。政治的問題だ。法外な軍の維持費を要求されたのだ。さもなくば作物の税を大幅に下げろとな」
税金が安い方が安く売れるけど城主が取れる税金が減っちゃうということだよね。それは我慢しようよ。
「ここで作られた作物は西の街へ流通する。作物の税は皇帝陛下に治めるだけでなく、この大農地の治水工事の財源でもある。治水を維持できなければ作物の品質、収穫量は落ち、さらに安く買いたたかれ、このグレートファームは死ぬ」
えっと……ロラス教えて。
「税を下げたら安く売れるでしょ。でも安値競争になったら農民も儲からないし、販売数量は変わらず粗利率は下がる。つまり利益は落ちる。利益を上げるためにはもっとたくさん作って売らなければならないから広い土地を持ってる人が有利だね。でも広い農地がある方が質がいいかと言えばそうでもないし、土地が広くなったり、空き地が増えると管理が難しくなる。かと言って管理のために一度下げた税を上げたら反乱がおきる。だから今のバランスはそう簡単に崩してはいけないんだよ」
あ、頭いいー。ロラス頭いいなー、すごい!
要するに、なんか困るんだね。
「要するに脅しなのだ。下らん権力争い。だが宰相に直訴して軍の増員要請をしていたら間に合わん。かと言ってここは新兵の訓練場所だ。頼れるのは冒険者だけ。その冒険者も黒鉄級がいいとこだ」
「おれ以外な」
オオカミ男はそれ以上ということか。
「あの、あなたは?」
「『青き虎狼の牙』でしょ?」
「やめろぉぉ! その名は捨てたんだよ!!」
ロラスと同じ反応だ。あとなぜか他のみんなも何か思いだしたように頭を抱えている。
みんなあるのか恥ずかしい通り名が。はずかしいならなんで通り名なんて付けちゃうんだよ。
「おれは白銀級冒険者のクイールだ。前のブルーゴブリンはおれが討伐した。他の奴らは駆け出しか採取、探検専門で当てに出来ねぇ。軍も派遣されたキャリア組にベテランはいるがじじいばっかだ」
そこへ彗星の如く現れたのが黄金級のロラスと言うわけか。
それはお偉いさんも集まっちゃうよ。しょうがない。
「正直あんたが加わっても勝算があるわけじゃない。だがここを見捨てて逃げた先で楽しく観光できるか? おれは出来ない」
「話は分かったよ。でも仲間と相談させて」
「お願いだ。索敵班によれば勢力は集中し、今夜にも動き出しそうなのだ」
「今夜!?」
ロラスが困った様子だ。ダメなのか?
「せっかくゆっくりできると思ったのに……」
しおしおだ。耳も眉毛も垂れて一回り小さく見えるよ。
今日は雨も止んで、午前中に買い取りを済ませたらお買い物の予定だったのだ。
討伐だなんて言ったら留守番しているルカとアンジェリスもガッカリしそうだ。
確かに『索敵』すると南の方にたくさん集まっている。昨日道でお兄さんが南門を点検するって言ってたのはこのためか。でもたぶん間に合わないな。
仕方ない。これまでロラスには世話になったし、彼女のために時間をプレゼントするか。
『時 間 停 止』
ゴブリンたちのいるところに飛んだ。
ふむふむ。森の中で武器を持ったゴブリンたちが群がっている。300匹ぐらいいるな。
今まで倒して来たゴブリンと違って身体が大きい。
『ステータスオープン』
===ステータス===
■ゴブリン・ソードマン(14)
・種族:魔物
・レベル.18
・体力:B 魔力:C 精神力:C パワー:B スピード:B 運気:F 器用度:C
・スキル
B:『洞察』
C:『大剣・初』
E:『気配察知・小』
===ステータス===
■ゴブリン・タンク(18)
・種族:魔物
・レベル.22
・体力:B 魔力:C 精神力:B パワー:B スピード:C 運気:F 器用度:C
・スキル
B:『盾・中』
C:『耐久力向上・小』
E:『気配察知・小』
===ステータス===
■ゴブリン・マジシャン(16)
・種族:魔物
・レベル.25
・体力:E 魔力:A 精神力:C パワー:E スピード:D 運気:F 器用度:B
・スキル
B:『火魔法・中』『火耐性・大』
C:『風魔法・初』
雑兵でこれか。今までのゴブリンとは違う。
これが街になだれ込んだら大変だ。
今のうちに処理しておこう。
あれ? でも変異種はいないな。みんな緑だ。ステータスも飛び抜けた個体は無い。
まぁいいや、とりあえず攻め込むのは確実だし、淘汰されてもらうよ。
◇
「あの、ぼくも『索敵』を使えるんですが、南には居ないようですよ?」
「なに? そんなはずはない。『索敵』『千里眼』『探知』のスキル持ちが確認したのだぞ」
「ここからは離れているからな。だが、ありがとう、念のため再度確認をさせるよ」
「……スンスン、ああ、なるほどね」
あ、匂いを隠すの忘れてた。ゾンビタックルは封印して投擲で倒したんだけど。
ロラスにはバレたか。
「そういうことだから、もう一度確認して、もしまだそのゴブリン軍があったら呼んでちょーだいな。じゃあ、私たちは大事なようがあるからこれで失礼」
「そ、そんな! これより大事な用とはなんだ!」
ぼくらは足早に部屋を去った。
途中で慌ただしく駆けていく兵士を見かけた。
索敵班も気づいたみたいだ。
でも、変異種は見当たらなかった。『索敵』で見つからないとすればスキルで隠れているのかもしれない。
一応警戒しておこう。
この後コルとロラスでデート???




