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45.グレートファーム



 世界は何やら危機に瀕しているらしい。



 ロンヴァルディア王国が異世界人を召還する度に、モンスターの能力が吊り上がってるからだ。異世界人がもたらす複合スキルが、モンスターにも発現するようになり変異種、亜種と呼ばれる強力な個体が増えている。だが王国は異世界人の召還を止めるどころか、禁書とされるスキルが付与された魔導書を集めている。



 禁書の利用を止めさせようとした神殿で権威を持つロムルスの姫巫女ジアを、王国は反抗勢力として亡き者とした。

 だがその影響からか、ロムルスで封印されてきたデーモンが解き放たれ、街は混乱と火の手に包まれた。


 デーモンとの戦いでぼくは謎のハイゾンビからゾンビニというさらに謎の種族となり、神様が見えるようになった。神様はぼくに勇者と戦う道を選択させようとしたがルカが止めた。


 王国を救うこととぼくの終活は関係ない。ぼくは救世主になるような人じゃなくただの考えて動く屍に過ぎない。


 とはいえ良心からか、ぼくは何かすべきだと思った。ロムルス神殿の禁書庫にあった『勇者召喚の危険性』は世の中の人が知るべきだと思った。ルカの提案はその本を印刷して広めること。

 和睦を結ぶ帝国だけでなく、本という媒体で情報を残していけば周辺各国が非難を浴びせその動きは勇者召喚に依存した今の国家運営の是非を問うこととなる。


 勇者召喚の危険性をジアに訴えに来た魔族国家サイロンのシスター、サキュバスのアンジェリスはその運動に賛同。また、魔王の元へぼくを導くためついて来ることとなった。

 帝国に行くにあたり、帝国出身のナビゲーターがいる。そこにちょうどギルドをクビになったギルドマスターでハイエルフのロラスが同行を願い、受け入れた。

 

 こうしてぼくら四人は聖なる町ロムルスから帝国へ。四日掛けて山を二つ越え帝国の最も東の街グレートファームに到着した。





 初めての国外。見るものすべてが新しい。


「すごい、全部農園だ。広い!!」

「広いね、すごいね」

 

 だだっ広い道を進んでも進んでも街の門にたどり着かない。その間左右には果てしなく畑が広がってる。


「雨なのにぬかるまない道!! 長い!!」

「石畳だね。排水機構もバッチリだね」


 水が溜まらず左右の用水路へ流れてる。周りは土なのにどうして道ごと沈まないんだろう。雨なのに用水路が溢れてない、すごい。

 畑の中に時折家が見える。すごい大きい家だ。貴族の館だろうか?


「この辺りは貴族の家ばかりなの?」

「ありゃ農民の家だ。帝国に貴族はそんなおらん。地方君主や名家はあるがな」

「あれが、農民!?」


 これだけの土地と家を持ってるなら貴族じゃないか。なんで農民なんだ?


「そんな調子じゃ、街に入ったら倒れるぞい」


 だって、すごいものはすごい。

 なんでぼくしか驚かないの?

 ルカだって初めて見るはずなのに、驚いてない。森とか山とか河には驚いてたのに。


 街に近づくと雲に隠れて見えないぐらい高い建物がたくさん建っている。まるで天まで続いているようだ。

 しばらく進んで門のところまで到着した。門番の人たちがぼくらに気づいて職業を当てるゲームを始めた。まだ遠いけど僕には雨音に紛れた会話もばっちり聞こえている。エミリーの荷台には天幕を付けて雨を防いでいるから向こうからはぼくしか見えない。ぼくはおじさんの弟子か何かで、木炭を売りに来たという事らしい。


「よう、おかえりガリウスさん! ちょっと掛け橋の滑車の調子が悪いんだけどさ」

「おう、ボウズ共! 直してほしければさっさとこの荷物を運び入れろい」

「「アイアイ」」


 二人組の制服を着た男がガリウスさんの荷物を後ろから押しに来た。


「よう、お仕事は?」


 一人がニコニコしながら尋ねて来た。ごめんよ。


「料理人かな」

「マジかよ。でも料理人なら炭を焼くよな? な?」

「火を焚くのは料理人じゃなく下働きだろ。ほら、早く出せよ」

「くっそー、今夜奢れよ」

「それじゃあ意味ねーだろ」


 どうやらここの警備はあまり厳しくなさそうだ。

 案の定、荷台から姿を現した三人に、二人の門番は舞い上がっていて、ぼくのステータス確認の時の『改竄』に全く気が付かない。

 よし、今度は問題なく入れそうだ。

 と思ったら、なんか反応した。もしかしてぼくか?


「あ、すいません。たまにモンスター用の結界が素材や具期の魔石に反応して……荷台の中を見せて下さい」


 あぶない、モンスター用に結界なんてものがあるのか。だから警備がゆるゆるなのかな。

 

「はーい、どぞー」

「ああ、やっぱり、犯人はコイツです。これはブルーゴブリンの素材ですね。……ブルーゴブリン!!!」

「お、お、おおい本物か!」


 ふぅ、良かった。ぼくじゃない。あれ? ぼくは今モンスターでもないのか?



「おやおや、もしかして依頼出てたのかい?」

「はいっす! コイツは二、三週間前に目撃されて以来何度か農夫を殺してまして、高額の賞金が出てます。城主様から」

「すぐに来ていただきたいのですが……」


 いきなりこの街のトップに会うだなんて、どうせまたロクなことにならない。

 断ろうと思ったら女性陣が一斉に断ってくれた。

 ルカは買い物が優先。ロラスは早く休みたい。アンジェリスはいきなり伺うのは無礼だからと違う理由だけど。


 こうしてぼくらはやっと帝国に正式に入国した。結構税金取るんだな。早く屋台を出して稼がないと……でも、あれ?


 ここで屋台なんてやらせてもらえるのかな。


 街の中は想像以上にきれいで、住む世界が違う。みんなルカやロラス並みにちゃんとした服を着ているし、貴婦人でもない男性が傘を自分用に差してる。門から少し入っただけで立派な看板の弁当屋さんがある。屋台じゃなく、三階建ての建物の一階が全部お店みたい。それに大浴場なんて平民が利用しないような施設に農夫たちが入っていった。

 

 農夫のおじさんと軍人さんが普通に話しているし、路地裏で談笑している若者が高そうなブーツやコートを着ている。新品だ。

 キョロキョロしてたら通りで座り込んでいる労働者っぽいお兄さんが話しかけてきた。カツアゲじゃないみたい。


「よぉ、坊主、力持ちだな。今度南門で点検作業があるから小遣い欲しけりゃ来な」


 仕事があるの!? ステータスも確認しないのに?


「ガリウスさんの手伝いかい? 偉いね。これ食べな」

「なぁ、坊や、広場の先に神殿がある。辛かったらそこの神官様が相談に乗ってくださる。良かったら付いて行こうか?」


 すごい気を使われてる。ここじゃ大きな荷車を運ぶ子供はいないのか。心配されるのは不本意だけど、いい街みたいだ。


「ぼくそんなにみすぼらしいかな?」

「あと一歩で死ぬんじゃないかとさえ思うくらいだな」

「来る前に言ってよ」

「いや、ほら服の問題よ。明日一緒にお買物しようね」

「うん。着る物にももうちょっと気を使おう」


 でもそう思うのが遅かった。


 街でも一番のホテルに直行したら、宿泊を断られた。ぼくが原因だ。他の客にぼくが泊っているのを見られたら格式が損なわれるらしい。普通なら文句を言いたくなる場面だけど、確かに宿泊客はぼくとはまるで住む世界が違う人ばかりだ。


 仕方ないので近くの普通の宿に泊まった。

 ガリウスさんは納品があるからとそこで別れ、明日鍛冶師を紹介してもらうことになった。


「みんなごめん」

「気にすることないよ」

「入国審査と関税でだいぶ取られたし、逆に良かったかもね。私が前に来た時よりずっと発展してて正直私も戸惑ってるよ」

「それにご主人様が原因とは限りません。問題は私かもしれません」


 帝国は未だに魔族国家サイロンとは敵対している。でもアンジェリスへの視線の多くはそんな感じじゃなかった気がする。


「帝国と言っても思想や文化が地方によってだいぶ違うからね。帝国は昔軍国主義で領土拡大を推し進めていたけど、最近は技術水準や食料自給率を向上させるようになって安定してるから、差別もひどくないよ。税金も平等だしね」


 そういえば、ホテルを出たところで子供がぼくの懐から財布を盗ろうとしたけど、あれはたぶんゲームだろうな。浮浪者って感じじゃなく度胸試しだ。本気だったらルカかロラスを狙うはず。まぁ、ぼくが舞い上がってたから狙われただけかもだけど、レムルスより平和なのは確かだ。

 遊びでスリをしている子供がいたら、縄張りを仕切ってる浮浪児たちから袋にされる。経験があるからわかる。そんな心配もなくお上りさんをからかう余裕がここにはあるんだな。


「そんなことより、浮いたお金でコル君をおしゃれさせようぜ!」


 あ、いやな予感がする。明日からやることいっぱいあるの、みんなわかってるはずなんだけどな……


女子三人、年下の服選び、資金は潤沢=

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